０１：３６　こんばんは。
少し遅れてしまいましたが、シェラ誕おめでとうございます。
そしてカノン・ソナタのお誕生日も。
ファロット家のお花チーム（？）のバースデーを心よりお祝い申し上げます。
愛しい家族たちと、末永く、末永ーくお幸せに。

そしてdiaryの「天使がいっぱい」拝読致しました。
念願の初孫の誕生、とってもとっても嬉しく思います。
ライソナ一子目は「アインス」ちゃんということでしたが・・・、もしかして二子、三子目は「ツヴァイ」「ドライ」なのかしらん。なんて。まさかと思いつつ、大らかなライ&ソナならあり得なくもないかも、なんてちょっと思ってしまった次第です。
とにかくにも。
シェラにはたくさんの「笑顔」のなかでいつまでも笑っていて欲しいのです。そしてヴァンツァーにはたくさんの「優しさ」を。微笑みが少しでも柔らかくなってくれればいい。
そんな思いが橘さまのサイトでは少しずつ実現されていっていて、拝見するたび、いつも幸せな気持ちを頂戴しております。

話は変わりますが、全日本の高橋君のスケートは本当にこの世のものとも思われない出来でしたね。あんなに美しい４×３！！私はテレビ観戦でしたが、それでもこの瞬間に立ち会えたことの歓びが抑えきれずに、高橋君に限らず誰彼となく感謝して回りたいような気持ちになりました。あの会場に居合わせた観客は況んや、ですね。お羨ましい。
個人的には他に、はじめて見ました中村選手の演技が印象的でした。あれはやはりソシアルですよね。一人でリンクに立っているのに、まるでそこにもう一人女性がいるようで、あぁ、この人は今踊っているんだなぁと思って見ておりましたところ、こちらでソシアルダンスへの指摘がありましたので、やっぱり、と得心のいく心地です。

前回に引き続き長文になってしまい、ごめんなさい。
あまりスケートのことなどお話し出来る方が周りにおりませんもので、こちらで話題が挙げられていると、つい。

X'mas寒波の直中、お体にお気を付けてお過ごし下さい。 by 舞


舞様
おはようございます（＾＾）お祝いのお言葉、ありがとうございます。お花チームは、きっと今頃彼氏や旦那様たちに甘え倒していることでしょう。
小ネタは『天使がいっぱい』（その１）、といったところです。その天使にはもちろんシェラも含まれるわけですが（笑）お察しの通り、第一子なので『アインス』ちゃんです。ただ、みんなドイツ語ではなく、色んな言語の数体系のお名前にしようかと。第二子が『ソーン』君（タイ語）だったり、第三子が『サン』ちゃん（日本語や中国語）だったり、第四子が『フィーア』ちゃん（オランダ語など）だったり。ちっちゃい子にわらわら囲まれているシェラというのは、幸せな構図だなぁ、と思って（＾＾）
シェラには『笑顔』、ヴァンツァーには『やさしさ』、そうなんですよ。シェラはどうしても自分を過小評価するので、『こんなにたくさんの人があなたのことを愛しているよ』と気づいて欲しくて。笑顔を向けられたら、笑顔になりますもの！（＾＾）
ヴァンツァーはもうちょっと重症で（笑）あまりにもたくさんのものを奪ってきて、また他人を演じすぎて、『自己』というものが、とても空虚なものになってしまっていたように思います。シェラはとても厳しい人ですが、でもその厳しさは愛情があれば『やさしさ』と同義で、甘やかすわけではなく、虚ろだった彼を包み込んでくれた。ほんのちいさな心の隙間から入り込んだやさしさはやがて彼を満たして、抜き身の刃のようだった男が、他者を思いやれるようになってきました。まー、母性の塊のようなシェラは、まさにマザコンヴァンツァーにはぴったりです（笑）

