小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今年も元旦から大掃除(コラ)午後からは、買い物に行って、明日訪問予定のおばの家に持っていく料理を作り。チャーシューと角煮という豚肉尽くし。箸休めにピクルスでいいかな。角煮は、味はいいですが、もう少し脂を抜けば良かった・・・シェラならきっと、きっちり脂が抜けて、ゼラチン質が残った絶品の角煮を・・・。
──よし、行ってみよ(え)
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「ん・・・なぁ、これちょっとくどいか?」
失敗したかなぁ、と自らの料理に対して珍しく自信のないことを言うシェラから受け取った小皿に口をつけ、ヴァンツァーは首を振った。
「いや。美味いと思う」
「ほんとか?」
「あぁ」
「ほんとに、ほんとか? 不味いなら不味いって言ってくれ。あと、足りない味があったり」
少し不安そうな、それでいてどんな言葉も受け止めようとする真剣な表情に、ヴァンツァーはもう一度「美味い」と返した。
「俺はお前ほど食材や調味料に詳しいわけじゃないから、何が足りてるとか、足りてないとか、詳しいことは分からない。それでも、この味は好きだ」
「・・・そっか」
へへ、と少し照れたような表情でヴァンツァーから小皿を受け取ったシェラは、リビングからキッチンへと戻って行った。
その様子を見送ったヴァンツァーがちいさく笑ったので、キニアンは「どうかしました?」と声を掛けた。
「俺はどうやら、まだまだ言葉が足りないらしい」
「──え?」
きょとん、と緑の瞳を丸くする青年に、ヴァンツァーは先程のシェラの様子を思い出しながらコーヒーカップを手にする。
「ほぼ毎日、食事のメニューを考えるというのは大変だな」
「そうですね。──あ、でもうちはカノンが結構食べたいもの言ってくれるから」
楽かも、と言おうとして、その台詞が何だか惚気けているような気がしてしまい、キニアンは真っ赤になった。
それを見たヴァンツァーは、くすくすと楽しげに笑った。
「あぁ、そうなんだ。食べたいものとか、味付けがマンネリ化してないかとか。時々、ああやって確認して来るんだ」
「ヴァンツァーは、いつも『美味しい』って答えるんですか?」
「そのときによるかな。好みの味付けでなかったら、伝えるようにしている」
「へぇ。でも、シェラの料理って何食べても美味しいから、俺だったら『美味しい』しか言えない気がします」
困ったように頬を掻く青年に、ヴァンツァーは頷いた。
「俺もそうだ」
「──そうなんですか?」
「こんなことを言ったら怒られるが」
と、ヴァンツァーは声をひそめた。
それでも、耳の良い青年には十分聴こえる。
「正直、毒でも入っていなければ、何でも食えるからな」
「それは・・・」
確かにそうだろうが、さすがのキニアンも、それは『ナシ』だろうと思う。
「言っちゃダメなヤツですね」
「一緒に暮らし始めた頃は、それでかなり絞られた」
当時を思い出しているのか苦笑する男に、キニアンは吹き出しそうになった。
「ヴァンツァーでも、そういう失敗あるんですね。女心なんて、呼吸するみたいに分かるのかと思ってました」
「『そういうものだ』と理解は出来ても、自分の身に置き換えることが出来なかったからな」
「あぁ、確かに。俺も、作る立場じゃなかったらヴァンツァーと同じことを言っていたかも知れません」
「だいぶ学習したよ。『どっちでもいい』は禁句だ、とかな」
「あはは!」
よんどころない事情により、兄貴分ふたりに『オトメゴコロ』なるものを教えてもらったキニアンも、今だから笑える話だ。
「──何なに、楽しい話?!」
ドアが開いたと思ったら、あっという間に腕の中に飛び込んできたカノンを「おっと」と受け止め、キニアンはきらきらと光る菫色の瞳を見つめた。
「ん~。どうやったら好きな人が笑顔になってくれるかなぁ、って話」
ふに、と鼻の頭を摘まれたカノンは猫のようにフルフルっ、と頭を振ってから、にっこりと笑みを浮かべた。
「簡単だよ!」
そう言って、目の前にある肉の薄い頬を『みよん』と引っ張った。
「・・・なんれふか?」
痛くはないけれど、と困惑顔の夫に、カノンはむぎゅっと抱きついた。
「好きな人が笑ってたら、幸せだから笑顔になります!」
一瞬ぽかん、としたキニアンは、思わずヴァンツァーと顔を見合わせた。
そして、
「そうですね・・・」
と微笑して、あたたかな身体を抱き返した。
「──でもカノンさん。ソナタのところでお酒を呑みましたね?」
「えへへ。ちょこっと」
「ん~? ちょこっと?」
「ちょこっと・・・たくさん!」
「あれあれ。俺がいないところでは、呑まない約束だったんじゃないですか?」
「んー・・・」
困ったなぁ、という顔になったカノンは、いいことを思いついた! とばかりに瞳を輝かせると、徐に夫にキスをした。
「あれあれ、アリスもお酒の味がしますよ?」
そう言ってキニアンの肩口に顔を埋めると、カノンはパッタリと寝入ってしまった。
そのあまりの唐突さに、キニアンは声を出さないように笑うのに苦労した。
「何だか、今年もいい年になりそうな気がします」
微笑む義理の息子に、ヴァンツァーも同じような笑みを返したのだった。
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それでは皆様どうぞ、本年もよろしくお願いいたします。
2017年 元旦
橘久遠 拝
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