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小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
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ので、頑張れ、キニアン。

**********

ピピピ、ピピピ・・・

「・・・・・・」

ちいさな電子音が、やけに耳につく。
それはそうだ。
今日は耳のボリュームがまったく絞れない。
眼の奥が熱くて開けるのも億劫だったが、脇に挟んだ体温計を取り出し。

「・・・・・・・」

ないわ、と胸中で呟いて、重い腕をパタンとベッドに落とした。
39.2度。
こんな高熱は実に十年ぶりだった。
寒いし頭はガンガンするし喉は痛いし咳は止まらないし身体は怠いし関節は痛いし何より耳鳴りがひどい。
学生向けのアパートではあるが、プライヴァシーを守ることの出来ない防音効果が低い建物など連邦大学惑星にあるわけもなく。
楽器を演奏するにも何ら頓着する必要のない家の中は騒音に晒される心配など皆無であるはずだというのに、まったく気が休まらない。
神経が過敏になっているせいだろう、聴覚は鋭さを増し、風が窓を揺らす音ですら耳元で鐘を鳴らされているように感じる。
薬を飲まなければ、とは思うのだけれど、常備薬の類はなく。
喉の渇きはそろそろ限界で、せめて水だけでも、と思うのだけれどキッチンまで歩けるわけもない。

──ヴーヴーヴー。

枕元で振動する携帯が、受信だか着信だかを伝えてくる。
誰だよ、と眉を顰めたが、表示されている名前に思わず手を伸ばした。

『──あ、やっと出たー』
「・・・・・・」

ちょっと怒ったような声だったけれど、どうしてだろう、煩くない。
風の音すら気に障るのに、耳元の声は逆立っていた神経をやさしく撫でるようだった。

『アリス?』
「・・・・・・わり」

掠れた声でそれだけ言うと、電話の向こうではっとする気配。
そんなことすら感じ取れてしまうくらい神経は尖っているのに、なぜか口許に笑みが浮かぶ。

『・・・具合、悪いの?』
「ん」
『熱・・・?』
「ん」
『薬、飲んだ?』
「んーん」

口を開くことが出来なくて、いつも以上に愛想のない返事をする。

「・・・約束、してたっけ・・・?」

だったら悪いことをしたなぁ、と。
全然働かない頭でぼんやりと思う。
我ながら酷い声で、きちんと喋れているのかどうかもよく分からない。
咳き込むと、息を呑む気配がした。

『・・・こんなときに、人の心配するな』
「はは・・・わり」
『・・・・・・』
「カノン?」

昂っていた神経が、ゆっくりと和いでいく。
頭痛は辛かったが、この声は聴いていたいな、と思った。

『・・・おとなしく寝てろ、病人』
「え、おい────あ・・・」

ツーツー、と無機質な音が頭に響く。
フリップを閉じ、バタン、と腕を下ろした。
怒ったのかなぁ? と二、三度瞬きをして、結局目を閉じた。
治ったら、ちゃんと謝ろう。
何だかんだいって、あいつは分かってくれるから。

──・・・ごめんな、カノン・・・。

脳裏に浮かぶ天使の美貌に頭を下げ、キニアンはすぅぅ、と落ちるようにして眠りに就いた。


+++


──ひやっ。

感じる冷たさに、意識が浮上する。
咳き込む口から吐き出される息が熱い。
寒気はなくなったが、とにかく熱い。
目は重くて開かないけれど、代わりに「アリス?」と自分を呼ぶ声が鮮明に聴こえた。
はっとしてどうにか瞼を持ち上げると、滲んだ視界の向こうには心配そうにこちらを見下ろす美貌。

「──カ・・・」
「喋るな」
「・・・・・・」

どうして、と目で問えば、氷水で冷やしたらしいタオルでこめかみや首筋の汗を拭われた。
冷たさが心地良くて、思わず目を閉じる。

「水、飲む?」

言われて、カラカラに喉が渇いていたことを思い出す。
ちいさく頷けば、そっと頭を支えてくれる腕を感じた。
口許に宛てがわれたコップから、コクリ、コクリ、と水を飲む。
食道を通って胃に落ちて行く感覚が気持ちよくて、ほとんどひと息に飲み干した。

