小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
こんなことでも考えてないとやってられん。
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──プロポーズしたはいいが・・・。
アリス・キニアンは、真面目な彼らしく、深刻な顔をして悩んでいた。
「・・・給料の3ヶ月分だろ? っていうか、俺バイトじゃん・・・」
学生の身分でも演奏会に出れば出演料はもらえるが、それとバイト代を合わせてもひと月に懐に入ってくる額など高が知れている。
貯金もあるが、それにしたって、一般的に言うところの『給料の3ヶ月分』といえば、7桁いくかいかないか、の額だろう。
出せないこともないが、正直厳しいのが現実。
婚約指輪を買うための金銭を親に無心するなど彼の男としてのプライドが許さないし、そんなものをもらってもカノンは喜ばないだろう。
「──よし」
困った彼は、とりあえず専門家のところへ行くことにした。
「──あ、アー君。いらっしゃい」
にこやかに出迎えてくれたのは目に眩しい銀髪の美女──もとい、美青年。
本当に、40を超えているというのが嘘だと言い切れるくらい、まだまだ20代で通る。
「・・・こんにちは」
「あれ。カノン、まだ大学だけど?」
「あ、いいんです。今日は、シェラさんに用があって・・・」
首を傾げたシェラだったが、とりあえず家の中に青年を招いた。
優美なティーセットでお茶を振る舞い、「それで?」と話を聞くことにした。
「・・・あ・・・あの・・・」
「うん」
「お、俺・・・この前、カノンに・・・」
赤くなって俯いていることでピンときたらしい。
シェラはにっこりと微笑んだ。
「あぁ、うん。聞いてる。プロポーズされた~、って嬉しそうだったよ」
「──へ? 嬉しそう?」
「うん。もうね、ずっと顔にこにこしてて、すぅごい可愛いんだから」
「・・・あ、そうなんですか・・・?」
おかしいな、俺の前ではそんな顔──と思ったキニアンだったが、それはまぁ、いつものことだ。
「で?」
「あ、はい。あの、本当なら『息子さんを俺に下さい』って、ご両親揃ってるときに挨拶に来ないといけないんでしょうけど・・・」
「あはは。アー君のそういう真面目なところ好き」
若干照れて頭を掻いたキニアンは、言葉を続けた。
「でも、その前にあいつに婚約指輪渡したくて」
「──あぁ、そうなんだ」
「はい・・・でも、その・・・俺、そういうの疎いから、相場とか分からなくて。──で、ヴァンツァーさんにデザインとかお願いしようかな、って」
「うん。喜ぶと思うよ──っていうか、他の人間になんてデザインさせないと思うんだ」
苦笑するシェラに、キニアンは少し躊躇ってから真剣な表情で切り出した。
「・・・で、その・・・相場を、教えていただきたくて」
「──相場?」
「・・・はい」
長身をちいさく縮めている様子に、シェラは「ははぁ」、と思った。
「そうか。男の子だもんね。ヴァンツァーには値段のこと、相談しづらいよね」
「・・・・・・」
頷く青年に、シェラは「ちょっと待っててね」と言い置いてリビングから2階へと向かった。
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続く・・・と思う。
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