そしてそして、高橋デー輔！！　普段はとてもオトメンなのに、何でしょうねー、まさに『漢』ですよねー。いやー、ほんと感動しました。解説の本田テケ史君が言葉にならないくらい喜んでいて。「絶対に全日本で４回転跳ばせるんだ」という思いでいた、というのに感動しました。さすがに４－３跳んだあとだと体力的に厳しそうでしたが、どこまでも攻めていく姿勢が素晴らしかった。動画のコメントとかで「さよなら人類」とかいうのがよくあるんですが、確かにもう、人間業じゃない域にまで達しています（笑）しーちゃんも言っていましたが、あれの上を行く演技は、もう考えられないんじゃないか、というくらい、素晴らしい演技でした。さっき動画をiPodに落としましたよ（笑）
中村君、綺麗でしたよね。とても優雅。大輔がラテンのダンサーなら、彼はモダンのダンサー。優雅さというのは、身につけようと思って身につくものでもないので、とても大きな財産であり、才能だと思います。全日本は本当に層が熱くて、国際大会と変わらないくらい見ていてわくわくしますよね（＾＾）

ふふふ。楽しいお話をしていると、ついつい長くなってしまいますね。私もとても楽しいですし、嬉しいので、是非またお声を掛けて下さい。
もうすぐ年末。舞様も、どうぞお身体にお気をつけて。


拍手を下さった皆様、ありがとうございます。今日は女子SPと男子FSですね。楽しみです。お肉ごろごろビーフシチューを作ったので、それを食べながら楽しみたいと思います。

田中くーん！　いいね！！　ジャンプ、着氷後の流れもとても綺麗でした。スピンがちょっと苦手そうですが、これから精度が上がっていけば、レベルも取れるようになってくるでしょう。彼はデー輔好きなのかしら？　何となく、動きがそれっぽい。

うお、なんかちっちゃい子きた！　しょーま君。１４ちゃい、かわゆす。って、うわ、この子身体キレるなー。ループが綺麗でしたね。イーグルからのアクセルも良いですねー。いや、うめーわ（＾＾）スピンも速いし、これでバンバン３回転決めてくるようになったらすごいですね。もっともっとスケーティングスピードが出てくると良いですねー。

日野君、緊張があったんでしょうかねー。着氷がなかなかクリーンに決まらないですねぇ。３Loは綺麗だったんですけどねー、セカンド３回転は、難しいよねー。おぉ、彫りの深い顔立ちだと思ったら、お父さんがロシアン。選曲もロシアンでしたねぇ。まだまだこれからですよー。

おー、もうコヅだ。フリップ綺麗だったー。コヅは３Aちょっと前まで苦手だったけど、最近とても綺麗ですね。さらさら滑ってるけど、これそーとー難しいぞ。やっぱり世界レベルはスピードとテクニックが桁違い（笑）んー、素晴らしい！！スピンは相変わらず絶品だし。素晴らしいな。勝負師の顔だね。いい顔だ。かっけー！！
うむ、妥当な点数ですね。

まっちー。３F-３Tは綺麗でしたねー。『黒い瞳』は、プルシェンコが印象的。身体動いてますねぇ。まっちーのサーキュラー結構好きです。ジャンプがもっと流れれば、より加点がつくでしょうが、いやー、今日のまっちーいいねー。３Aは、たぶんだいぶ高く跳んだんだな、これ。それで、ちょっと着氷が乱れたのかな。いいですよ、若いんだから。

また、ウジテレビがさほど悪くない放送をしているという（笑）なに、このいい子ちゃん放送（笑）叩かれすぎて改心したのかな？　いや、さすがにそりゃねーか。リアルタイム放送出来ても録画な時点でウジですもんね。
それにしても、解説がしーちゃんと本田君っていうのが良いよね。ちゃんと解説してくれる解説（笑）

佐々木君。にんじゃー。この子結構上半身が動くのねー。勢いと、見せ場の作り方はよく知っている子ですね。エンターテイナー系。しかし、フリップで手を上げるってすごい！　ジャンプがガシガシ決まってくれば、上がって来そうですねー。

