「・・・やられたね」
「やられた」
双子は天使のように愛くるしい顔をげんなりとさせ、深く大きなため息を吐いた。
今日もシェラの作った夕飯は美味しかったのでたくさんおかわりをしたのだが、そことはまったく関係のないところで胸ヤケを起こした。
「何、白い薔薇って」
そりゃあちょっと素敵だったけど。
「しかも、『嫌いか?』って何? 明らかに否定するの分かってるじゃないか」
カノンが壁に掛けられた的に無造作にダーツを投げる。
ハットトリックなど、彼らにとって造作もないこと。
狙った場所に投げることも、百発百中だ。
現在彼が投げた十数本の矢は、的に綺麗な星型を描いていた。
「──ねぇ、カノン、知ってる・・・?」
「なに?」
若干投げる力を上げて、鬱憤を晴らしているかのような少年は、今度は星の中に五角形を描いて見せた。
「白薔薇の花言葉」
「────・・・っ」
ソナタの可愛らしい唇から漏れた言葉に、頬を引き攣らせたカノンの手が滑る。
矢が突き刺さったのはど真ん中。
「あ、真ん中に刺さったから罰ゲームね」
「・・・はいはい、お姫様」
完璧にダーツの遊び方とはかけ離れているが、彼らにとっても、この技を彼らに教えた人間にとっても、これは遊びではないのだ。
「けど、やっぱりカノンも知ってたのね」
「そりゃあ、まぁ」
「・・・誑し」
「あのねぇ」
ボソッ、とソナタが呟いた言葉に、カノンが大袈裟にため息を吐く。
「天然小悪魔なシェラと、歩く猥褻物の父さんの間に生まれて、健全に育つ方がどうかしてるよ」
「・・・・・・気持ちいいくらいの開き直りっぷりね」
「無理は身体に良くない。身体に悪いことをするとシェラが心配する」
だからぼくは自分に正直に生きている、と真顔で答えるカノン。
「あ、その生き方は賛成」
しゅた、っと手を上げるソナタ。
何はともあれ、シェラに心配をかけてはいけないのだ。
「──ある意味父さんも、自分に正直に生きてるだけなんだけどね・・・」
「だからって、白薔薇はないでしょ、白薔薇は」
「まぁね・・・」
またもや嘆きのため息を吐く双子。
胃が痛くなりそうだ。
そういうときはシェラに甘えるのが一番の特効薬なのだが、いかんせん今夜は誰かさんに独占されてしまっている。
「・・・おかしいよなぁ、『母』の日なのに・・・」
「おかしくないわよ。──パパ、末っ子だもの」
「──あぁ・・・」
それは否定できない、と苦笑するカノン。
「・・・ねぇ、ソナタ」
「うん?」
「あの白い薔薇さ」
「うん」
「どっちが、だと思う・・・?」
「あー・・・・・・」
思わず腕組みをする美少女。
僅かに眉を寄せて考え込んだ後、彼女は結論付けた。
「──はてなつけちゃえばいいんじゃないかしら?」
「──おぉ! 名案だ!」
膝を叩いて笑うカノンに、ソナタはえっへん、と胸を張った。
「あのふたり、万年両片想いだもの」
「そうそう。見てると背中押すどころか、一度引き裂いてあげたくなるときがある」
「失って初めて気づく、ってやつね」
「──・・・あぁ、でも、それやったら洒落にならないか・・・」
至極嬉しそうに、きらきらとした笑顔で語っていたが、急に困ったように眉を下げるカノン。
「パパはともかく、シェラが可哀想ね」
「・・・じゃあやっぱりやめとこ」
「腹立つけど、ここはシェラのために涙を呑みましょう」
「そうだね・・・シェラのためなら、ぼく、何でもできるよ・・・」
本当に涙を流しそうなカノンの頭をよしよし、と撫でてやり、ソナタは提案した。
「じゃあ、今日はソナタさんが特別に一緒に寝てあげる~」
わりといつものことなのだが、カノンは素直に礼を言った。
何のことはない──ソナタが、それを望んでいるのだから。
────ぼくも父さんも、この顔には滅法弱いからなぁ。
一緒にベッドへ潜り込みながら、双子は
「「週末にはシェラと一緒に寝られるよう、おねだりしようね~」」
と算段を練っていた。
【白薔薇の花言葉】
────『わたしはあなたにふさわしい』・・・・・・?