小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
久々の小ネタでも。
しばらく可愛いキニアンを書いていたので、今日はちょっとデキる子を書いてみましょうか。
しばらく可愛いキニアンを書いていたので、今日はちょっとデキる子を書いてみましょうか。
**********
カノンは膨れていた。
一緒に暮らしている恋人がひと月ほど仕事で家を空けていて、先ほどようやく帰ってきた。
帰ってきた、とは言っても、今ふたりは肩を並べて宇宙港から駐車場への道を歩いていた。
暑かった夏がようやく終わりを告げる頃にはすっかり日没も早くなり、空は紺色の天幕で覆われていた。
逢いたくて、逢いたくて、何の連絡もせずに宇宙港に迎えに行ったカノンを、キニアンは一瞬驚いた目で見つめたのだけれど。
──・・・それだけって、どういうこと?!
それが、カノンの膨れっ面の原因だ。
ひと月も会えなかったのに、尊敬する音楽家たちとの演奏会が嬉しかったらしい男は「おかえり」と声を掛けたカノンに「ただいま」と答え、頭をぽんぽん撫でただけで久々の再会を終わらせてしまった。
「わざわざ来なくても良かったのに」
そんなことまで言われ、カノンは膨らませた頬で空が飛べるのではないかというくらい、むすーっとした顔になった。
しかし、夜道だからか、そんなことに気づかないらしい男はスタスタと自分の車を目指して歩いている。
「仕事帰り?」
こちらを見もしないで訊ねてくる男に、カノンはこれ以上ないくらい不機嫌な声で「そうですけど、それが何か?」と答えた。
けれど、それは嘘だった。
本当は、休みをもらっていたのだ。
だって、どう考えたって今日は仕事が手に付かない。
ちいさい頃から大好きだったテーマパークを運営する大企業に入社して5年。
若いけれど尊敬出来る経営陣に囲まれ、刺激の多い毎日。
決して楽しいことばかりではないけれど、ただの歯車でないことは自負している。
仕事に対する責任感だってある。
それでも、1週間やそこらならともかく、ひと月はやっぱり長い。
それに、今日は金曜日だ。
絶対仕事にならない。
「じゃあ、どこかで夕飯食べて帰るか。何がいい?」
ようやく会えて自分は嬉しかったというのに、何でもない顔をして夕飯の話をする恋人が憎らしく思えてきたカノンだった。
「アリスの馬鹿。浮気者」
ぽつりと呟かれたカノンの言葉に、前を歩いていた青年は「は?」と言って後ろを振り返った。
「美人なコンミスのお姉さんと、浮気してたんでしょ」
「今回はコンマスだよ」
「じゃあフルートのお姉さん!」
「フルートはお兄さんしかいませんでした」
「じゃあ、じゃあ、マリアさんみたいな可愛いヴァイオリニスト!!」
「・・・可愛くないし」
ボソッと本心からの言葉を発した男に、カノンは尚も食って掛かろうとした。
「やきもち?」
「──は?!」
真顔のまま訊ねられ、カノンはちょっとキレ気味に返した。
「ぼくが? やきもち? 妬くわけないでしょ、アリス相手に!!」
「あぁ、そう」
全然興味がなさそうな声でそんなことを言って、また背を向けて歩き出す。
駐車場は宇宙港に併設されているけれど、非常に広大な敷地のため、バスを使う人間も少なくない。
けれど、それほど遠い場所ではないからか、キニアンはバスではなく徒歩を選んだ。
身体を動かすことは苦にならないカノンだから黙ってついてきたわけだが、街灯は立っていても薄暗い道は、あまり人通りがない。
だからこそ大きな声で喧嘩腰に喋っているカノンだったのだが、再会を喜びもしなければ、会ってから笑顔のひとつも見せない男に、キレるなという方が無理な話だ。
「・・・綺麗なお姉さんじゃなくて、ぼくみたいに可愛い男の子と浮気してたんだ」
「まだ言ってんのか」
足を止めて零された大きめのため息に、カノンは思わず肩をすくめて固く目を閉じた。
怒られる、と思ったのに、軽く唇を啄まれて目を瞠った。
目を真ん丸にしているカノンの表情が分かる程度に顔を離したキニアンは、眉ひとつ動かすことなく呟いた。
「──これだけ惚れさせておいて、今更何言ってんだお前」
呆れた声音でそれだけ言うと、また背を向けて歩き始める。
しばらく呆然とその背中を見送っていたカノンだけれど、みるみるうちに白皙を真っ赤に染めると、固く握った拳を口許にあてた。
──なに恥ずかしいこと言ってんの?!
