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小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
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砂でも砂糖でも、好きなだけ吐くが良い(尊大)。



******************

音響効果を十分に考慮して作られた地下室──というにはかなり明るく開放的な空間──に、心地良いピアノの音が響く。
風がやさしく木の葉を撫でるように、長い指がなめらかに鍵盤を滑る。
よく晴れた休日の昼下がり、カフェテラスで語り合う恋人たちを彷彿とさせる、明るく快活なスタッカートが利いたジャズ。
極上の空間で極上の音楽を奏でるのは、これまた極上の美貌の男。
黒髪がよく映える白皙に、サファイアよりずっと深い、夜空のような藍色の瞳。
薄っすらと浮かべられた笑みは決して作ったものなどではなく、もしかしたら彼自身浮かべていると気づいていないものなのかも知れない。
黒い長袖のシャツに黒いパンツと全身黒尽くめだが、シャツには細い銀のストライプが入っており、重い印象は与えない。
デザイナーという職業柄か、もともとの素質か、彼は大層趣味の良い人間だった──その性格は別として。
最高の技術で作り上げられたグランドピアノを何の気負いもなく弾きこなす彼の傍には、天使と見紛うかのような銀髪の美女──もとい、美青年。
本当に、男にしておくのがもったいない、と会う人間、会う人間に言われるような美しい青年だ。
腕を置いたピアノを、邪魔にならない程度にリズミカルに指先で叩く。
ちょっとした共演だ。
最高級の紫水晶よりも美しいと専らの評判の菫の瞳が、楽しげにきらきらと輝いている。
かなり上機嫌だ。
言葉は交わさずとも、むしろ視線すら交わさずともそれを感じ取っている演奏者も、ゆるり、と形の良い唇を持ち上げた。
小気味良い中盤から、出だしと同じなめらかなメロディの終盤へと演奏は進み、余韻を持たせて指が鍵盤から離れる。

「──可愛い曲だな」

満足気な顔をしているところを見ると、またひとつ銀髪の天使──シェラのリクエスト曲が増えたようだ。

「よく『楽器が語る』って言うけど、本当にお喋りしているみたいだ」

普段この銀色の天使からの評価が地を這うほどに低いと自負(?)している黒髪の美青年──ヴァンツァーは、どうやら褒められたらしい、と微笑んで「どんなお喋りだ?」と訊ねた。

「──え? ん~、何か楽しそうだったぞ? 仲の良い友達──いや、さすがにもうちょっと甘いな・・・うん、付き合い始めの恋人たち・・・みたいな感じ?」
「へぇ」

面白がるような顔になった男に、シェラはきゅっと眉を顰めた。
そんな顔をしたって可愛いだけで怖くはない──ただし、本気で怒らせると鬼や悪魔が赤ん坊に見える──ので、ヴァンツァーは普段他人の前では浮かべない穏やかな笑みを浮かべた。

決して。
決して人間、顔ではない。

常々そう思っているシェラなのだが、この男くらいの美貌になると、もう、好きとか嫌いとか、どうでも良くなるくらいにすさまじい威力を持っているのだ。
微笑めば街中の女の十人に八人は確実に卒倒し、残りのふたりは妊娠するらしい。
本当に、顔とその鍛えられた細身の身体だけは、非の打ち所のない男なのだ。

「・・・何だ、その顔は」
「別に」
「気になるだろうが」
「気にするな」
「──気になる!」
「そんなに俺が気になるのか?」
「~~~~~っ!!──っ、この、ばかっ!!」

真っ赤な顔で慌てふためくシェラを見るのが三度の飯よりは確実に好物だと言い切れる──あぁ、いや、その食事もシェラの作るものだからもちろん非常に美味なのだが、嗜好としての問題だ──ヴァンツァーだから、喉の奥でくつくつと笑った。
しかし、あまり笑っているとせっかくご機嫌だった天使が臍を曲げてしまう。
彼のご機嫌を取るのは、なかなか骨が折れる仕事なのだ──まぁ、あえてその険しい道を行くのも乙なものなのだが。

「・・・ふざけてないで、曲名教えろ」

リクエストのときに使うためか、シェラは気に入った曲があると名前を訊く。
そこが、シェラの御眼鏡に適ったどうかのバロメーターなのだ。
訊かれたヴァンツァーは、ふと考える顔つきになった。

「・・・教えたら、口にするか?」
「は?」
「曲名を教えたら、言葉にするか、と訊いている」
「言わなかったらリクエスト出来ないじゃないか」

頬を膨らませるシェラは、おねだりする気満々である。
そんな表情を見るのもあまりないことだから、ヴァンツァーは少し楽しくなった。
そうして、条件を出したのだ。

「言うなら、教えてやろう」
「・・・何で条件つけられないといけないんだ」
「いいだろう、別に?」
「・・・何でニヤニヤしてるんだ、気持ち悪い」
「こういう顔なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」

嘘吐けこの厚顔無恥男め、と喉元まで出掛かった言葉を飲み込み、代わりにシェラはひとつ頷いた。

「まぁ、言ってやってもいい」

余程気に入ったらしい。
ヴァンツァーはもうひとつ喉で笑うと、ふわりと微笑みその美声に言葉を乗せた。



「──Say You Love Me



なっ?! と目を見開いたシェラは、言葉の意味を把握すると首まで真っ赤になった。

「~~~~~い、言えるかそんなもの!!」

声が裏返っているのが大層可愛らしい。
しかし、今そんなことを言おうものならば間違いなく鉄拳が飛んでくるので、ヴァンツァーはわざとらしく──否、わざと俯き、深いため息を吐いた。

「・・・約束したのに・・・」
「・・・・・・・・・・頼む、本気で気色悪いからやめてくれ」
「お前が決めたことだ」
「知ってたら約束しなかった!」
「男に二言はないんだろう?」
「・・・・・・」

そこを突かれると痛い。
嘘を吐くことに罪悪感など覚えていたら仕事にならなかったので今更どうということはないのだが、対等な男どうしとして扱われると非常にやりにくい。
今はこんなんでも、昔はちょこっと憧れに近い想いを抱いちゃったりしていたのであるからして。

「──・・・シェラ」

ぐっ、と言葉に詰まるシェラ。
昔から、この男に名前を呼ばれるのは弱いのだ。

「・・・・・・」

しばし己の中で葛藤していたシェラだったが、突如『ピカッ』、と頭の上で電球が光った。
そうして、ピアノに腕を乗せると、ずいっ、とヴァンツァーに顔を近づけささやいた。



「──Say you love me・・・?



今度はヴァンツァーがきょとん、とする番だったが、やがて『仕方ない』という風に苦笑した。




「────・・・いつか言わせてやるよ」
「それは楽しみだ」



とりあえず。
ヴァンツァーからの告白はいつものようにキスにすり替えられてしまったけれど、それはそれでいいかな、と思うシェラなのであった。






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やっぱり平和って大事だと思う。
愛があればある程度平和だと思うの。


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