村上君、よく４回転に挑戦したね。あれ、最初の４回転にコンボつける予定だったのかな？　フリップが単独だったので、コンボがなくなっちゃったね。もったいなす！！　　ちょっと全体的に精細を欠いていた気がしますが、まー、全日本ってレベル高いからなー。ひとつのミスが響きますよねー。

中村君、この子、重心よく取れてるなぁ。普通に滑っているときも、身体の軸がすごく綺麗。ソシアルダンスやってるのかな。滑り出しのホールドの姿勢がとても綺麗で見惚れてしまいました。それだけに、フリップもったいないなー。ルッツはすごく綺麗だったんですけどね。むしろ、アイスダンスやればいいのに。

デー。うおおおおお！！！！！　４－３きた！！　おい、４－３だぞ！！　デーの４－３見たのどれくらいぶりだろ？！　あー、美しい３A！　あー、もー、なんてことをしてくれるの？！（笑）スピンは、ほんと今季良くなったよなー。ルッツも綺麗だし、こーれはすごい。ごめん、すごいしか言えない（笑）笑えるくらいすごい（笑）
ここで決められるというのが、漢ですねー。いやー、かっこいいわ。すごいわ。さすがだよ、大輔！！　スピンの回転速度も、すごい上がったもんなー。あー、もー、素晴らしい！！　これはすごい！！　すごいもん見たぞ、これ！！　おっほ。おっほ。うっほ９６点（笑）あはははは、技術点５０点（笑）あはははは（笑）これは、何の疑問もない点数だわ。っていうか、これを超える演技は、まー、まずないね。PCSも９点台４つですか。そら出るわ（笑）私が知る中で、この演技はベスト・オブ・ベストかも知れない。この演技の動画の再生回数おかしなことになると思う（笑）これはすごかったなー。国際大会じゃないのかー。まぁ、ISUの評価がなんぼのもんじゃい、って感じですが（笑）素晴らしい！！

無良君、これのあとは滑りにくいなー。これは仕方ないなー。３Aは得意な選手ですので、綺麗でしたね。でも、やはりSPでジャンプ２つミスは痛いねー。FSで是非挽回していただきたい！！

ゆづ。んー、惜しい！！　４回転の精度は高いんですが、ちょっと硬くなったでしょうか。４Tが３Tになった分、コンボに３Tつけられないから痛いよなぁ。一番痛いよなぁ。ゆづは、コンボに３T綺麗につけられるもんなー。これが４回転を跳ぶ怖さですね。んー、全体的に硬いなぁ。グランプリのときの勢いが、なかなか見られませんね。本当に、ちょっとしたミスが響くんだよなぁ。

１位のデー、２位のコヅ、３位のゆづでそれぞれ約１０点差ずつ。んー、みんな、明日のFSも応援してるお！！

女子の皆さんは、明日ですね。楽しみです。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「ちぇら～～～！」

たたた、と駆け寄ってくるちいさな天使に、シェラは頬を緩めて手を伸ばした。

「はいはい、アイちゃん。どうしたの？」

やわらかそうな黒髪に藍色の瞳の愛らしい顔立ちの少女を抱き上げ、膝の上に乗せてやる。

「あのね、あのね──はい！」

シェラの目の前に差し出されたのは、ちいさなパンジーの鉢植えだった。
紫と白の花弁が可愛らしい。

「おたんじょーび、おめとーなの！」

一瞬目を瞠ったシェラは、やがてにっこりと微笑んだ。

「ありがとう」

ちゅっ、と頬にキスをすると、少女はきゃっきゃと言って喜んだ。

「あー、アイちゃんシェラさんにキスしてもらって。いいんだー」
「いいでしょー」

ドアから入ってきた長身の青年に、にっこりにこにこと微笑む少女。
その後ろから入ってきた女性を目に入れた瞬間、「ママ！」と歓声を上げる。
シェラが床におろしてやると、たたた、と母親の元へと駆けていく。

