小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
生まれてきますように・・・
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だいぶ大きくなったお腹を撫でる。
時折、『ドンドン!』と威勢の良い反応が返るのに、自然と笑みが浮かぶ。
「もうちょっとだね」
「うん」
にこっと笑うのは、黒髪に藍色の瞳の美少女──年齢的には『美女』と言うべきなのだろうが、その無垢で明るい瞳と表情が、ソナタを未だ少女のように思わせる。
隣にいるのは、彼女が誰よりも大好きで、尊敬している、自分を産んでくれた人。
シェラにお腹を撫でてもらうと、すごく安心する。
「女の子だっけ?」
「そう。きっと、すっごい可愛い子が生まれてくると思うの」
「うん。間違いない」
ソナタもその夫も、類稀な美貌の持ち主だ。
どちらに似ても、綺麗な子に違いない。
シェラとソナタは顔を見合わせて笑った。
「早く会いたいな~。ね~、Babyちゃん」
よしよし、とお腹を撫でる。
そして、ふと思いついて訊ねてみた。
「──シェラも、私たちに会いたかった」
藍色の瞳に、シェラは苦笑を返した。
「私はね、もう、不安ばっかりで・・・もちろん、無事に生まれてきて欲しいとは思ってたけど」
「そっかぁ。まぁ、男の妊婦さんって、あんまりいないもんねぇ」
「『あんまり』どころじゃないよ」
また苦笑する。
「パパは、ちゃんとシェラの話聞いてくれた?」
シェラは「うん」と頷いた。
当時を思い返し、ぽつり、ぽつり、と口を開く。
「・・・あいつ・・・仕事人間だったあいつが、職場に行くの遅らせてついててくれたり、休めるときは一緒に病院行ってくれたり。不安ばっかりで、楽しいことなんてほとんど考えられなかった私を、宥めて、慰めて・・・きっと、あいつの方が大変だったと思うよ」
「でも、パパはシェラに赤ちゃん産んで欲しかったんだね」
「うん・・・」
今でも忘れられないんだけど、とシェラは薄っすらと潤んだ瞳で言った。
「『生きていて、良かった』って、言ったんだ」
「──え・・・?」
「ソナタたちが生まれたあと、病室で。『生きていて、良かった』、『戻ってきたのは、間違いじゃなかった』って」
はらり、とひと筋涙が零れる。
「最初は、何て酷いことを言う男なんだ、と思ったんだけど・・・」
この手で殺したのに、『生きていて良かった』なんて、残酷すぎる。
シェラは「でも」、と続けた。
「でもそれは、たぶんこういう意味だったと思うんだ」
静かに聴いていたソナタは、なぁに? と首を傾げた。
「・・・あの男は、私にも生命を生み出すことが出来るって、教えてくれたんだ」
そんなこと、あの男は絶対に口にはしないけれど。
きっと、そういうことなのだ。
あの男は、ああ見えて誰よりもやさしいから。
「命を奪うことしか出来なかった私にも、生命を育むことが出来るんだって、教えてくれたんだよ」
ふわり、と微笑むシェラに、ソナタも同じような微笑を浮かべた。
「うん。実は、パパって結構『イイ男』なんだよね」
「全然分からないけどね」
「ね」
ふふふ、とよく似た面立ちの親子は笑いあった。
どうか、この子も無事に生まれてきますように。
そうしたら、自分が愛してもらったのと同じように、たくさん、たくさん、『愛してる』を、あげるからね。
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今日は妹が帝王切開で出産する日。妊娠したことで卵巣嚢腫を患っていることも分かったので、出産と手術を一緒にすることに。
今朝、赤ちゃんの心音が弱くなったというので緊急手術が行われることになり、ついさっき、女の子が無事生まれた、と連絡がありました。
あとは、妹が無事に戻ってくるのを祈るばかりです。
元気に戻ってきて、赤ちゃんをたくさん、たくさん愛してあげてね。
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