小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
『かっこいいヴァンツァー』とは。
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──『賑やか』、というよりも『煩い』。
極彩色で彩られた、しかし薄暗い空間。
さして狭くはないはずのそこは、どこからこれだけの人間が出てきたのだというくらいの人で埋め尽くされていた。
そこにあるのは、煙草の煙と酒の匂い、──それから、『雄』と『雌』の探り合う、におい。
「──あれ? あの銀髪、お前んとこのじゃね?」
大音量の音楽が流れる店内では、耳元で話されでもしないと聞き取れない。
今も、肩を叩かれてようやく気づく。
「ほら。ぜってーそうだって。あんな銀髪、他にいねぇよ」
笑うと満腹の猫のような顔になる痩身の男は、旧知の仲である青年が銜えていた煙草を取り上げると、我が物顔で口をつけた。
ひと口吸うなり「──軽・・・まじぃ」と、その端正な容貌を歪めて灰皿に押し付けた。
「分かっていて何を・・・。まだひと口しか吸ってなかったんだ」
「ケチくさいこと言うなって。お前、金なんか腐るほど持ってんじゃん」
それより、アレ、いいのかよ、と猫眼に金髪の男は顎で示した。
億劫そうに、隣の男は藍色の視線を動かした。
猫眼の青年も整った顔をしているが、この青年がまたすさまじい美貌の主だった。
この店にいる『雌』はことごとく、彼の姿に目を奪われている。
艶やかな黒髪に、寛げられたシャツから覗く、白く、鍛えられた胸。
あらぬ妄想を抱くには、彼の美貌と肉体は十分すぎるほどに魅力的だった。
「隣の、見ない顔だけど・・・──ありゃ極上品だ」
舌なめずりせんばかりの友人の言葉に心を動かされた様子もなく、黒髪の男は懐から煙草のボックスを取り出すと、改めて火をつけた。
「────猫どうしが、何をしている・・・」
呟き、火のついた煙草を銜えたまま、ゆったりと歩を進める。
ただ歩いている、それだけの動作すらどこか優雅で、まるで舞踏でも踊っているよう。
「でね、そのときね・・・」
「──シェラ」
機嫌良くにこにこと話をしていた銀髪の主は、真後ろで聞こえた声に目を丸くした。
「・・・あれ、ヴァンツァーだ」
ケラケラと笑っている様子と、テーブルの上のグラスの数で、相当飲んだことが知れる。
「だいぶ飲んだな」
「ん~。らってね、みんな、たぁくさん、のんでね~、って」
「ほぅ・・・」
若干離れた──しかし、いつでも手を引けるだけの距離にいた男たちに、ヴァンツァーと呼ばれた男は軽く視線を向けた。
それだけのことで、男たちは竦み上がった。
「シェラちゃん、可愛いから」
こちらもシェラに負けず劣らず上機嫌な声をしているのは、長い黒髪を背中に流した中性的な美貌の男。
「ん~。シェラのこと、かわいいって、みんないうの」
「ぼくも、シェラちゃん、可愛いと思うよ」
「あはは。ありがとう、ルウ」
だ~いすき、と頬にキスをする。
「ふふ。くすぐったいよ」
「い~のぉ。ちゅーするの~」
「うん。ぼくは構わないけど・・・」
ちらり、とルウはヴァンツァーを見上げた。
「こんばんは」
「これが、面倒をかけたようだな」
「ううん。そんなことないよ。話し相手になってもらってたの、ぼくの方だから」
おそらくこのテーブルにあるグラスのうち半分は、この優男が空けたものなのだろうが、シェラと違ってまったく酔った様子がない。
「ルウ~、シェラとちゅーするの~」
とろん、とした瞳で、シェラはルウに向かって腕を伸ばす。
それを背後から引き寄せ、ヴァンツァーは紅く色づいた唇を自らのそれで覆った。
重ねるだけではない。
情事の前戯としても十分なほどに濃い口づけ。
煙草を持ったままの手でシェラの顎を持ち上げ、深く舌を差し込み、唾液を絡め、存分に口腔内を嬲ってからようやく唇を離す。
濡れて熟れた唇をそっと啄ばめば、甘えた声が鼻に抜ける。
酒が回っていたところに酸欠もあいまって、シェラはくったりとヴァンツァーの胸にもたれた。
「わぉ、濃厚~」
ルウが感心したように、きらきらとした瞳でパチパチ手を叩いている。
「してやろうか?」