「あのね、あのね、ちぇらが、ありあとーなの！」
「喜んでもらえた？」
「うん！！」

きらきらとした笑顔に、ソナタもそっくりな笑みを浮かべた。

「シェラ、お誕生日おめでとう」
「ありがとう。あとで花壇の仲間入りだ」

ふふふ、と穏やかな笑みを浮かべてパンジーを見つめるシェラ。

「──アインス」

低い声での呼び掛けに、少女はぴくっと顔を上げた。

「ホットミルクと、ホットチョコレート。どっちがいい？」

キッチンから顔を覗かせた男に、少女はきゃ～！　とはしゃいだ声を上げた。

「チョコ！」
「分かった」

くすっと笑みを零す男の足元に駆け寄ると、少女はその脚にぎゅっと抱きついたのだった。

「ありあとー、おじーちゃま！」
「・・・だから、せめて『グランパ』にしなさい」

非常に微妙な表情を浮かべた男の言葉に、アインスは「あいっ！」と頷くと元気いっぱいに「おじーちゃま！」と笑顔を向けたのだった。


ソナタとライアンが笑いを堪えているのも、シェラがソファの上で腹を抱えて死にそうになっているのも、ちょっとばかり不本意ながら「まぁ、いいか」と思うヴァンツァーであった。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

ちびっ子かわゆす。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

ジャズの流れる店内は、煩くはない程度に客のさざめきあう声が行き交う。
ダウンライトの明かりが灯された店内には、熱帯魚のいる水槽で仕切られたテーブル席と、カウンター。
足元が危うくなるほどに暗くはないが、隣の席の客の表情までは分からない。
それがまた、どこか秘密めいた雰囲気を醸し出している。

友人から「いい店がある」と言われ、シェラはその日この店に初めて来た。
連れはなく、ひとりきり。
件の友人とは、仕事の都合がなかなかつかず、電話やメールはするけれど、最近会っていない。
今日は何だか飲みたい気分で、雰囲気を偵察がてら店に入った。

躾の行き届いたスーツ姿の男に、カウンター席へと案内された。
ギムレットと、野菜スティックを注文する。
待つ間、そっと不躾にはならない程度に店内を見回した。
仕事帰りのビジネスマンの姿も見られるが、水商売の女の姿もある。
同伴出勤でもするのだろう。
高級クラブの多い界隈だから、そういった客も多いのだろう。

やがて運ばれてきたカクテルを、ひと口喉に流しこむ。
少し苦くて辛い酒は、美味いが頬を緩ませることはない。
そういう酒を頼んでもいない。
瑞々しい野菜を食んでも、零れるのはため息ばかり。

──ふわり、と。

近くを通った香りに、シェラは俯きがちだった顔を上げた。
椅子ひとつ分空けて隣に座った男は、低く、静かな声でスコッチを注文した。
男の、あまりにも淡麗な容貌にシェラは息を呑み、不躾とは分かっていてもじっと見つめてしまった。
さすがに気づいたのだろう、男はゆっくりと視線を流してきた。
薄暗い店内では黒とも見紛う濃紺の瞳は切れ長で、シェラは思わずぞくりと背中を震わせた。
ひと言も発することなく、見せつけるように形の良い唇を持ち上げた男の纏う官能的な香りと美貌に、酒のせいだけではなく思考は鈍っていった。


＋＋＋＋＋

何杯飲んだだろう。
それほど強い方ではないのだが、言葉は多くないのに男の話術は巧みで、会話と緊張で渇いた喉を潤すためにシェラはグラスを重ねた。
ふたりの間に距離はなくなり、肩を並べて座っている。
とろん、と一瞬微睡みそうになって、シェラは緩く頭を振った。
怪訝そうな顔をされたので、何でもないと答えたけれど、藍色の瞳は射抜くようにこちらを見つめてくる。
居心地が悪くなって目を逸らそうとした瞬間を見計らったかのように、ふと男が微笑んだ。
酒なんて一滴も入っていなくても思考を麻痺させるのに十分なほど魅力的なそれ。

