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小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
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仔豚ちゃんが好きだったのか。何だよ、もっと早く言えよ(コラ)


**********

「あねうえーーーー!」

声が聞こえた途端、テーブルに置かれた花瓶の中の蕾が一斉に開花した。
それまでは少し寂しい印象のある茶会の席が、一気に華やいだものとなる。
どうやら義弟は最愛の女性を誘うことに成功したらしい、と王太子妃は口端を持ち上げた。

「義姉上、シェラを連れて来たよ」
「よくやった」

ワシワシと癖のある黒髪がグシャグシャになるまで撫でられている王子は、嬉しそうな顔をしている。

「王太子妃殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「なぁ、シェラ」

女性にしては張りのある低めの声に、下げていた頭を上げるシェラ。
燃えるような見事な赤毛は邪魔にならないよう軽く結んで背に流されている。
メリハリのある身体は、深紅の軍服に包まれており、その腰の剣は飾りではない。
彼女は王太子と比肩するほどの剣の腕を持つ。

「はい、妃殿下」
「これは私的なお茶の誘いなんだが」
「はい。わたくしのようなものにまでお声がけいただき」
「いや、そうじゃなくてな」
「はい?」

首を傾げる天使の如く清廉な美貌にため息を零す。
不興を買ったか、と一瞬顔を強張らせたシェラであったが、袖を引かれてそちらに視線を移す。

「『あねうえ』って、呼んで欲しいんだよ」
「──え?」
「シェラにも」
「ですが・・・」

そのような立場にないシェラは、王子と王太子妃の顔を交互に見遣った。

「何だ。きみはまだこの子のプロポーズにうんと言っていないのか」
「・・・」

何と答えて良いものか、と口を噤んだシェラの横で、王子は「いいんだよ、義姉上」と言った。

「きっとわたしには、まだまだ魅力が足りないんだと思う」

いえ、もう十分です、とは思っていても口に出せないシェラだった。
不敬を恐れずに言えば、こんなに美しく成長して欲しくはなかった。
『白豚』と呼ばれていた頃のままであったならば、きっと自分は喜んで頷いた。
このやさしい第二王子の魅力など、世界で自分だけが知っていれば良かった。
獣捕りの罠にかかって怪我をしていた仔犬を助け、「ごめんね、もう大丈夫だよ」と涙を流していた王子の美しさなど、他の誰も知らなくて良かったのだ。
ほんの少し、健康のために身体を動かして欲しくて乗馬や剣術を勧めはしたが、どちらも一流の腕前になってしまい、しなやかで強靭な長身まで得てしまった。
その上、本ばかり読んで引き篭もっていた名残で語学は堪能、チェスは優れた軍師でもある王太子が本気を出すほど。

──そういえば父が言っていた。

「第二王子殿下は、無知かも知れないが馬鹿ではないよ。むしろ優秀な方だ」

あの父が言うのだから、そうなのだろう。

「そして、お前の言うような無垢な方でもないと、私は思うがね」

その言葉には承服しかねたので無視したが。

「だから今はね、世界一イイ男を目指しているんだ!」

王太子妃付きの侍女がお茶の用意をする間、王子はテーブルに並べられた菓子のどれから手をつけようかと目移りしている。

「ははっ。世界一か。──だがそれはちょっと難しいな」
「どうして?」

きょとん、とした表情で首を傾げる義弟に、平素は灰色の瞳に金色を帯びさせながら王太子妃は肉食獣のような笑みを浮かべた。

「世界一は、我が夫だからな」

言われた王子はパチパチと瞬きをしたあと、「確かに!」と破顔した。

「兄上は、強くて、やさしくて、かっこ良くて、頭も良くて、強くて──あれ? とにかく、何でも出来るすごい人です」

自慢の兄上だ、と我が身の誉れのように嬉しそうな表情になる第二王子を、シェラは微笑ましげに眺めた。
この王子の口から出てくる名前が増えたことは、寂しくも嬉しい。
どこか怯えたような、哀しそうな表情よりも、明るく笑ってくれている方がいい。

──そう、思うのに。

こんな醜い心の内を知れば、やさしい第二王子は自分を見限るだろうことが分かるシェラだった。
綺麗なのは見た目だけ──かつての王子とは真逆だ。
美しい心に美しい見た目も手に入れた王子は、きっとこれから本当に天使のように愛らしい姫君と出会うのだろう。
強大な魔力が恐れられていたとしても、それは心身の成長とともに制御出来るようになっていく。
力を暴走させることがなくなれば、誰も王子を避けはしない。

「──ねぇ、シェラ」
「──は、はい!」

隣から声を掛けられ、はっとする。

「団長から一本取れたら、兄上が手合わせしてくれるんだ」
「え?」
「まだまだ先の話かもしれないけど。でも、兄上からも一本取れたら、デートしてくれる?」
「で、デート・・・ですか?」
「うん。王宮の薔薇園とか、遠乗りとかじゃなくて。城下町へお忍びデート」
「殿下、それは」
「シェラのことは、わたしが守るよ」
「・・・」

だから安心してね、と微笑まれて、返す言葉に窮する。
自分の身はもちろん、王子の身を守りきる自信もある。
お忍びとはいえ、近衛も何人かついて来るのだろう。
けれど。

「・・・殿下、わたくしは」
「それなら、私も稽古をつけてやろうか」

王太子妃の申し出に、シェラはぎょっとした。

「義姉上が?」
「ちょっと暇だったんだ。騎馬戦では圧倒的に私が有利だが、剣一本ならいい勝負が出来そうだろう?」

腰に剣を佩いている王太子妃だが、一番得意としているのは馬上での槍術だ。
これに関しては、万能の天才と言われる王太子でも常勝とはいかない。

「ありがとう!」
「なに、可愛い義弟のためだ」
「・・・」

これはもう、断れる雰囲気ではない。
シェラはこっそりとため息を零し、「承知しました」と返した。
副官であるアスティンとはそこそこいい勝負が出来るようになってきた王子ではあるが、団長にはまだ及ばない。
王太子に勝つなど、まだずっと先の話だ。

「約束だよ、シェラ!」
「はい、殿下」

苦笑を返したシェラは、王子の実力はもとより、王太子妃の強さも、正確には把握していなかったのだ。


**********

王子は成長期なのです。

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