小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
時期を考えろ。
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3月のある日、カノンはたまたま遊びに行った妹の教室にたまたまいた少年が、たまたま部活がないというので、顎を逸らして見上げるほどの身長差の少年に「シェラが、『暇なときは遊びに来てもらってね』って言ってた」と言ってみた。
「あぁ、うん」
と生返事をする少年に「来るの、来ないの?」と詰め寄れば、「行く」とだけ返ってきた。
放課後、ソナタは「お邪魔しちゃ悪いから~」とか言って走って帰ってしまった。
家までの道のり、車にするか? と言われたが、何だか歩きたい気分だったので徒歩にした。
長身で無愛想な少年は、文句を言うでもなくカノンの隣を歩いている。
しかし、これがどうも会話にならない。
キニアンが寡黙であることも原因だが、あまり話題がないのだ。
だから、カノンはとりあえず、つい先日この少年からもらったものについて訊いてみた。
「あのさ」
「・・・うん?」
「マカロン、ありがと」
「え? あ、あぁ。いや、別に」
「美味しかった」
「・・・そうか」
こくりと頷いた少年は、非常に端正な容貌をしているものの、とてもではないがその手のプレゼントの話題に明るい雰囲気ではない。
どちらかといえば、無愛想だし、無口だし、女の子にプレゼントなどしそうもないタイプだ。
「何でマカロンにしたの?」
「え・・・?」
「ホワイトデーのお返し。男の子が選ぶのって、マシュマロとかキャンディーが多くない?」
「あー、・・・そうなのか?」
頬を掻いて困った顔をしているから、やはりこういうネタは疎いのだろう。
「何で? 何でマカロン?」
「・・・嫌いだったか?」
「美味しかった、って言ったじゃん。好きだよ」
「そっか・・・」
どこかほっとした顔になる少年。
──気になる。
気になってしまっては、追求せずにはいられない。
カノンは『どうして、どうして』と少年の服の袖を引いた。
見下ろしてくる緑の瞳とかっちり視線がぶつかった途端、ぱっと逸らされた。
「・・・何で目逸らすの」
「いや、別に・・・」
「失礼だよ」
「悪い・・・」
「で、何でマカロン」
「・・・何となく」
「何となくでアリスがマカロン選べるとは思えないんだけど」
「・・・・・・」
しばらく無言が続いたが、キニアンはボソッと呟いた。
「・・・端末で、調べた」
「調べた?」
「うん」
答えたぞ、とでも言いたげな少年。
しかし、ここで追求をやめるようなカノンではない。
「何て検索したの?」
「──は?」
「端末で、何て入力して検索したの?」
「・・・何でそんなこと訊くんだよ」
「だって、アリス絶対『マカロン』なんて名前知らないもの」
「・・・・・・」
図星らしい。
すぐに顔に出る少年は、嘘を吐くどころか隠し事も出来ないらしい。
「ねぇ、教えて?」
くいっ、と袖を引いて首を傾げると、顔を背けられてしまったが、耳まで赤くなっているのが分かる。
「・・・・・・『お菓子』と、『ホワイトデー』、だよ」
「嘘だね」
「な、何でだよ!」
「だって、アリス正直だから、『嘘です』って顔に書いてあるもん」
「──えっ」
思わず頬に手をやってから、はっと気づいたらしい。
カノンはそれを見てくすくすと笑った。
「ほーんと、正直。可愛い」
「・・・・・・それ」
「え?」
「・・・それ、入れた」
「え、どれ?」
「・・・・・・」
「えっと・・・・・・あ、『可愛い』?」
「・・・・・・」
分かりやすい。
カノンは「ふぅん」と呟くと、キニアンの腕に自分のそれを絡めた。
「──っ、おい!」
「いーじゃん、別に」
「だって」
「ぼくのこと、『可愛い』と思ってるんでしょう?」
「・・・・・・」
「だから、可愛いお菓子、探したんだよね?」
「・・・・・・」
「じゃあ、いいじゃん。可愛いぼくが、こうして腕組んでくれてるんだよ? 嬉しくない?」
「・・・・・・」
「返事」
「・・・嬉しい、です」
「よし」
そうして、ふたりはそのままファロット邸へと脚を踏み入れることになったのである。
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何でもいいや、平和なら。
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