「つまらないのかと思った」

そんなことを言うから、慌てて首を振ったら、ふらり、と頭が傾いだ。
反動で男の肩に頭がぶつかってしまって、シェラはちいさな声で謝った。
その表情があまりに必死だったから、男はくすくすと笑った。

「あまり強くないのか？」
「・・・・・・」
「それなのに、結構飲んで・・・」

──悪い子だ。

ささやかれて、かっと頬が染まった。
怒りではない。
耳元の声があまりにも甘かったから、勝手に頬が──身体が熱くなっていく。
きゅっと目を閉じると、さらり、と髪に触れる指先を感じた。
耳まで赤くなっているだろう自分を省みて、ただただ恥ずかしくて首をすくめた。
ゆっくりと近づいてくる体温に、余計肩に力が入る。
くすくす、と。
耳元に吐息が触れて、「やめて」と言いたいのに言えない。
何だか泣きそうになって、シェラはゆっくりと顔を上げた。
じっとこちらを見ている男はやはり見たこともないくらいに綺麗な顔をしていて、胸が高鳴るのを感じた。

──否。

胸よりも、もっと直截的な・・・。
やがて、男はほとんど声には出さず、唇だけを動かしてこうささやいた。


──君を食べてしまいたい。

それもいい、と。
シェラはそう思った。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

ここからは、ちょっとここには載せられない内容（笑）
歌詞としては、この辺。


目を閉じたままそっと 唇近づけて
触れそうな距離のまま 「君を食べてしまいたい」
キレイな声をもっと 聞かせてくれないか?
毒針は糸を引き 「どこに刺して欲しいか言って」


ね。後半半分、ここに書いちゃいけない内容でしょ？（笑）まったくもう、ヤス子ちゃんったら。

あまり喋らず、罠を仕掛けているときのヴァンツァーは、めちゃくちゃかっこいいと思う。
結構自分で張った罠に自分でかかっちゃうからダメなんだよな・・・

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「・・・また、無茶なことを」

静かな口調で呟いた男は、眼鏡の奥の感情の見えない瞳で眼下の男を見下ろした。

「へへっ・・・わりぃ」

声は掠れてしまって、ふたり以外は誰もいない宝瓶宮にもほとんど響かない。
スカーレット・ニードルのアンタレスを撃ちこまれた人間は、こんな痛みを覚えるのだろうか、と霞みそうになる頭でカルディアは考えた。

「心にもないことを口にするな」

硬い口調で話す手厳しい男に、カルディアは心外だ、という顔を向けた。

「思ってるぜ・・・？　お前には、手間をかけて────っ！！」
「喋るな、馬鹿者」

静かに叱咤した男は、カルディアの左胸に右手をかざした。
生身の人間の身体だというのに焼けるほどの熱が手に伝わってきて、デジェルは柳眉を顰めた。
カルディアは、幼少の頃より心臓に重い病を抱えている。
１０歳の頃、もって１年の命と言われたそのときから、随分と月日は経っている。
けれど、病が癒えたわけではない。

「ぐっ・・・ぁ・・・あ、ぁ・・・っ！」

横になったベッドの上で悶絶し、奥歯が折れそうになるほどに強く噛み締めるカルディア。
この燃え上がる心臓の熱と痛みだけが、自分が生きている証拠。
目の前がチカチカして、意識が吹っ飛びそうになる激痛の中、カルディアは唇を吊り上げた。

