さて。何となくそんなガッ君を見ていたら思い浮かんだので。
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──そう、よく言われる。
「「「おじゃましまーす」」」
元気な声で挨拶をする同級生の女の子たちは、きょろきょろと家の中を見回している。
敷地内に入ったときも、「え、もう家なの?!」と驚かれたが、そんなのいつものことだ。
母屋を前にしてその大きさに黙り込まれ、ようやくいつもの調子を取り戻した少女たちを家に招き入れると更なる衝撃が待ち受けている。
「いらっしゃい」
そう、珍しくにこやかに微笑む超絶美貌の青年に、少女たちは数秒間呼吸を止めた。
今日は薄手のセーターにジーンズ、ダウンジャケットと、いたってラフだ。
「あれ、お出かけ?」
そう訊ねるソナタに、「デートだよ」と片目を瞑ってみせる。
良かったね~、と笑うソナタに、少女たちは青年から身を隠すようにしてこっそり耳打ちする。
「だれ? お兄ちゃん?」
「──へ?」
「すごいかっこいいね! カノン君にちょっと似てる」
「はぁ・・・」
「いくつ? 大学生? モデルさんとかやってそう!」
え~っと、と苦笑したソナタは、どこかそわそわとした様子で家の奥に目を向けている青年を少女たちに紹介した。
「父です」
これまた長い沈黙の後、「「「う~っそだ~」」」という見事なハモりが玄関ホールにこだました。
「本当、本当。若く見えても、43です」
「「「っ、ええええええええええ?! 43歳?! 本当に???!!!」」」
「だよね、パパ?」
「うん」
やはり愛想良く微笑んでいるのは、よほど『デート』が嬉しいからだろう。
しかし、高校生の少女たちにヴァンツァーの笑顔は毒でしかないと思うのだ。
ぽーっとなって40超えた男に見惚れている少女たちを、ソナタはリビングへと案内することにした。
自分の部屋でもいいのだが、4人で勉強するにはテーブルがちいさいのだ。
名残惜しそうにヴァンツァーを見つめている少女たちは、玄関ホールからダイニングへと続くドアを開けたところでまた腰を抜かすこととなる。
「──あ、シェラ。パパ待ってたよ」
「あぁ、うん、いいの。待たせておけば」
そう言っておそらくソナタたちの分であろうお茶とおやつを用意している美女に、少女たちは口をあんぐり、と開けたのである。
「・・・びっじーん・・・」
「ソナタちゃんのお姉ちゃん?」
「あれ? でも、カノン君とふたりきょうだいじゃなかったっけ?」
「うん。シェラはソナタとカノンを産んでくれた人」
ちょっとその言い回しが分からなかったようだが、気づいた少女たちはまた絶叫したのだ。
「「「えええええええ!! お母さん???!!!」」」
本当は『お父さん』だけど、産んでくれたという意味では『お母さん』だ。
驚かれるのも女性に間違われるのも慣れっこのシェラは、にっこり微笑んで「いらっしゃい」と挨拶をした。
「シェラ、行かなくていいの?」
「うん。お茶淹れたら行く」
「パパ、すっごいそわそわしてたよ。初デートする男の子みたいだった」
「えー・・・そんな可愛くないよ・・・」
若干嫌そうな顔をしたシェラだったが、ダイニングテーブルにお茶とお菓子を並べ終えると、少女たちに微笑みかけた。
「ゆっくりしていってね」
こくこく頷くことしか出来ない少女たち。
「シェラもね」
「夕飯までには帰ってくるから」
「え~、いいのに別に」
「あの顔そんなに長いこと見てても楽しくないし」
「あはは。確かに。行ってらっしゃい」
ひらひらと手を振って出て行くシェラも、スカートこそはいていないもののその足取りは軽く、何だかんだ言って『デート』が楽しみなのだ。
「シェラ、かーわいー」
ふふふ、と微笑んだソナタは、お茶が冷めないうちに、と友人たちに席を勧めた。
そうして、その後は勉強どころの騒ぎではなく質問攻めに遭うこととなったのである。
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うーん、限られた時間の中で書くのは大変だ・・・