あまりにも恥ずかしすぎて、罵る言葉すら出てこなくなった。
──誰だ、あの偽物!!
あんな台詞、言うわけない! と決めつけたカノンは、はっとした。
死ぬほどかっこつけなくせに死ぬほど照れ屋なあの青年のことだ。
きっと、思わず口にしてしまった自分の言葉が恥ずかしくて赤くなっているに違いない。
歩調を変えない後ろ姿は余裕に見えるが、絶対にそんなことあるわけない。
ニタァ、と。
可愛い顔をちょっとばかし悪い顔に変えると、カノンはこちらのことなど気にも留めていないように距離をとっていく男の背を、ズンズン大股で追いかけた。
しかし、背が高く、その分脚も長い男になかなか追いつけないと知ると、ムキになって小走りになり、前へと回りこむ。
普段歩くときは足音などさせないカノンだが、走ればその気配は抜群に耳の良い青年に伝わらないわけがない。
正面に立ったカノンにぶつかることもなく足を止めたキニアンは、「何だ?」と軽く首を傾げた。
その様子は全然照れてもいなかったし、顔も赤くなかった。
夜道とはいえ街灯はあるし、キニアンの表情の変化が、目の良いカノンに分からないはずがないのに。
「カノン?」
本当に、ただ不思議そうに訊ねてくる男に、カノンの方が呆然としてしまった。
「腹減ったのか?」
途端に、カノンは形の良い眉を吊り上げた。
「馬鹿! アリスの馬鹿!!」
「は?」
「馬鹿馬鹿馬鹿!!」
自分だけが恥ずかしい思いをしているなんて不公平だ! と、カノンはそんな風に思いながら八つ当たり気味に声を荒げた。
さすがに怒るかと思ったけれど、頭半分以上背の高い男は、呆れたようにため息を零すと、
「はいはい」
と言ってカノンの頭を叩いた。
そして、また人気のない駐車場を歩き出す。
「~~~~っ、ばかーーーっ!!」
「はいはい、馬鹿ですよ」
「何それ、何その余裕な態度! ちょー腹立つんですけど!!」
「はいはい、ごめんなさい」
軽く流す男に、カノンはますます唇を尖らせ、足音も高らかに歩み寄っていく。
「馬鹿って言ってるんだよ? 腹立たないわけ?」
「別に────怒られたいのか?」
「ち、違うけど!」
「じゃあいいだろう。別に腹立たないし、怒る気もないよ」
「何で!!」
もう、何としてでも顔色ひとつ変えない男の神経を昂らせてやりたくて仕方のないカノンだった。
食ってかかると、立ち止まることすらしない青年は、前を向いて歩いたまま口を開いた。
「だって、お前の『馬鹿』は、『好き』ってことだろう?」
「──は?!」
目を剥いたカノンであった。
口もぽかん、と開けて、思わず足を止めてしまった。
そんなカノンに気づいたのか、キニアンも足を止めて振り返る。
「だ、誰がそんなこと」
「お前だよ。お前がそう言ってる」
「言ってな」
「言ってるよ。お前の声と心臓」
「・・・し、しん・・・?」
声ならともかく、心臓とは何だ。
目をぱちくりさせているカノンに、キニアンはようやくその端正な顔に仄かな笑みを浮かべて見せた。
「ちゃんと聴こえてるよ」
「・・・・・・」
よしよし、とカノンの頭を撫でると、キニアンは見つけた自分の車に向かって行き、決してそんなつもりはないだろうに、
「置いていくぞ」
と、少し笑った声を投げかけたのだった。
**********
──惚れてまうやろーーーーーーっ!!(カノン談/笑)
っていうことがあったよ、アリスひどいでしょ? 恥ずかしいでしょ?! って、その翌日くらいに久々にソナタと一緒に寝ることにした──ライアンを追い出したとも言う──カノンがベッドの中で延々喋るのを聴いて、あくびを噛み殺しつつ、「良かったねぇ」とお兄ちゃんの頭を撫でてやるデキた妹がいたよ、という話?(コラ)
いつも、何度でも、ぼくはきみに恋をする。
カノンは膨れていた。
一緒に暮らしている恋人がひと月ほど仕事で家を空けていて、先ほどようやく帰ってきた。
帰ってきた、とは言っても、今ふたりは肩を並べて宇宙港から駐車場への道を歩いていた。
暑かった夏がようやく終わりを告げる頃にはすっかり日没も早くなり、空は紺色の天幕で覆われていた。
逢いたくて、逢いたくて、何の連絡もせずに宇宙港に迎えに行ったカノンを、キニアンは一瞬驚いた目で見つめたのだけれど。
──・・・それだけって、どういうこと?!
