小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
逆転裁判123を進めていたら、ふと思いついたので小ネタをば。さわりです。
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「しっかりと手を握っていて下さいね」
美貌の青年は、ふわりと微笑み、斜め向かいのテーブルについている女性の手に軽く触れた。
爪の先まで整えられた黒髪の青年の長い指先がほんの少し触れただけだというのに、その貴婦人は真っ赤になって必死に手を握りしめた。
「さぁ、今、エバンズ夫人の手の中には、3枚の銀のコインが入っています。そこに、わたしの手の中にある1枚の銀のコインが移動したら──不思議ですよね」
藍色の瞳に穏やかな色を浮かべた白皙の青年は、目の前に居並ぶ貴婦人たちの熱い視線を涼しい顔で受け止め、固く手を握り締めている貴婦人に目を向けた。
立っている青年と腰掛けた夫人の間には、人ひとり分の距離がある。
もちろん、身体のどこも触れ合ってはいない。
青年は自分の手の中の1枚のコインを観衆にしっかりと見せつけた。
そして軽く手を握り、手を返して甲を見せるようにする。
「3つ数えます──1、2、3!」
固唾を呑んでその様子を見守る貴婦人たちの肩が、一瞬震えた。
その瞬間に何か起こったはずだ、と力が入ったのだ。
「夫人、何か変わった感覚はありましたか?」
「・・・いいえ、何も」
少し不安そうな顔をしているのは、目の前にいる美しい青年の『魔術』が失敗してしまったのではないかと危惧しているからか。
けれど、青年はにっこりと夫人を安心させるように微笑んだ。
「では夫人、ゆっくり、手を開けて下さい」
「・・・」
夫人は躊躇いながらも、言われた通りに手を開いていった。
「──きゃっ!」
どこからか、声が上がった。
それを皮切りに、次々と上がるのは歓声と称賛の声だ。
「素晴らしいわ!」
「ほら、ご覧になって!」
「伯爵夫人のお手の中のコインが4枚に」
「まぁ!」
当の伯爵夫人は、驚きすぎて声も出ないようだ。
上流階級の貴婦人の集まりだというのに、伯爵夫人は『わっ』と回りを囲まれ、その手の中を覗きこまれている。
──パン、パン、パン。
熱気が支配する室内に、乾いた音が響く。
「──やぁ、素晴らしいお手並みだ」
やがて聞こえてきた声に、室内の誰もが入り口に目を向けた。
そこには、キャメルのコートとハットに身を包んだ、少々小柄で細身の男と思われる姿があった。
目深に被ったハットのおかげで、その表情を伺い知ることは出来ない。
身なりはそう悪くないが、とても貴族には見えない。
「どなたですの?」
「こちらを伯爵夫人のサロンと心得ていらして?」
咎めるような貴婦人たちの声に、男は「失礼」と呟いてハットを脱いだ。
途端に、息を呑む気配。
直後、室内はざわめきに支配された。
不躾な輩と思われた紳士は、清流の如き銀髪を背に流した、天使のような美貌の男であった。
いや、顔だけ見れば深窓の姫君と言っても差し支えのない上品な美貌なのだが、その菫色の視線の強さがそれを否定している。
「お楽しみの最中申し訳ありません。私はスコットランドヤードの者ですが、そちらの男性に少しお話があるのですよ」
口調は穏やかでありながら、有無を言わさぬ声音。
地獄で悪鬼に出会った断罪の天使のような紳士に、貴婦人たちはおろおろと顔を見合わせる。
スコットランドヤードといえば、警察だ。
それが、この美貌の青年にどんな用があるというのか。
「なに、お手間は取らせません──ご同行願えませんか?」
確認する口調だというのに、否定を許さない強さがある。
黒髪に藍色の瞳の青年は、軽く肩をすくめると居並ぶ貴婦人たちに謝罪をした。
「せっかくの会を台無しにして、申し訳ありません・・・この埋め合わせは必ず」
胸を痛めた様子で誠心誠意謝る青年に、サロンを仕切る伯爵夫人はただただ頭を振った。
気にすることはない、という意味だろうその仕草に、青年は少しほっとしたように目元を緩めた。
そうして、夫人に丁寧に頭を下げると、スコットランドヤードの刑事だという男とともに、屋敷を出たのであった。
「・・・それで、わたしに用とは?」
不安げな表情で問うてくる青年に、銀髪の刑事はにこやかな笑みを向けた。
そうして笑っていると、本当に少女のようだ。
「いや、なに。あなたは、巷で『魔術師』と呼ばれているそうですね」
「そんな大層なものではありません。だたのマジックですから」
「あなたのそのご容姿と相俟って、ご婦人たちに大変な人気とか」
「働かざるもの食うべからず、と言いますからね」
「是非、私にもあなたの使う『魔術』を教えていただきたい」
「刑事さん、ですから」
「たとえば、そう──完全な密室から殺人犯が忽然と消える魔法、とかね」
「・・・」
射抜くような紫の視線を、藍色の瞳は静かに受け止めた。
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何かこんなの。
別にスコットランドヤードでなくてもいいんだが。何となく単語が浮かんだから。
逆転裁判のやりすぎですね、はいごめんなさい。
どうでもいい話ですが、橘はクロースアップマジックの前田さんが大好きです(笑)
とにかく、すべてがスマートなんだ。タネを知りたいと思わないからね。上手に騙されたい(笑)マジックって、あの「わぁっ!」って驚きと感動がいいんだよね。
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