「へ・・・っ・・・さい・・・っこ、ぅ・・・」

ドクドクと強く脈打つ心臓。
際限なく熱くなっていく身体。
神経はどこまでも昂揚し、激痛に苛まれながらも五感は研ぎ澄まされていく。

「・・・────馬鹿が」

ささやきにも似た声で呟かれたデジェルの声が届いたかどうかは定かではないが、デジェルの右手──つまりは自分の心臓の上に、急速に凍気が集まってくることは感じたカルディアだった。
万物を凍らせる絶対零度に最も近い凍気を生み出すことが出来る氷の聖闘士の力は、制御を誤れば瞬時にカルディアの全身を凍結させる。
しかし、『知の聖闘士』と名高いデジェルは、膨大な知識と同様、己の力についても知り尽くしている。
紅く燃える蠍の心臓に、氷の秘術を施し直す。
注意深く力を制御しながら、デジェルは顔には出さず驚嘆していた。
彼の心臓に術を施すのは、むろん初めてではない──それどころか、もう何度行ったか覚えてもいない。
そのたびに思うのだ。
万物を凍らせる己の力を以って抑えているというのに、燃え上がるカルディアの小宇宙はそれを凌駕し、また心臓に焼け付くほどの熱をもたらす。
もしもこの男が健康な肉体を持って生まれていたら、彼に勝る聖闘士はいなかったかも知れない。

──いや。

デジェルは己の考えを即座に否定した。
きっと、長くはない命だと分かっているからこそ、この男はこうまで熱くなれるのだろう。
短く、激しく、超新星のように。
そのために、女神の血を己の身体に取り込んだのだから。
女神の血は、人間にとっては毒でしかない。
愛と正義を司る神ではあるが、人間とはその身を構成する物質が異なる。
順応すればその血は永遠の命をももたらすだろうが、拒否反応が起これば即座に命を奪う。
それでも、カルディアは女神の血を己の身に受けることを望んだ。

──生きたい。

長いとか、短いとか、そんなことは関係なく、己が『生きた』という実感のためだけに。

「っ・・・は・・・」

ゆっくりと静まっていく心臓の熱に、カルディアの呼吸も落ち着いていく。
ようやく素肌に触れられるほどの体温にまで下がったが、それでも普通の人間にすれば高熱を出しているのと同じ。
女神の血を受けた、頑強な聖闘士の肉体とて、そう楽な状態ではないはずだ。
す、と心臓の真上、カルディアの白い肌に指を触れさせるデジェル。
凍気を纏わせた彼の手は凍りつくような冷たさで、ぴくり、とカルディアの身体がちいさな反応を返した。

「まだ、熱いな」
「・・・へっ・・・その、うち・・・落ち着くさ・・・」

デジェルの手の冷たさにも心地良さを覚えるまでに神経が落ち着いてきたカルディアは、くったりと力を抜いて身体をベッドに沈み込ませた。

「ここで寝るなよ」
「硬いこと言うな・・・って」
「自分の宮に戻れ」
「へっ・・・ひでぇなー・・・ちょっとは労ってくれよ」
「毎度毎度無茶な戦い方をしておいて、よく言う」

嘆息するデジェルに、カルディアは「けどよ」と浅く息を吐き出した。

「・・・これが、最後かも知れねぇだろう・・・？」
「・・・・・・」
「そう思うと、全力じゃなきゃ、悔いが残るじゃねぇか」

重い腕を伸ばしたカルディアは、ぴくりとも動かないデジェルの頬にそっと触れた。

「・・・つめてぇ」

にっ、と犬歯を覗かせて笑むカルディアに、デジェルは「当然だ」という顔をした。

「お前の心臓を鎮めるために、私は戦いのときと同様に小宇宙を高めている」
「へぇ・・・すげぇじゃん、俺」

氷の黄金聖闘士様に本気を出させるなんてさ、と軽口を叩く男の心臓を本気で凍りつかせてやろうか、とデジェルは一瞬考えた。
けれど、やめた。

「・・・ここで寝る気なら、安眠は出来ないと思え・・・？」

キシリ、とちいさな音を立てて寝台に乗り上げるデジェル。
カルディアは一瞬目を瞠ったあと、やはり大胆不敵な笑みを浮かべたのだった。

「・・・────それも、熱くなれそうだな」



＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

今の気分は、糖分よりもえっちぃのがいいです（コラ）カミュとミロだと、ミロカミュ派なんですが、LCだと眼鏡なデジェルに攻めてもらいたくなってしまうような気がしないでもない・・・。