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小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
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物書きの。

ここ最近はどうも疲れやすいのか、22時くらいには寝てしまいます。それでも結構朝しんどいという。年ですかね・・・。
天使なシェラたんはぼちぼち書いているのですが、まだ更新出来るほどではありません。すみません。代わりでもないですが、ちっちゃい天使たちに出てきてもらいましょうかね。


**********

「ヴァンツァー・・・──助けてくれ・・・っ」

自宅に帰るなり泣きそうな顔で縋り付いてきた銀色に、男は藍色の瞳を大きく瞠った。
慎重に、これ以上神経を昂らせないように細心の注意を払って細い肩に手を置き、己に出来る最大限のやさしさと穏やかさと思いやりとでもってコーティングした声音で、

「どうした?」

と訊ねた。
胸元に顔を伏せてしまって表情が見えないシェラの頭をそっと撫で、

「俺に出来ることなら何でもしよう」

と、真摯さと微笑みとを等分させて混ぜ込んだ言葉に、シェラはゆっくりと顔を上げた。
銀細工の人形のような美貌は憔悴しきっているようで、ヴァンツァーは眉間に皺を寄せないようにするのに多大な労力を使った。
菫色の瞳は潤み、泣き出す寸前だ。
「どうした?」と出そうと思った声が喉に絡まったように出て来ず、内心で焦っていたヴァンツァーにシェラは告げた。

「・・・私は、ダメな親なんだ・・・」

吐息同然の、恥じ入るような、それでいて、辛くて堪らないといった掠れた声に、ヴァンツァーは今度こそはっきりと眉を顰めた。
双子の子どもたちを立派に育て上げ、更に子宝に恵まれて今は四つ子の子育て真っ最中。
時間と期間を限定しているとはいえ仕事をしながら、家事も子育ても、蛇足ながら『妻』としてだって文句のつけようがない働きをしている、とヴァンツァーは思っていた。
この銀色は、自分のことを過小評価も過大評価もしない。
己の力を見誤ることは死に直結する人生を歩んでいたのだから、その辺りの評価は実にシビアだったが不必要に自分を卑下することもない。
そんなシェラが、どうしてそんなことを思うに至ったのか。

「お前の言う通りだ。私はつまらない考えしか出来ないリアリストで、情緒の欠片もない・・・」

何が『お前の言う通り』なのかさっぱり分からないヴァンツァーだった。
確かにシェラのことをリアリストだと言ったことはあるが、決して『つまらない』などという枕詞はついていなかったし、情緒の欠片もないのは事実だが、それをこの銀色を否定する意味で使ったことはない。
とりあえず落ち着かせようとリビングへ連れていき、己の空腹は後で何とかするとして、目の前の問題を片付けることにした。

「──モモタロウ?」

話を聞いてみると、シェラの憔悴の原因は子どもたちに読み聞かせてやったお伽話らしい。
シェラが大好きな子どもたちは、シェラのやさしい声も大好きだ。
だから、夜寝るときには物語を読んでもらうのが最近のお気に入りだった。
そこで今日は果物から生まれたヒーローが鬼を退治しに行く話を読んでやったらしい。
それがなぜ死にそうなほどの落ち込み具合に繋がるのか、まったくもって理解出来ないヴァンツァーだった。

シェラが言うにはこうだ。
初めは良かった。

子どものいない老夫婦に、川を流れてきた巨大な桃から生まれた男の子という家族が出来る。
モモタロウと名付けられた男の子は大事に育てられ、やさしく、強く、賢く育った。
老夫婦と男の子はとても幸せに暮らしていた。

「モモタロウはきっと、フーちゃんみたいな子だね」
「ロンだろ」
「ぼく、強くも賢くもないもん」
「お前はやらないだけだ」

けれどある日、男の子は老夫婦と住んでいる村人たちが恐ろしいうわさ話をしているのを聞いてしまった。
なんでも、海の向こうの『鬼ヶ島』というところから、都に身の丈7尺を超える鬼たちがやってきて、食べ物を奪ったり、人を攫ったりしているのだという。

「「・・・ななしゃ・・・?」」
「7尺。父さんとか、ケリーおじちゃんよりずっとおっきいな」
「「すっごーい! おっきーい!」」

やさしい心を持ったモモタロウは鬼を退治しに行こうと考えたが、老夫婦はやっと授かった可愛い子どもを恐ろしい鬼のいる場所へなど行かせたくなかった。
けれど、「必ず鬼を退治して帰ってくるから」と強く約束したモモタロウを、最後には送り出した。