それが、カノンの膨れっ面の原因だ。
ひと月も会えなかったのに、尊敬する音楽家たちとの演奏会が嬉しかったらしい男は「おかえり」と声を掛けたカノンに「ただいま」と答え、頭をぽんぽん撫でただけで久々の再会を終わらせてしまった。
「わざわざ来なくても良かったのに」
そんなことまで言われ、カノンは膨らませた頬で空が飛べるのではないかというくらい、むすーっとした顔になった。
しかし、夜道だからか、そんなことに気づかないらしい男はスタスタと自分の車を目指して歩いている。
「仕事帰り?」
こちらを見もしないで訊ねてくる男に、カノンはこれ以上ないくらい不機嫌な声で「そうですけど、それが何か?」と答えた。
けれど、それは嘘だった。
本当は、休みをもらっていたのだ。
だって、どう考えたって今日は仕事が手に付かない。
ちいさい頃から大好きだったテーマパークを運営する大企業に入社して5年。
若いけれど尊敬出来る経営陣に囲まれ、刺激の多い毎日。
決して楽しいことばかりではないけれど、ただの歯車でないことは自負している。
仕事に対する責任感だってある。
それでも、1週間やそこらならともかく、ひと月はやっぱり長い。
それに、今日は金曜日だ。
絶対仕事にならない。
「じゃあ、どこかで夕飯食べて帰るか。何がいい?」
ようやく会えて自分は嬉しかったというのに、何でもない顔をして夕飯の話をする恋人が憎らしく思えてきたカノンだった。
「アリスの馬鹿。浮気者」
ぽつりと呟かれたカノンの言葉に、前を歩いていた青年は「は?」と言って後ろを振り返った。
「美人なコンミスのお姉さんと、浮気してたんでしょ」
「今回はコンマスだよ」
「じゃあフルートのお姉さん!」
「フルートはお兄さんしかいませんでした」
「じゃあ、じゃあ、マリアさんみたいな可愛いヴァイオリニスト!!」
「・・・可愛くないし」
ボソッと本心からの言葉を発した男に、カノンは尚も食って掛かろうとした。
「やきもち?」
「──は?!」
真顔のまま訊ねられ、カノンはちょっとキレ気味に返した。
「ぼくが? やきもち? 妬くわけないでしょ、アリス相手に!!」
「あぁ、そう」
全然興味がなさそうな声でそんなことを言って、また背を向けて歩き出す。
駐車場は宇宙港に併設されているけれど、非常に広大な敷地のため、バスを使う人間も少なくない。
けれど、それほど遠い場所ではないからか、キニアンはバスではなく徒歩を選んだ。
身体を動かすことは苦にならないカノンだから黙ってついてきたわけだが、街灯は立っていても薄暗い道は、あまり人通りがない。
だからこそ大きな声で喧嘩腰に喋っているカノンだったのだが、再会を喜びもしなければ、会ってから笑顔のひとつも見せない男に、キレるなという方が無理な話だ。
「・・・綺麗なお姉さんじゃなくて、ぼくみたいに可愛い男の子と浮気してたんだ」
「まだ言ってんのか」
足を止めて零された大きめのため息に、カノンは思わず肩をすくめて固く目を閉じた。
怒られる、と思ったのに、軽く唇を啄まれて目を瞠った。
目を真ん丸にしているカノンの表情が分かる程度に顔を離したキニアンは、眉ひとつ動かすことなく呟いた。
「──これだけ惚れさせておいて、今更何言ってんだお前」
呆れた声音でそれだけ言うと、また背を向けて歩き始める。
しばらく呆然とその背中を見送っていたカノンだけれど、みるみるうちに白皙を真っ赤に染めると、固く握った拳を口許にあてた。
──なに恥ずかしいこと言ってんの?!
