小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
ちょっと珍しい組み合わせでいってみましょう!
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「・・・あのさ」
ぶっきらぼうな口調と、ちょっと睨みつけるような顔つきで、ふわふわの銀髪の天使みたいな美青年が見上げてくる。
「なぁに?」
「ちょっと・・・その・・・」
ツンと澄ました感じがシャム猫のような雰囲気でそこが可愛らしいのだけれど、今日は視線があちこち泳いでいる。
「うん?」
「だから・・・その・・・お、お願い、が・・・」
後半どんどん声がちいさくなっていったが、思いがけない言葉に目を丸くした。
「めっず!」
「う、うるさい!」
真っ白い肌が赤く染まって、うがー! と怒った仔猫みたいになっているのがまた可愛い。
「もういい!」
ぷんっ、とそっぽを向いて出て行こうとするのを、「お兄ちゃん」と言って呼び止めた。
「そんなおっきい弟はいません!」
「アー君へのプレゼント探し?」
「ぐっ・・・」
なぜそれを、という顔で睨みつけてくるのを、へらりと笑ってかわす。
──似たものどうしだなぁ。
微笑ましいことこの上ない。
「おれに頼むってことは、装飾品か化粧品かな?」
「・・・どっちも」
聞きましょう、とダイニングを通ってリビングへ案内し、席を勧める。
ファロット邸にある屋敷のひとつ、奥さんと暮らしている家のリビングには、現在自分たちふたりだけ。
リビングの中には小上がりの和室もあるが、ふすまが閉じられているし、ソファでいいだろう。
奥さんは弟妹と無限金庫──シェラさん談──と一緒に、おもちゃ屋さんへ行っている。
「どんなものがいいのかな?」
紅茶はあまり上手く淹れられないので、たまに遊びに来るちびちゃん用のりんごジュースにした。
「ハンドクリーム」
「質感とか香りとかの希望はある?」
「炊事すると冬は結構荒れるみたい。でも、指先とか掌に油分がつくと演奏出来なくなるから、ぼくが持ってるの全部ダメで・・・寝る前だけつけてもらってるけど、普段からつけるのはどんなのがいいのか分からなくて」
「あぁ。そういえばアー君、演奏会行く前は湯船に入るって言ってたな」
最悪、手だけでもお湯に浸けると音が違うらしい。
演奏家に乾燥は大敵だ。
「おっけー。香りはない方がいい?」
「柑橘の香りのある?」
「うん。大丈夫だよ」
おまかせあれ、と言ったら、ちょっとほっとした顔になった。
可愛い。
「あとは、アクセサリーだっけ?」
「ん・・・でも、指輪とか、時計はつけられないし」
ネックレスは・・・と考え、どうやってもドッグタグしか浮かばなくて笑いを堪えていたら、「もういっそ首輪とか」とお兄ちゃんが言うものだから、我慢出来ずに吹き出した。
「アー君、ピアスは開けてないんだっけ?」
「開いてない」
「開けちゃえば?」
菫色の瞳が真ん丸になって、そんな変なことを言ったつもりはないので首を傾げた。
「え、ダメ? 開けた直後は無理だけど、安定したらお揃いというか、ワンセット買ってふたりで片耳ずつつけたら?」
真ん丸になっていた瞳が宝石みたいにきらきらし始めた。
どうやらお気に召したらしい。
可愛い。
「開けるなら冬のうちがいいよ。夏は消毒しても汗かくし、ちょっとリスクがあるからね」
「おすすめの金属ってある?」
「プラチナはアレルギー出にくいかな。金でも18金以上なら。純度の低いものとか銀は、しばらく避けた方がいいと思うよ」
こくこく頷いて真剣に聴いている。
可愛い。
「パパさんにデザイン頼んだら、喜ぶんじゃないかな。穴が安定するまで数ヶ月かかるし」
「父さん、たぶん実子と同じくらいアリスのこと好きだよね」
「おれもアー君大好き」
そんな風に言うと、やきもちを焼いてムッとした顔になることもあるけれど。
「あげないよーだ」
ふふん、と鼻で笑うのは、だいぶ機嫌が良いときだ。
可愛い。
「ハンドクリームは、クリスマスまでに用意しておくよ」
「うん。ありがとう!」
おれに対しては珍しく、満面の笑みを浮かべてくれる。
可愛い。
グビッ、とりんごジュースを飲み干すと、「じゃあね!」と帰って行った。
「はぁ~、可愛い」
グラスをキッチンへ下げると、小上がりのふすまを開けた。
「──ね、アー君?」
「・・・・・・」
膝を抱えて俯いている弟分は、すこぶる耳が良い。
「何で隠れてるの?」
「・・・訊くか、それ?」
「あー。お兄ちゃんは、鉢合わせしたら用件言わずに帰ったかもね」
「じゃあ訊くなよ」
「でも、アー君がうちに来るのなんて、そう珍しくないし」
何だかんだパパさんやシェラさんに相談しづらいときなんかは、おれに話を持ってくる弟分だから、酒を飲みながら話すこともある。
「ねぇ、アー君」
「何だよ」
「知らないフリ出来る?」
「・・・・・・」
「ドアならともかく、ふすまじゃアー君には意味ないよね?」
「・・・・・・」
「盗み聞きは良くないと思うなぁ」
「──っ!」
バッ、と顔が上げられ、予想通り真っ赤だったのでにっこり笑ってやった。
「どうせふたりとも同じこと考えてるんだから、サプライズやめて仲良く相談したらいいのに」
「・・・あんたはどうなんだよ」
「おれの奥さんは、欲しいもの言ってくれるから」
奥さんは物欲が薄いけれど、欲しいものは口にしてくれる。
お兄ちゃんの場合は遠慮がちだから、アー君が悩むのも理解は出来る。
「・・・たぶん、顔に出ると思う」
「だろうね」
「・・・何かアドバイスくれ」
男前なのに雨ざらしの犬みたいな顔になっていて、可愛いような気の毒なような気持ちになる。
「プレゼント渡す前に、1曲か2曲演奏したら?」
「──は?」
「それもプレゼントになるでしょう?」
「・・・まぁ。でも何でだ?」
不思議そうな顔をしている弟分は、自覚がないらしい。
「音楽家モードのアー君は、パパさんにちょっと似てるからね」
これまた不思議そうに首を傾げているので、「いいからやってみる!」と肩を叩いた。
素直に頷いているので、きっと上手くいくだろう。
可愛い弟分たちが、また1年仲良く過ごせますように。
そんな風に余裕でいたのだけれど。
──おれが奥さんから特大のプレゼントをもらうまで、あとちょっと。
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皆様、また1年どうぞよろしくお願いいたします。
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