「もっと飲む?」

これには首を振ると、またゆっくりと枕に頭が下ろされた。

「・・・・・・ど、・・・て?」

訊ねれば、枕元に置いた氷水入りの洗面器からタオルを取り出したカノンは、それを絞りながら口を開いた。

「鍵持ってるし」
「そ、じゃ」

なくて、と言おうとしたが、咳き込んで言葉が途切れる。

「あー、もー。喋るなっていうのに」

まったく、とため息を零して額に濡れタオルを置く手は、驚くほどやさしい。
また、氷水に触って冷たくなった手が気持ちいい。
思わず頬をすり寄せると、くすくすとちいさく笑う気配。

──あぁ・・・やっぱり・・・。

神経に障らない。
僅かな空気の振動も嵐となって耳に届くはずだというのに、やはりカノンは人間ではなくて天使なのかも知れない。
ぼんやりと思ったキニアンだったが、一度深呼吸をすると目を開けて菫の瞳を見つめた。

「・・・かえ、れ」
「──え?」
「うつ、る」
「・・・・・・」
「たす、かった・・・けど・・・」

早く帰りなさい、と言おうとしたら、ツン、と顔を逸らされた。
その仕草は見慣れたものだったけれど、頭が働かなくて反応が遅れる。

「治ったら帰ってあげる」
「・・・・・・」

それじゃあ遅いでしょうが、と言いたいのに口を開けない。

「おかゆと擦りりんごと、どっちがいい?」
「・・・・・・」

こちらを向いたカノンは、妙にきらきらとした瞳をしている。
熱があるから、視界が滲んでそう見えるのかも知れない。
きっと、「そんなことはいいから帰りなさい」と言ってもきかないのだろうな、と思って「りんご」と答えた。

「ちょっと待ってて」

言うと、音もなく立ち上がってキッチンへ向かう。
すぐに戻ってきたから、もしかすると既に用意してあったのかも知れない。

「ちょっとだけ、蜂蜜入れてあるから」
「・・・ん」

『ありがとう』の代わりにゆっくりと瞬きをして、起き上がろうとして止められた。

「あーん」
「・・・・・・」

ぱちぱち、と。
ゆっくり瞬きをすると、カノンはもう一度「あーん」と言って自分で口を開けて見せた。
同じことをしろ、と言いたいに違いない。
無理無理、と一切表情を動かさないまま内心で突っ込みを入れたキニアンだったけれど、カノンは「ほら、あーん」とスプーンを持って待っている。

「・・・・・・」

何だか考えるのが面倒になってきて、キニアンは大人しく口を開いた。
口の中に、甘い果汁と擦ったりんごのふんわりとした感触が広がる。
蜂蜜は、くどく感じるほど入れはしなかったのだろう。
相変わらず喉は痛かったけれど、水だけでは足りずに水分を欲している身体は、勝手にキニアンの口を開かせた。

「スポーツドリンク、飲めるよね?」

こくん、と頷くと、コップに冷やしたスポーツドリンクが注がれる。

「冷たい方が早く吸収されるんだって」

そうなんだ、とどこか他人ごとのように思いながら注がれた分を飲み干す。

「もっといる?」

これにも黙って頷く。
ちいさく笑う気配がした。
それも、『まぁ、いいや』と思って、またコップを空ける。
そこで力尽きて横になったキニアンだったが、「もうちょっとだけ頑張って」と言われて薬を飲んだ。

──・・・結構世話焼きなんだなぁ・・・。

シェラに似たんだろうか、とぼんやり思ったキニアンは、額のタオルを取替えられ、冷たい両手で左手を包まれると、安堵して眠ったのだった。


**********

もうちょっと回復すると、「帰りなさい」と言うキニアンと、「帰りません」とそっぽを向くカノンの攻防戦が始まり。
弾みでベッドに押し倒されたカノンは、いつも以上に余裕がないためにSくさいキニアンに『きゅんっ』とかしてればいい。あー、可愛い。
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