あまりにも恥ずかしすぎて、罵る言葉すら出てこなくなった。
──誰だ、あの偽物!!
あんな台詞、言うわけない! と決めつけたカノンは、はっとした。
死ぬほどかっこつけなくせに死ぬほど照れ屋なあの青年のことだ。
きっと、思わず口にしてしまった自分の言葉が恥ずかしくて赤くなっているに違いない。
歩調を変えない後ろ姿は余裕に見えるが、絶対にそんなことあるわけない。
ニタァ、と。
可愛い顔をちょっとばかし悪い顔に変えると、カノンはこちらのことなど気にも留めていないように距離をとっていく男の背を、ズンズン大股で追いかけた。
しかし、背が高く、その分脚も長い男になかなか追いつけないと知ると、ムキになって小走りになり、前へと回りこむ。
普段歩くときは足音などさせないカノンだが、走ればその気配は抜群に耳の良い青年に伝わらないわけがない。
正面に立ったカノンにぶつかることもなく足を止めたキニアンは、「何だ?」と軽く首を傾げた。
その様子は全然照れてもいなかったし、顔も赤くなかった。
夜道とはいえ街灯はあるし、キニアンの表情の変化が、目の良いカノンに分からないはずがないのに。
「カノン?」
本当に、ただ不思議そうに訊ねてくる男に、カノンの方が呆然としてしまった。
「腹減ったのか?」
途端に、カノンは形の良い眉を吊り上げた。
「馬鹿! アリスの馬鹿!!」
「は?」
「馬鹿馬鹿馬鹿!!」
自分だけが恥ずかしい思いをしているなんて不公平だ! と、カノンはそんな風に思いながら八つ当たり気味に声を荒げた。
さすがに怒るかと思ったけれど、頭半分以上背の高い男は、呆れたようにため息を零すと、
「はいはい」
と言ってカノンの頭を叩いた。
そして、また人気のない駐車場を歩き出す。
「~~~~っ、ばかーーーっ!!」
「はいはい、馬鹿ですよ」
「何それ、何その余裕な態度! ちょー腹立つんですけど!!」
「はいはい、ごめんなさい」
軽く流す男に、カノンはますます唇を尖らせ、足音も高らかに歩み寄っていく。
「馬鹿って言ってるんだよ? 腹立たないわけ?」
「別に────怒られたいのか?」
「ち、違うけど!」
「じゃあいいだろう。別に腹立たないし、怒る気もないよ」
「何で!!」
もう、何としてでも顔色ひとつ変えない男の神経を昂らせてやりたくて仕方のないカノンだった。
食ってかかると、立ち止まることすらしない青年は、前を向いて歩いたまま口を開いた。
「だって、お前の『馬鹿』は、『好き』ってことだろう?」
「──は?!」
目を剥いたカノンであった。
口もぽかん、と開けて、思わず足を止めてしまった。
そんなカノンに気づいたのか、キニアンも足を止めて振り返る。
「だ、誰がそんなこと」
「お前だよ。お前がそう言ってる」
「言ってな」
「言ってるよ。お前の声と心臓」
「・・・し、しん・・・?」
声ならともかく、心臓とは何だ。
目をぱちくりさせているカノンに、キニアンはようやくその端正な顔に仄かな笑みを浮かべて見せた。
「ちゃんと聴こえてるよ」
「・・・・・・」
よしよし、とカノンの頭を撫でると、キニアンは見つけた自分の車に向かって行き、決してそんなつもりはないだろうに、
「置いていくぞ」
と、少し笑った声を投げかけたのだった。
**********
──惚れてまうやろーーーーーーっ!!(カノン談/笑)
っていうことがあったよ、アリスひどいでしょ? 恥ずかしいでしょ?! って、その翌日くらいに久々にソナタと一緒に寝ることにした──ライアンを追い出したとも言う──カノンがベッドの中で延々喋るのを聴いて、あくびを噛み殺しつつ、「良かったねぇ」とお兄ちゃんの頭を撫でてやるデキた妹がいたよ、という話?(コラ)
いつも、何度でも、ぼくはきみに恋をする。
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