小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
キニアンのパパとママの馴れ初めです(笑)
ご興味のない方は、全力でスルーして下さい。わかちこ。
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構えもボウイングもメチャクチャで、指の使い方だってなってなかった。
──けれど。
「『天上の音楽』ってのは、あれを言うんだろうな」
「・・・あぁ」
一緒に奇跡を目撃した親友に、ただ、そう返すことしか出来なかった。
「──きみ!ぼくと一緒に来る気はないかい?」
セントラルの国定公園は、休日ともなれば家族連れで賑わう。
そんな中、たったひとりベンチに腰かけてヴァイオリンを弾く少女に、気付いたらそう声をかけていた。
大きな翡翠色の瞳が不思議そうに見上げてくる。
「・・・おじさん、だぁれ?」
「おじっ・・・」
頬を引きつらせると、背後で親友が笑った。
思い切り睨んでやったが、気にするような男ではない。
ため息を零し、奇跡の化身に目を移した。
「ぼくは『おじさん』じゃなくて『アルフレッド』。年齢は27。エルバート音楽院で教員をしている」
「先生なの?」
「あぁ、そうだ」
「ふぅん」
興味なさそうな少女に、内心首を捻る。
エルバート音楽院といえば、連邦大学の中でも特に有名な音楽大学だ。
そこで、自分で言うのも何だが、27という若さで教鞭を執るものなどふたりしかいない──蛇足ながらその『もうひとり』が背後にいる親友のオスカーだ。
セントラルだって、その名前は知られているはずだ。
しかも、音楽に携わるものにとって、自分は結構な有名人だった。
それなのに、この少女は音楽院の名も、自分のそれも知らない素振りだ──否、本当に知らないのだろう。
逃げようとはしないが、無垢な瞳はじっとこちらを見つめてくる。
決して検分するようなものではない。
言うなれば『何だろうか、この生き物は』と思っている顔だ。
「きみには才能がある。エルバート音楽院へおいで。ぼくが推薦状を書こう」
「マリア、まだ15歳よ? 大学って、18歳で入るんでしょう?」
少女の名はマリアというらしい。
なるほど、天上の音楽を奏でるのにふさわしい名前だ。
しかし、彼女の年齢には驚いたアルフレッドだ。
少女の幼さにではなく──見た目よりも年齢が上だったことに。
12歳くらいかと思っていた。
すんなりと細い手足に、ふわふわの髪、天使のような容貌に邪気のない瞳。
年齢よりずっと幼く見える。
「年は関係ない。連邦大学は、才能があるものには常に門戸を開く」
「お金もないし」
「奨学金制度もあるし、きみほどの才能の持ち主なら特待生にだってなれる!」
熱心に勧誘する姿は、さぞかし周囲からは奇異に映っただろう。
今思えば通報されてもおかしくない。
少女は不思議そうに右へ左へ首を傾げていたが、ふと目の前の青年の傍らにあるものに目を遣った。
「──それ、なぁに?」
「え? あ、あぁ、これはチェロだよ」
「チェロ?」
首を捻る少女に仰天した。
ヴァイオリンを弾くというのに、チェロを知らないのか。
「・・・きみは、誰にヴァイオリンを習ったんだい?」
「習う?」
「きみにヴァイオリンを教えたのは誰?」
「誰も」
「え?」
「これはサリー先生がマリアにくれたの。この4本の糸を、この棒で擦ると音が出るから、って。やってみたら、最初は変な音だったんだけど、段々綺麗な音になってきたの。お歌が上手になったのね」
「・・・」
「・・・聞いたか?」
親友に肘でつつかれても、しばらく呆然としていた。
「・・・独、学・・・?」
少女はこの言葉の意味も知らなかったらしい。
「──あの曲は?!」
掴みかからんばかりの勢いに、少女がびっくりする。
はっとして短く謝罪し、今度は静かに訊ねた。
「・・・・・・さっき弾いていた曲は?」
「曲? マリア、いつもみたいにこの子とお話してただけよ?」
「──・・・・・・」
まさか、と思って少女にヴァイオリンを貸してくれと頼み、A線を弾く。
「──はぁ~?」
オスカーが間の抜けた声を出したように、調弦が出来ていない。
すべての弦が、てんでバラバラの音を出している。
「おいおい。これで弾いてたのかよ」
「・・・・・・」
無言で調弦を済ませたアルフレッドは、丁寧な仕草でヴァイオリンを少女に返した。
そうして、訊ねた。
「今までと同じように弾けるかい?」
音の合っていないヴァイオリンで弾いていた音を、調弦を済ませた楽器で奏でることが出来るのか。
少女は僅かに首を傾げると、ヴァイオリンを左肩に当てた。
そうして──。
背筋が震えた。
悪寒にも似た戦慄に、アルフレッドは目を瞠って唇を吊り上げた。
何だか先ほどよりも楽しそうに『おしゃべり』をする少女に感化されたのか、チェロをケースから取り出す。
オスカーが呆れたように肩をすくめているのに気づかないフリをした。
調弦を行いながら、少女の音に合わせていく。
チェロの音は初めて聴いたのかも知れない少女の驚いた瞳にちいさく笑みを返し、ふたりは無言で『おしゃべり』を続けた。
『情緒ある精密機械』と呼ばれるほどの青年の技巧に、少女は慌てることもなくついてきた。
むしろ、青年の弾き方に興味を持ったらしく、真似をしようとしているようだった。
もしこの場に音楽大学に通う生徒か、アルフレッドを知るものがいたならば、「冗談じゃない!!」と声を大にしただろう。
アルフレッドの技巧は、他の人間においそれと真似出来るものではない。
だからこそ、彼はその年で一流音楽大学の准教にまでなっているのだから。
いつの間にか周囲には聴衆が集まり、ふたりの演奏に聴き入っている。
誰が、このふたりの演奏が楽譜のない、──否、今誕生しようとしている楽曲だと気づいただろう。
終演のときすら、まるで示し合わせたかのように美しい旋律が響き渡り、自然と拍手が起こった。
「綺麗な音! この子のお兄ちゃんみたい!」
緑の瞳を輝かせる少女に、「あぁ、そうだね」と返した。
「この子も、さっきよりずっと明るい音になったわ!」
「違いが分かるかい?」
「? もちろん」
当然のような顔をしている少女に、アルフレッドは決意した。
どんな手を使ってでも、この子を音楽院に入れる。
これは、ミューズがぼくに与えた使命だ。
そうして、3ヶ月後にマリアはエルバート音楽院へ特例で入学し、16歳で連邦大学惑星音楽コンクールでグランプリを獲得すると、瞬く間に各地の音楽コンクールで優勝した。
『百年に1度』と呼ばれる才能はひとりの青年によって世に送り出され、ふたりはその後紆余曲折を経て、結ばれることとなるのである。
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・・・だから、どうしてどーでもいー話ばっかり書くんだよ・・・
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