小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
思い浮かんだ小ネタは仔竜シェラがひたすら可愛いだけの話・・・プレ14周年に4話目を書いて、もう1年以上経ってるとか嘘だろ・・・。
あ、生きてますよー(笑)
あ、生きてますよー(笑)
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シェラは、ヴァンツァーのことが大好きだ。
洗濯をしているときも、森へ狩りに行くときも、どこへ行くにもちょこまか、ちょこまかと、足元に纏わりつくようにしてくっついていく。
ヴァンツァーの方も表情は変わらないが邪険にすることもなく、好きなようにさせていた。
──けれど。
「いやっ! チェラもいク!!」
大きな瞳にぷっくりと涙を溜め、シェラはヴァンツァーの足元に縋った。
少し困ったような表情になった男は、しゃがみ込んで銀色の頭を撫でた。
「街に買い物に行くだけだ。すぐに戻る」
肉は山で、魚は川で獲り、野菜は庭の畑で育てる自給自足の生活をしてはいるが、必要になるものはある。
小麦や油、塩や石鹸などは時々買い出しが必要だ。
「チェラもちゅれテって!」
いやいや、と頭を振った拍子に涙が零れ、地面に落ちる直前に石となる。
透明度の高い水晶に、銀砂を混ぜたような美しい宝石。
この泪銀石ひと粒でも売ればしばらく遊んで暮らせる金額になる。
そのせいでシェラは以前人間に捕まり、無体を働かれそうになった。
「お前は、連れて行けない」
大好きな人からの否定の言葉に、シェラは顔を真っ青にした。
「やぁ・・・」
「せめて、その眼を隠せるようになるまでは」
「め・・・?」
「人前で泣くものダメだ」
「・・・」
「俺はお前の騎士だ。必ず護る──だが、わざわざ自分から危険に飛び込むことはない」
つるりと滑るような手触りの良い銀色の髪を、宥めるように撫でる。
じっと藍色の瞳を見つめるシェラの瞳は竜族特有の瞳孔をしていて、人間とは明らかに異なる。
目深にフードを被っても、何かの拍子に露見することはある。
「ふふ、かぁわいい。ねぇ、別に僕が街に行ってもいいんだけど」
ルウが善意から言えば、ヴァンツァーは呆れたような表情になった。
「あんたは歩くだけで妙な連中を引っ掛けるからやめろ」
「酷くない、その言い草!」
心外だ、とばかりに頬を膨らませるルウに、リィが「黒すけの言う通りだ」と告げる。
「道を聞いただけでお前を取り合う男どもが刃傷沙汰になるのは目立つからやめろ」
「僕のせいじゃないよ!」
真珠のような肌をした嫋やかな美貌の竜騎士は、黒髪であるにも関わらず男の欲を煽る独特の雰囲気があった──むろん、大の男が十人束になって掛かったところで、返り討ちに遭うだけだが。
むしろ、ルウに向かって行ってくれるならまだいいのだ。
問題は、被害が周囲に及ぶ可能性が非常に高いことにある。
「そうだ、土産を買って来てやる」
「みやげ・・・?」
ヴァンツァーの言葉に、シェラは瞳を瞬かせた。
「贈り物、プレゼント・・・分かるか?」
「──プレゼント! たんじょウびに、父様と母様がくれル!」
ぱぁぁ、と明るくなる表情に、ヴァンツァーは苦笑を返した。
「竜王たちが贈るようなものは無理だが・・・何が欲しい?」
「なんデもいい」
「何でも?」
「ヴァンツァーがくれルものなら、なンでも、うれチぃ!」
ぎゅっと首に抱きつかれた男は、その美貌にほんのりと笑みを浮かべた。
「そうか。じゃあ、いい子で待っていられるな?」
「・・・ヴァンツァー、けが、チないでかえってきテね?」
これには男が藍色の目を瞠った。
「チェラ、いっチょにいケないから・・・」
不安げに震える声。
契約を結んだ竜が傍にいれば、竜騎士はほとんど無敵だ。
だが、契約を結んだばかりで距離が離れれば、力を出し切ることは難しいだろう。
「ヴァンツアーがいタイの、やぁ・・・」
「大丈夫だ」
心配そうに眉を下げる己が竜に、ヴァンツァーはどこか晴れやかな表情で告げる。
「お前の騎士は、そこそこ強い」
強くなり過ぎて、人間相手には加減が難しい程度には強い。
「・・・」
まだじっとヴァンツァーの顔を見つめていたシェラは、「ちゅっ」と頬にキスをした。
「──シェラ?」
「おまじナい」
「まじない?」
「ブじに、かえっテきましゅヨうに。父様と母様がしてクレりゅ」
