小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
七夕なので、ね。
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「──そういえば」
夏だというのにくっついてくる男を鬱陶しそうに跳ね除けていたシェラだったが、無言の攻防が5分程度続いたところで馬鹿馬鹿しくなってやめた。
空調の効いた室内だから暑いということなはいのだが、ひたすら鬱陶しい。
背中から抱きすくめてきたかと思えば、シェラの手を取って触ってみたり、髪に頬を寄せてみたり、時々ぎゅっと抱きしめてみたり。
──子どもか、この男は・・・。
一々対応してやるのも面倒になって、好き勝手させているシェラである。
とりあえず、読書──料理本である──の邪魔さえしなければいいことにしてやろう、そうだ、そうだ、私は寛大だからな、と出来るだけヴァンツァーのことを意識から外そうとしたときのことだ。
三十路に入って更に妖艶さを増した美貌とその精神年齢の低さがまったく噛み合わない男は、シェラの肩に顎を乗せた状態で口を開いた。
「昔、授業で七夕をした」
「授業で?」
本から意識を移さず、それでも何となく相槌を打ってやるシェラ。
ヴァンツァーは「うん」と答えると、少しおかしそうな声で話を続けた。
「短冊に、願い事を書け、と言われた。高校生相手に、何を言っているんだ、と思った」
「で? 何て書いたんだ」
「書けなかったんだ」
「──え?」
ここで初めて、シェラの意識がヴァンツァーに向けられた。
本を膝の上に置き、ほんの少しだけ、首を巡らせる。
「願いなんて、なかった」
「・・・・・・」
「だから、書けと言われても書くことがなかった」
「・・・それで、どうしたんだ?」
「それも、授業の一環だから、何か書かないと評価に響くと言われて」
「お前に対しては、最高の脅し文句だな」
苦笑するシェラに、ヴァンツァーもちいさく笑った。
「どんなに無理なことでもいいから書いてみろ、と言われた」
「うん」
「星に、願うような・・・子どもみたいなことでもいいから、と」
「うん」
それで、何て書いたんだ? と訊ねてくるシェラを更に自分の方へ引き寄せ、その顎を取り、ヴァンツァーは呟いた。
「──月が、欲しい」
唇が重なる直前、シェラはささやいた。
──何だ、叶ってるじゃないか。
と。
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・・・・・・『かっこいいヴァンツァー』は、古代マヤ語だそうです。道理で私には解読出来ないはずですよ、これ・・・・・・。
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