ふ、と口端を持ち上げる仕草に、その様子を見ていた『雌』たちから悲鳴が上がる。
中には失神したものもいたらしい。
「ううん、いいや」
しかし、ルウはあっさりと首を振った。
また、ヴァンツァーも相手が頷くとは思っていない。
「こんなところに来るわりには、随分と身持ちが硬い」
「ここで待ち合わせなんだ」
「へぇ?」
「知ってるかな?──『キング』って呼ばれてる人なんだけど」
「──・・・」
これには、さすがのヴァンツァーも瞠目した。
「・・・あの、キングか?」
「あの、かどうかは知らないけど、彼はキングだよ。すっごいイイ男」
嬉しそうに微笑む顔は、恋する少女のよう。
珍しくも数瞬放心していたヴァンツァーだが、腕の中の存在が寝息を立て始めたのに気づいて息を吐いた。
「──・・・良い、夜を」
それは、この店の常連たちにとっては別れの挨拶のようなものだった。
「うん、あなたも・・・っていっても、シェラちゃん寝ちゃってるけど・・・」
苦笑に苦笑を返し、ヴァンツァーはシェラを抱き上げた。
先ほどまで座っていたカウンターへ戻ると、金髪の男──レティシアはまだそこにいた。
「ありゃ。あの子ひとりになっちゃったの?」
「やめておけ。────キングの連れだ」
友の言葉に、レティシアは口笛を吹いた。
「マジで? じゃあ、もうちっとここにいりゃあ、キングに会えるのかよ」
ワクワクとした表情は、やんちゃな少年のよう。
「らしいな。ま、暇なら顔でも拝んで帰れよ」
「何、お前もう帰る──って、お嬢ちゃん寝ちまったのか・・・」
相変わらず、酒弱いのに飲むんだよな、と笑う。
「ま、あんなキスされりゃあ、気持ち良くって寝ちまうわな」
「してやろうか?」
にやり、と笑うヴァンツァーに、レティシアも同じような笑みを返した。
「いらねぇよ。とっとと帰れ、このコブつき野郎」
蹴る真似をするレティシアに視線だけで別れの挨拶をすると、ヴァンツァーは眠ったシェラを抱いたまま店を出た。
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何がしたいのかは、よく分からん・・・。
ただ、ひたすらにカッコ良く見えるヴァンツァーを書いてあげたい気分になっていたんだと思われる・・・
──『賑やか』、というよりも『煩い』。
極彩色で彩られた、しかし薄暗い空間。
さして狭くはないはずのそこは、どこからこれだけの人間が出てきたのだというくらいの人で埋め尽くされていた。
そこにあるのは、煙草の煙と酒の匂い、──それから、『雄』と『雌』の探り合う、におい。
「──あれ? あの銀髪、お前んとこのじゃね?」
大音量の音楽が流れる店内では、耳元で話されでもしないと聞き取れない。
今も、肩を叩かれてようやく気づく。
「ほら。ぜってーそうだって。あんな銀髪、他にいねぇよ」
笑うと満腹の猫のような顔になる痩身の男は、旧知の仲である青年が銜えていた煙草を取り上げると、我が物顔で口をつけた。
ひと口吸うなり「──軽・・・まじぃ」と、その端正な容貌を歪めて灰皿に押し付けた。
「分かっていて何を・・・。まだひと口しか吸ってなかったんだ」
「ケチくさいこと言うなって。お前、金なんか腐るほど持ってんじゃん」
それより、アレ、いいのかよ、と猫眼に金髪の男は顎で示した。
億劫そうに、隣の男は藍色の視線を動かした。
猫眼の青年も整った顔をしているが、この青年がまたすさまじい美貌の主だった。
この店にいる『雌』はことごとく、彼の姿に目を奪われている。
艶やかな黒髪に、寛げられたシャツから覗く、白く、鍛えられた胸。
あらぬ妄想を抱くには、彼の美貌と肉体は十分すぎるほどに魅力的だった。
「隣の、見ない顔だけど・・・──ありゃ極上品だ」
舌なめずりせんばかりの友人の言葉に心を動かされた様子もなく、黒髪の男は懐から煙草のボックスを取り出すと、改めて火をつけた。
「────猫どうしが、何をしている・・・」
呟き、火のついた煙草を銜えたまま、ゆったりと歩を進める。
ただ歩いている、それだけの動作すらどこか優雅で、まるで舞踏でも踊っているよう。
「でね、そのときね・・・」
「──シェラ」
機嫌良くにこにこと話をしていた銀髪の主は、真後ろで聞こえた声に目を丸くした。
