小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
小ネタは続くよ、どこまでも。
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「ねぇ、おじいちゃまー」
シェラに宥められて落ち着いたのか、ソナタは眦の涙を拭いながら祖父の袖を引いた。
うん? と目元を笑ませる様すらそこはかとない色気を感じさせる男に、ソナタは抱えていた疑問をぶつけてみた。
「どうして、ナシアス様の闘病記とか、パパがいなくなってからのシェラの5年間とか、描かなかったの?」
彼女の中でナシアスは『様』をつける対象と決まったらしく、すっかりこれが染み付いてしまっている──蛇足ながら、なぜかジルにも『様』がついていた。
ナシアスとシェラが画面に出てくるだけで興奮していたソナタだから、このふたりの出番がもっともっと欲しかったのかも知れない。
監督と脚本家を兼ねていた男は、苦笑したものだ。
「それは、お前たちが一番よく知っていると思うが・・・」
「どういうこと?」
カノンも首を傾げる。
現在彼は、ソナタと一緒になってシェラの腰にべったりへばりついている。
時々、妹と一緒になってシェラの腰だの脚だのを撫でているのだが、触られている本人は慣れっこになってしまってまったく気にした様子がない。
子どもたちが安心するなら、何でもいいのだ。
シェラの身体をまさぐりながら純真無垢の可愛い顔で見つめてくる子どもたちに、サリエラは軽く嘆息した。
「ナシアスとバルロをあれ以上描いたら、主役が──ヴァンツァーが霞んでしまうからな」
肩をすくめる祖父の発言に、一瞬の間の後に双子は同時に口を開いた。
「「・・・・・・あぁ・・・・・・」」
相槌とも、ため息とも諦めの声ともつかないそれは、滲み出るような切なさで満ちていた。
確かに、ナシアスの闘病記なんぞを描いたらそれだけで更に上映時間は倍近く増えるだろうし、そうすると必然的にバルロの出番も増え、主治医であるジルも前面に押し出され、いっそこちらをメインにしてしまおうか、という流れが容易に想像出来る。
ヴァンツァーがいなくなってからの5年間とて、描くのは専らシェラサイドになるだろうから、こちらでもバルロが活躍するわけだ。
シェラは可愛いから画面に出ているだけで良し、と言い切る双子だから、必然的に脳裏から締め出されるのはヴァンツァーひとり、ということになる。
「・・・ただでさえ、後半残念なくらい霞んでるのにね」
「これ以上霞んだら、疲れ目、とか目の錯覚、とか言えないレヴェルになっちゃうもんね・・・」
「そうそう。画面見ながら何度目を擦ったことか」
「おかしいんだよね。シェラはくっきりはっきり見えてるのにさ」
「うん。ピントがずれてるのかな、とか思ったんだけど」
「違うよね。明らかに、背後の通行人レヴェルで霞んでたもん」
「ね」
「残念だよね」
などという会話を繰り返していた双子だったが、頭上からくすくすと笑いが漏れ聞こえてきて顔を上げた。
シェラが、口許を押さえて笑っている。
どうしたの? とふたりして首を傾げれば、うーんとね、と頭が撫でられた。
「私はね、あいつは、それも狙ってたんだと思うなぁ」
じっと不思議そうな顔で見つめてくる双子に、シェラは共演者としての感想を述べた。
「あの辺りの『ヴァンツァー』は、かなり不安定な精神状態にあったからね。それまでは誰より輝いていた彼が、周囲と同化してしまうくらいにまで安定を欠いていたっていうのが、よく表現されていたと思うけど」
しばらくシェラの顔を、穴が開くほど見つめていた双子だったが、心得たように「「ふぅん、なるほどねぇ」」と頷いた。
その表情が気になったシェラは、「どうしたの?」と訊ねた。
「シェラ、あの『ヴァンツァー』のこと、好きだったのね・・・」
「ん? うん。そういう役だからね」
「あの『ヴァンツァー』のこと、好きだったんだ・・・」
「え? あぁ、うん。ちょっとかっこ良かったよね」
同じ言葉を繰り返す双子に、ほんのりと頬を染めるシェラ。
サリエラは喉の奥で笑い、双子はあからさまにため息を吐いた。
「「────・・・はいはい。ごちそうさまでした・・・」」
きょとん、とした顔になったシェラに、双子は顔を見合わせて首を振ったのだった。
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よし。今日も平和だ。
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