小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
です。癖でカテゴリ分類ミスってたので修正。朝は時間なくて描写忘れてたけど、中高生設定かな・・・高校生と大学生でもいいけど。ま、学生時代のそのへん。
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考えて、考えて。
何度か口を開きかけては閉じるシェラの様子をしばらく黙って見ていたヴァンツァーだったが、いい加減周りの目も煩い。
「・・・ではな」
呟き、服を掴んでいるシェラの手を外させようとした。
「──か、傘はある!」
俯いたまま、手にした折りたたみ傘を押し付けてくるシェラに、ヴァンツァーは少し怪訝な顔になった。
「銀色?」
「あ・・・あるんだから、使えばいいじゃないか!」
ちょっと怒ったような口調で早口にまくし立てる様子に、ヴァンツァーははっきり首を傾げた。
「何を言っている?」
「だ、だから」
「俺がお前の傘を使ったら、お前はどうする」
「っ・・・わ、私は・・・だ・・・──大丈夫だ!」
「この雨でか?」
「・・・・・・」
どこまでも冷静な男の声に、シェラは思い切り顔を顰めた。
自分だって、なぜこんなことを言い出したのかまるで分からないのだ。
それなのに、断られたりしたら余計にどうしていいのか分からなくなる。
さっさと受け取れ、とばかりに、硬い腹に傘を押し付ける。
押し問答をしていることこそが時間の無駄だと思ったのだろう。
ヴァンツァーは「分かった」と言った。
「ありがたく借りよう」
シェラはその言葉に、どこかほっとしたように細く息を吐き出し、頷いた。
「あぁ、そうして」
くれ、という言葉と、ワンタッチで傘が開く音がしたのはほぼ同時。
バラバラバラッ! と大きな雨粒が傘に当たったのと──そして、強い力で腕を引かれたのも。
「・・・・・・────っ!!」
一瞬何が起こったのか理解出来ず、分かってしまったら叫びそうになった。
「なっ、なに」
「傘は貸してもらう。──だが、俺ひとりで入る必要もないだろう」
「そ、そんなの」
「暴れるな。濡れるぞ」
「~~~~~っ!」
肩を抱かれ、額がヴァンツァーの肩口にくっつくと、シェラは反射的に身を引こうとした。
だが、叶わなかった。
敏捷性ならばともかく、力では絶対にこの男に勝てない。
「なっ、なにすっ」
「さっさと行くぞ。急いでいると言った」
「・・・・・・」
顔にも声にも表情のない男だったが、その言葉に嘘はなさそうだった。
仕方なく・・・本当に仕方なく、ヴァンツァーとひとつ傘の下歩き出したシェラだった。
ヴァンツァーの手がシェラの肩の上に置かれているのは、逃走防止のためだろう。
居心地が悪い思いをしながら、シェラは沈黙が訪れないように口を開いた。
「・・・そういえば、お前はどうしてここへ・・・?」
「ビアンカが、手芸の品評会に出展したから時間があれば見に来いと」
この男が親しくしている女性の名に、シェラはほんの少し、自分でも気づかないうちに眉を寄せていた。
「・・・よく、時間があったな」
この世界に来たときから、ヴァンツァーが尋常でないほどの課題を抱えた生活をしているのを知っているシェラだ。
低くなったシェラの声に気づいているのかいないのか、ヴァンツァーは軽く肩をすくめた。
「まぁ、友達の頼みだからな」
「・・・・・・」
あぁ、そうか、とどこか納得したシェラだった。
「・・・急いでいるのは、彼女に会うためか」
ポツリと呟いた声は、ほとんど独白だった。
雨音より確実にちいさかったはずだというのに、耳の良い男には聴こえたらしい。
「いや。ここへ来た分、課題をこなす時間が減ったからな。寮へ戻ってすぐに取り掛からないと、明日の提出に間に合わない」
どこか「参った」という響きのする声に、シェラは思わず顔を上げて隣の男を見た。
「・・・どうして・・・?」
課題が終わらないならば、なぜここへ来たのか、と。
暗に問うシェラに、ヴァンツァーは僅かに首を傾げた。
「さぁ。無理強いされたわけでもないが──まぁ、来なければ来ないで煩いからな」
この男にしては本当に珍しく、どこか愉しそうな声だった。
「・・・・・・そうか」
反対に、シェラの声は沈み込むばかりだった。
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続くかも知んないし、続かないかも知んない。
昔のヴァンツァーは、絶対かっこ良かった。
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