「「・・・ももたろ、パパとおじちゃんにはかてないとおもう・・・」」
「シェラとジャスミンなら勝てるんじゃないかな?」

ロンドの言うジャスミンのモモタロウを一瞬想像し、吹き出しそうになったシェラだった。
どちらかというとジャスミンが金棒を持っていそうだ、と思ったのだ。

「あとリィとか」

フーガの言葉に、黄金の髪を輝かせて戦うリィの姿を想像し、うっとりしかけたシェラだった。
が、気を取り直し、読み聞かせを続けたのだった。

老夫婦は決して裕福ではなかったが、モモタロウが道中腹を空かせることのないよう握り飯ときび団子を持たせてやった。
モモタロウはその食べ物のおかげで、道中で犬、猿、雉をお供に加えることが出来た。

「わんちゃん!」
「おさるさん!」
「「きじ・・・フーちゃん、フーちゃん、きじってなーに?」」
「鳥だよ」
「「とりさん!」」
「食べても美味しい鳥だ」
「ももたろ、とりさんたべるの?」
「たべるのに、おだんごあげたの?」
「あ、太らせてからたべ」
「──ロン、たぶん違うと思う」

フーガが止めてくれて良かった、と胸を撫で下ろしながら話を続けたシェラだった。

鬼ヶ島の鬼たちはとても強かったけれど、モモタロウは仲間たちの力を借りて鬼を退治した。
そして、感謝した都の帝から、たくさんの財宝をもらい、綺麗な姫君をお嫁にもらって老夫婦を村から呼び寄せると、都でみんな仲良く暮らしました。
めでたし、めでたし。

「「みかど?」」
「王様のことだよ。とっても偉い人」
「「シェラみたいなひと?」」

どういう意味だろう?
とっても気になったシェラだったが、あれこれ話している子どもたちに口を挟むことはしなかった。

──けれど、そのときはやって来たのだ。

「へんなの」
「へんなの」

大きな色違いの瞳をくりくりさせているアリアとリチェルカーレに、シェラは首を傾げた。

「──変? あれ、どこか読み間違えたかな?」

さして厚みのない絵本をパラパラと捲るが、何が変なのかシェラにはさっぱり分からなかった。

「ううん。シェラは間違ってないよ」

フーガが首を振る。

「へんだよ」
「へんだよ。ねー」
「ねー」

顔を見合わせる娘たちの真意が知りたくて、シェラは「何が変なの?」と訊ねた。
そうして、返ってきた言葉に、愕然とした。

「「めでたしじゃないもん」」
「──え?」
「おにさん、ももたろいないの?」
「おじーしゃんと、おばーしゃん、いないの?」

不思議そうに訊ねられて、シェラは頭を殴られた気分になった。
鬼にモモタロウは──つまり、子どもや、家族はいないのか? と言いたいに違いない。

「おにさんのももたろ、えーんしてない?」
「おじーしゃんとおばーしゃん、ももたろのしんぱいしてたでしょ?」
「おにさん、しんぱいしてない?」

どうなの? と宝石のように美しい瞳に問い掛けられて、シェラは何も答えられなかった。
言葉に詰まって、胸が痛くて、──正直、その場から逃げ出したくなった。

「鬼、は・・・」

自分が何だかとても薄汚いもののように思えて、細い身体がカタカタと震えた。
その後どうやって子どもたちを寝かしつけたのか、覚えていない。

「・・・なぁ、ヴァンツァー・・・私は何て・・・子どもたちに何て、答えれば良かった・・・?」

泣いてはいないが紅くなった目で見上げてくるシェラに、ヴァンツァーは微笑みを向けた。

「やさしく育ってくれて、良かったな」
「──え?」
「きっとあの子たちは、力を手に入れても、それを人を傷つけることには使わないよ」
「・・・・・・」
「だから、大丈夫だ」

そっと銀色の頭を撫でると、シェラは大きく顔を歪め、ヴァンツァーの胸に顔を埋めた。
大きく震える肩や背中を、ヴァンツァーはゆっくりと撫で続けた。


**********

あー、もっとちびっ子を書きたいです。
笑いなのかシリアスなのか、ほんわかなのかラブいのか。はっきりしろと。
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