小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
昨日、汐留のイルミネーションに感動したので。
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ビールが売りの店でそれを飲まないというのはどうなのだろう、と思いはしたが、それに関しては連れが売り上げに貢献していたから良しとすることにした。
しかし、いつも思うのだが、あれだけ酒を飲むのにどうして体型がまったく崩れないのか。
鍛えているとはいえ、今の仕事はデスクワークだ。
かつての仕事のように、全身を凶器として研ぎ澄ませておく必要はない。
シェラの知る限りではヴァンツァーという男は、見た目とは裏腹に実によく飲み、よく食べる。
もちろんリィと比べてはいけないが、それでもいかにも『珈琲しか口にしません』みたいな顔をしているというのに、ある意味裏切られた気分である。
しかし、自分の作った料理を綺麗に平らげてもらえるというのは素直に嬉しい。
2時間ほどいたその店は悪くなかったのだが、河岸を変えようという話になった。
何分、シェラもヴァンツァーも舌が肥えすぎている。
『悪くない』程度の店では、到底満足出来ないのである。
次に行こうとしているのは、ふたりがともに雰囲気、サービス、料理に酒まで、すべてに太鼓判を押した店だ。
今まで飲んでいた店を出て、階段を下りる。
その途中から、すでに眩いばかりの青い光。
階段を下りきれば、『洪水』と呼ぶのに何の躊躇いもいらないほどのイルミネーション。
「──・・・・・・ぅ、わぁ・・・・・・」
ため息のような感嘆が、シェラの唇から零れる。
目の奥が痛くなるほどの光だというのに、なぜ人は目を見開いてこの光景を見るのか。
分からないが、イルミネーションを見てわくわくする自分がいるとは思っていなかったシェラだ。
思わず脚を止めると、隣に長身が並ぶ。
しばらく黙って見ていたが、どこからかシャボン玉が漂ってきて、光を反射して虹色に輝くそれに、知らず笑顔になった。
音楽と重なり、幻想的な空間が作られる。
この季節だけの光と音楽で構成されたプログラムは、クライマックスになると人工の雪まで降らせる凝った仕掛けだった。
会場を青く埋め尽くす光の波と、純白の雪。
場内から歓声と拍手が沸き起こる。
イルミネーションに見入っていたシェラだが、ほぅ、という吐息を感じて視線を上げた。
そこには、青く照らし出された比類なき美貌、
じっと、刻々と色を変えていく光を見つめている。
その横顔があまりにも美しく、穏やかで、勝手に心臓が跳ねた。
「──不思議だな」
イルミネーションで満たされた会場を見つめたまま、人々のさざめきあう声よりもずっと静かな声が、耳の奥に心地良く響く。
「・・・何が、だ?」
一瞬男の顔に見惚れていた自分に首を振り、シェラは何気ない風を装って訊ねた。
寒いはずの屋外なのにすぐ隣に人の熱を感じ、そこに寄り添おうとしている自分を押し止めた。
高い位置から、やはり穏やかな藍色の視線が落ちてくる。
「人工的な光や雪だと分かっているのに、これを『綺麗だ』と思う自分がいる」
「・・・別に、不思議じゃないだろう? すごく綺麗だ」
そう返すシェラに、ヴァンツァーはほんの僅か、唇を持ち上げた。
「そうだな。────本物の光が隣にあるのに、少し不思議に思っただけだ」
気にするな、と呟く声に、知らず頬が熱くなる。
瞬きもせずに見つめてくるシェラに目許を笑ませると、「行くか」と告げて肩を抱く。
いつもならば即座に振り払われるというのに、今日は大人しい。
青い光による沈静効果か、他の理由があるのか。
どちらにせよ、悪くない夜だ、とヴァンツァーは思った。
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まぁ、クリスマスくらい、いい思いをさせてやろうじゃないか。
坊やのくせに生意気だけど。
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