忍者ブログ
小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
<< 12   2025/01   1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31     02 >>
[218]  [214]  [210]  [206]  [195]  [194]  [183]  [177]  [176]  [175]  [168
くらいでしょうか。ヴァンツァーと、ルウの会話。

**********

ある日、ルウは訊いた。

「どうして、シェラと恋人どうしになる気になったの?」

言われた男は、薄く、冷たく笑った。

「そんなものには、なった覚えがないな」
「そうなの?」
「・・・見れば分かるだろうが」

ルウは「う~ん」と首を捻った。

「一緒にいて、お互いを大事に想っていて、精神的にも肉体的にも相手を必要とする関係って、恋人どうしって言わないの?」

やはりヴァンツァーは、口許に酷薄な笑みを浮かべた。

「──どちらが先に死ぬかを賭けているような関係でも?」

思わずルウは苦笑した。

「それじゃあ賭けにならないじゃない。──きみは、シェラより先には死ねないもの」

この仕立て屋の、こういうところがヴァンツァーは嫌いだった。
人間でないから見えないものが見えるのか、読めないと言っていたはずの人間の心まで見透かす。
そうして、悪びれもせずにそれを口にするのだ。

──真実だから否定することも、怒ることもできない。

だからといって、ほとんど唯一と言っていい自分たちの関係を形作る基盤に、土足で踏み込まれて気分が良いわけがない。
少なくとも、それはヴァンツァーにとって承服できることではなかった。

・・・地上に縫い止められた自分には、月の光は遠すぎて。

たとえ、この仕立て屋が自分を生き返らせ、あの銀色と再び出逢わせた存在なのだとしても。
銀色とは違い、盲目的に敬愛の対象とすることはできない。

「──あ。怒らないでよ。話題を振ったのはきみなんだから」
「怒っているように見えるのか?」
「ん~、っていうか、────拗ねているように見えるよ」
「・・・・・・」

特大のため息を吐いてその場を去ろうとするヴァンツァーに、ルウはもう一度訊ねた。

「ねぇ。どうして、平行線を交わらせる気になったの?」

あまりに過ぎた好奇心は身を滅ぼすものだが、この仕立て屋にそれを言ってもどうにもならない。
自分を簡単に生き返らせたように、一瞬で殺すこともできるのだから。

──あれよりも先に、勝手に死ぬわけにはいかない。

それが、今の自分を動かし、生かす絶対律だ。
自分と銀色とを結ぶ何よりも強固な絆であり、また同時に何よりも甘美な枷であった。
やはり身を縛る鎖から逃れるのは容易なことではないらしい、とヴァンツァーは自嘲した。
そうして、その表情に突っ込まれるのも、今後あまりしつこく訊かれるのも面倒なので、振り返りざま答えてやった。

「──・・・この世界が、丸いと知ったから・・・かな」

ルウは、にっこりと笑って「そう」とだけ返した。
またもや大きく嘆息したヴァンツァーは、軽い目礼だけを残して帰路についた。



*********************

・・・分かる人だけ、分かればよろしい・・・
PR
カレンダー
12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
拍手
検索
リンク
Copyright ©  ひっくり返ったおもちゃ箱 All Rights Reserved.
*Material by Pearl Box  * Template by tsukika
忍者ブログ [PR]