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きらきらしたものが大好きなのは、女の子共通だと思う。
何だかんだ言ったって、シェラだって美しい宝飾品を身につけることは嫌いではない──おっと、シェラは一応男性だったがまぁいい。
シェラにとって問題なのは、プレゼントの贈り主の金銭感覚が徹底的に狂っていることで、小指の先ほどの大きさの宝石に家一件分の対価を支払うことを当然だと思っている。
もちろん、本物の貴金属は稀少品だから値段が跳ね上がるのは分かるのだが、そんなものを記念日でも何でもないのに「やろう」のひと言で渡してくるのだから困ったものだ。
いらない、と言うと「処分は任せる」と言われてしまって、更にシェラの困惑は深まるのだ。
「くれるって言うんだからもらっておけばいいのにねー」
ソナタが、自室で兄と勉強中にそう漏らした。
というのも、先ほど帰宅した父がまたシェラに指輪を贈ったらしく、夫婦喧嘩一歩手前の状態だったのだ。
──妻にプレゼントを贈って罵られる夫がいるというのだから、世の中分からないものだ。
「家計が傾くっていうなら困るけど、経済の活性化に貢献してるんだからいいと思うけど」
頬杖をついて呟く妹に、カノンはくすり、と微笑んだ。
「シェラは律儀だからね。もらった分は返さなきゃいけないと思ってる」
「身体で返せばいいじゃない」
きょとん、とした顔でそんなことを言うソナタに、カノンは困ったように笑ったものだ。
「実際もそうしてるけど、『こんなんじゃ全然足りない!』って思ってると思うよ、シェラは」
「いや、むしろシェラの方が返しすぎだと思うんだけど」
「シェラのいけないところだよね。『自分嫌い』ってさ」
「ほーんと、あんなに可愛いのにね。お料理だってお裁縫だって何だって出来るのに」
「それは、シェラにとって『出来て当たり前』のことだからさ」
「むーり無理! 私おんなじことやれって言われたって、出来ないわよ!」
「幼少期の教育の成果というか、刷り込みというか・・・」
肩をすくめる兄に同調し、妹はため息を吐いた。
「その分、私たちで甘やかしてあげましょう」
「そうだね」
頷きを返したカノンは、「あぁ、そうだ」とソナタの前にちいさな包みを置いた。
「・・・なに?」
「ん? うん、何となく」
「開けていい?」
「もちろん」
にっこりと微笑む兄の前で、ソナタは今手渡された包みを開けた。
非常に見慣れたサイズの箱に入ったそれに、ソナタは彼女にしては珍しく、少し困ったように笑った。
「・・・カノン」
「なに?」
「これ、すっごくすっごく可愛いんだけど」
「うん。きっと似合うと思うよ」
「・・・・・・」
しばらくそれを見つめていたソナタは、仕方ないなぁ、という風に笑った。
「ホント。双子だなぁ、ってこういうときに思うわ」
ピンクゴールドの細身の指輪を取り出し、指先で摘んで眺める。
「欲しかったの、これ」
「うん。そうだと思った」
「今度買いに行くの付き合ってもらおうと思ってたのに」
「女の子が自分で指輪を買っちゃいけないなぁ」
「どこの誑しの台詞よ、それ」
呆れた顔になる妹に、カノンは「貸して」と告げて、指輪を受け取った。
「こういうものはね、男にプレゼントさせておけばいいんだよ」
すっ、とサイズもぴったりな指輪を、左手の中指に嵌めてやる。
「──あれ。薬指じゃないの?」
「それは取っておいて下さい。ぼくはここで我慢します」
「いいのに、別に」
「そういうのを気にしないところ、ソナタとシェラは似てるよなぁ」
「・・・どーゆー意味よ」
「何でもありません。──ぼくのお姫様」
頬を膨らませたソナタの左手を取り、指先に口づける。
その恭しいまでの仕草に、ソナタは思い切り大袈裟なため息を吐いた。
「・・・カノンのそういうところは、パパそっくりだと思うわ」
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何でもいいです。平和だから。