小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
忘れ去られてそうですが。
ヴァンツァーとシェラ、ふたりだけのお話を書きたかったので。とはいえ、子どもたちもいるファロット一家設定です。
仕事の便宜上色んなところに持っているヴァンツァーのマンションに押しかけるシェラでも良かったのですが、友人からネタの提供もあったので船の旅で。
ヴァンツァーとシェラ、ふたりだけのお話を書きたかったので。とはいえ、子どもたちもいるファロット一家設定です。
仕事の便宜上色んなところに持っているヴァンツァーのマンションに押しかけるシェラでも良かったのですが、友人からネタの提供もあったので船の旅で。
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「──・・・約束、守ってくれたな」
水平線に沈みゆく夕日を見つめ、朱金に染まる世界の中でシェラは呟いた。
「叶えたのは子どもたちだが」
からかうようにちいさく笑った男が、細かな気泡の立つシャンパングラスを渡す。
「それに、期間限定だ」
「さっさと引退すればいいんだ」
むぅ、と尖らせた唇をグラスにつけ、パチパチと舌をくすぐる感覚を楽しむ。
ふたりで乗るには大きすぎる船体ではあるが、各部屋にバスとトイレが完備された8つのスイートルームも、ラウンジも、ダイニングもスパも、高級ホテルと遜色ない快適さで、必要であれば給仕や清掃は機械が行ってくれ、不要であれば自分たち以外誰の気配もなくなる。
海面を滑るようにゆっくりと進む船は、動力の音さえしない。
波の音と、互いの声だけがすべて。
「そうだな」
「──え?」
ほとんど冗談のつもりで言ったシェラは、隣に立つ美丈夫の顔を見上げた。
瞬きも忘れてじっと見つめていると、藍色の瞳がやわらかく細められた。
「すぐには無理だが。5年・・・いや、もう少しかかるかな」
手を広げすぎた、と肩を竦めるのを見ても、何も言えなかった。
「何だ? おかしなことを言ったか?」
つんつん、と固まった頬を突かれて、ようやくシェラは細く息を吐いた。
「・・・そう、か」
「思ったより喜ばないな」
瞳を覗き込むようにして見つめられ、シェラは思わず目を伏せた。
「お前は・・・一生働く気がしていた」
「体力があるうちに辞めないと、お前とも子どもたちとも遊べないからな」
「私は子どもと同列か」
「どちらかと言うと子どもたちより手がかかる」
「・・・・・・」
自覚はあるので、シェラはぎゅっと眉を寄せた。
「この船には快適な客室があって、数年分の食料も積み込んであるそうだが、自給自足の生活も楽しそうだな」
狩りや釣りはヴァンツァーが、植物栽培や料理はシェラが。
そんな生活も悪くはない。
「・・・無人島でも買ってくれるのか?」
「ヴィッキーに頼んでみるか。この惑星の一部くらい譲渡してもらえそうだ」
現在は不可能になった、惑星の個人所有。
金を積めば良いだけなら、星ごとプレゼントも出来ただろうが。
朱金に染まっていた世界は、紫から藍、そして紺へと色を変えていく。
デッキのそこかしこに備えられたランプは、周囲の光量によって自然と点灯する仕組みだ。
長方形のプールと円形のジャグジーバスの水面に、照明が反射してきらきらと光っている。
「金銭だと受け取りそうもないから・・・酒か?」
思いを巡らせている夫の横顔を見つめ、シェラはふっと笑った。
「本当に買ってくれるのか?」
冗談めかして訊いてくるシェラの言葉に、ヴァンツァーは首を傾げた。
「金なら使い切れないほどある」
「そういうところがお前のモテないところだ」
「それは何より」
グラスを空けたヴァンツァーは、ボトルから黄金色の液体を注いだ。
「その方がお前も安心だろう」
にぃ、と浮かべられた意地の悪そうな笑みすら魅力的な美貌の男に、シェラはぷぅ、と頬を膨らませた。
「他には何がほしい?」
この男に、金で解決できるものをねだっても仕方がない。
日替わりできるほどの宝石や服も、子どもたちがプレゼントしてくれたこの船よりずっと大きな豪華客船も、宇宙船だって難なく買えてしまうのだから。
シェラは、とぷん、と音がしそうな様子で水平線の彼方に消えた太陽の方向を指さした。
「ほら、日が沈んだぞ。私はお前と違って酒だけ飲むなんて出来ないんだから、さっさと食事なり酒肴なり用意して来い」
沈む夕日を見ながら冷えたシャンパンでも飲みたいと言い出したのはシェラなのだが、悪態をつかれた男は気にした様子もなく、「仰せのままに」と礼をしてデッキを去った。
人間の手で料理ができるキッチンもあるが、ほとんどの料理は端末から指示を出せば自動的に用意される。
この惑星に住人らしい住人はほとんどいないため、寄港して燃料や食料を補充することはできない。
それでもまったく問題ないくらい、長期間の航海に備えられた船だ。
刺し身で食べられる魚はもちろん、牛や豚、ジビエなどの肉類が保管されている食料庫の他、新鮮なサラダも食べられるように、水耕栽培で野菜も育てられている。
それらを使って、三つ星レストランと遜色のない料理がボタンひとつで用意されるのだ。
とはいえ、シェラがどんなものを食べたいか想像してメニューを決めて、料理が用意されるまでの間に相応しい服や宝石を選び、着替えが終わればダイニングへエスコートする。
──あいつ自身の時間を費やすものでなければ意味がない。
ひとりデッキに残されたシェラは、瞬く星と眩い月の昇った静謐な空を見上げた。
「はぁ・・・10日か・・・」
長いのか、短いのか。
それだけの期間、本当に誰もいない場所でふたりで過ごすのは初めてかもしれない。
「・・・あいつ、3日もしないうちに子どもたちを恋しがりそうだな」
ちぇっ、と唇を尖らせて、グラスにシャンパンを注ぐ。
「私以外の名前を口にした数だけ、1カラットのダイヤを要求してやる」
帰るまでに、指輪ができるかネックレスができるか。
「・・・そのデザインを考える時間だって、私のものだ」
ふふっ、と笑い、シェラは月色をしたグラスの中身を飲み干した。
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心の中で数えることをおすすめしますよ、シェラさん。
そうでないと、ここぞとばかりにわざと子どもたちの名前を口にするヴァンツァーさんにイラつくこと間違いなしです。
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