「・・・あれ、ヴァンツァーだ」
ケラケラと笑っている様子と、テーブルの上のグラスの数で、相当飲んだことが知れる。
「だいぶ飲んだな」
「ん~。らってね、みんな、たぁくさん、のんでね~、って」
「ほぅ・・・」
若干離れた──しかし、いつでも手を引けるだけの距離にいた男たちに、ヴァンツァーと呼ばれた男は軽く視線を向けた。
それだけのことで、男たちは竦み上がった。
「シェラちゃん、可愛いから」
こちらもシェラに負けず劣らず上機嫌な声をしているのは、長い黒髪を背中に流した中性的な美貌の男。
「ん~。シェラのこと、かわいいって、みんないうの」
「ぼくも、シェラちゃん、可愛いと思うよ」
「あはは。ありがとう、ルウ」
だ~いすき、と頬にキスをする。
「ふふ。くすぐったいよ」
「い~のぉ。ちゅーするの~」
「うん。ぼくは構わないけど・・・」
ちらり、とルウはヴァンツァーを見上げた。
「こんばんは」
「これが、面倒をかけたようだな」
「ううん。そんなことないよ。話し相手になってもらってたの、ぼくの方だから」
おそらくこのテーブルにあるグラスのうち半分は、この優男が空けたものなのだろうが、シェラと違ってまったく酔った様子がない。
「ルウ~、シェラとちゅーするの~」
とろん、とした瞳で、シェラはルウに向かって腕を伸ばす。
それを背後から引き寄せ、ヴァンツァーは紅く色づいた唇を自らのそれで覆った。
重ねるだけではない。
情事の前戯としても十分なほどに濃い口づけ。
煙草を持ったままの手でシェラの顎を持ち上げ、深く舌を差し込み、唾液を絡め、存分に口腔内を嬲ってからようやく唇を離す。
濡れて熟れた唇をそっと啄ばめば、甘えた声が鼻に抜ける。
酒が回っていたところに酸欠もあいまって、シェラはくったりとヴァンツァーの胸にもたれた。
「わぉ、濃厚~」
ルウが感心したように、きらきらとした瞳でパチパチ手を叩いている。
「してやろうか?」
ふ、と口端を持ち上げる仕草に、その様子を見ていた『雌』たちから悲鳴が上がる。
中には失神したものもいたらしい。
「ううん、いいや」
しかし、ルウはあっさりと首を振った。
また、ヴァンツァーも相手が頷くとは思っていない。
「こんなところに来るわりには、随分と身持ちが硬い」
「ここで待ち合わせなんだ」
「へぇ?」
「知ってるかな?──『キング』って呼ばれてる人なんだけど」
「──・・・」
これには、さすがのヴァンツァーも瞠目した。
「・・・あの、キングか?」
「あの、かどうかは知らないけど、彼はキングだよ。すっごいイイ男」
嬉しそうに微笑む顔は、恋する少女のよう。
珍しくも数瞬放心していたヴァンツァーだが、腕の中の存在が寝息を立て始めたのに気づいて息を吐いた。
「──・・・良い、夜を」
それは、この店の常連たちにとっては別れの挨拶のようなものだった。
「うん、あなたも・・・っていっても、シェラちゃん寝ちゃってるけど・・・」
苦笑に苦笑を返し、ヴァンツァーはシェラを抱き上げた。
先ほどまで座っていたカウンターへ戻ると、金髪の男──レティシアはまだそこにいた。
「ありゃ。あの子ひとりになっちゃったの?」
「やめておけ。────キングの連れだ」
友の言葉に、レティシアは口笛を吹いた。
「マジで? じゃあ、もうちっとここにいりゃあ、キングに会えるのかよ」
ワクワクとした表情は、やんちゃな少年のよう。
「らしいな。ま、暇なら顔でも拝んで帰れよ」
「何、お前もう帰る──って、お嬢ちゃん寝ちまったのか・・・」
相変わらず、酒弱いのに飲むんだよな、と笑う。
「ま、あんなキスされりゃあ、気持ち良くって寝ちまうわな」
「してやろうか?」
にやり、と笑うヴァンツァーに、レティシアも同じような笑みを返した。
「いらねぇよ。とっとと帰れ、このコブつき野郎」
蹴る真似をするレティシアに視線だけで別れの挨拶をすると、ヴァンツァーは眠ったシェラを抱いたまま店を出た。
***************
何がしたいのかは、よく分からん・・・。
ただ、ひたすらにカッコ良く見えるヴァンツァーを書いてあげたい気分になっていたんだと思われる・・・
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