へへっ、とはにかむように笑う仔竜の頭をもう一度撫で、ヴァンツァーは神竜の結界を出た。
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「──何だ、また見ているのか」
背後から届いた低い声に、シェラは指先で弄っていた氷塊を机に置いた。
氷塊と言っても、竜の魔力で創られた溶けることのないそれは、水晶のように透明で、金剛石のように強固だ。
「ヴァンツァーが、初めてくれたものだから」
氷塊の中には、飴色をした魚が一匹──否、事実それは飴だった。
シェラを置いて買い出しに行った男が買ってきたもののひとつ。
きらきらと陽に輝くそれをいたく気に入ったシェラは、甘い食べ物だと言われたにも関わらず、飴細工を氷に閉じ込めた。
「だいジにシゅりゅ!」
感激して抱きついてくる仔竜を困惑した表情で抱き上げた男は、微笑ましげに見てくる神竜の騎士に街で買ってきたものを渡した。
「ご苦労様」
「あぁ。ルーファス、これを」
ヴァンツァーは腰に下げた革袋から、大人の拳大の石を渡した。
「──え、僕に?」
驚くのも当然、ヴァンツァーが手渡したのは、一見所々緑がかった石ころだが、緑柱石の原石だ。
「いや、加工してくれ」
「・・・シェラにだね?」
訊ねられた男は「それ以外に何が?」という不思議そうな表情を浮かべた。
「どうしたのさ、この石」
「露天で売っていた?」
「──はぁ?! これ、たぶんインクルージョンほとんどないけど?!」
「だろうな。魔力の伝導率がだいぶいい」
ルウの驚きように、シェラは不安げな顔になった。
「・・・あの、高価なものなのですか?」
リィとルウには竜語で話しかける幼子に答えたのは、抱き上げている男だった。
「いや、お前が凍らせた飴と同じくらいだ」
「嘘でしょ?!」
「本当だ」
「・・・きみ、本当にこういう掘り出し物見つけるの上手いよね」
緑柱石はやわらかい鉱物だ。
だから、傷や内包物が含まれるのは当たり前。
それらが少なければ少ないほど宝石としての価値が上がり、更に魔道具の媒介としての性能も上がる。
「ルーファスに守護の陣を刻んで、首飾りや髪飾りに加工してもらうといい」
飴だけでは食べたらなくなるかと思い別のものも探した男だったが、思いがけず良い買い物が出来て満足そうだ。
「・・・ヴァンツァー」
「ん?」
「ほんトに、コウかじゃない?」
「もう少し値の張るものの方が良かったか?」
この問いかけに、シェラはふるふると頭を振った。
「チェラ、おルしゅばん、チてたダケなのに・・・」
綺麗な飴細工だけでも十分なのに、と不安げな表情を浮かべる。
「礼だ」
「おレい?」
「まじないをかけてくれただろう? だから、無事に帰って来られた」
珍しく目元をやわらげる己の騎士に、シェラは菫色の瞳を真ん丸にした。
「あんなの、あなたにキスしたいだけの方便だったのに」
くすくす、と昔を思い出してシェラは笑った。
「そうか。じゃあ、悪い子には罰として──その氷を溶かしてしまおうか」
「──だ、ダメです!!」
飴細工の入った氷塊を両手で握りしめ、シェラは背後を振り返った。
竜騎士となったヴァンツァーが操る炎なら、永久凍土の氷すら溶かしてしまう。
むぅっと、頭上の美貌を睨んだシェラだったが、目の前にぶら下げられた宝石に視線が寄る。
「直ったぞ」
直したのは僕だけどね、と、神竜の騎士がこの場にいたら呆れたように言うことだろう。
「わあ!」
受け取ったシェラは、一瞬前と打って変わって嬉しそうだ。
「見た目は直ったが、一度発動した魔道具にはもう効力を戻せない」
「いいんです!」
つけて、つけて、とねだる視線を向ければ、ヴァンツァーは呆れたような顔で緑柱石の首飾りを受け取り、シェラにつけてやった。
邪魔にならないよう持ち上げていた長い銀髪をおろし、シェラは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう!」
「ただの石だぞ?」
宝石としての価値も相当高い石だが、魔道具として役に立たないものを身に着けていても仕方がない、というのがヴァンツァーの考えだ。
「ただの石じゃありません! ヴァンツァーがくれた石です!」
「似たような石があれば、また作ってやる」
作るのは僕だけどね! という声が聞こえてきそうだ。
「ヴァンツァーがくれるものは、みんな大事なんです!」
どうして分かってくれないの? と、頬を膨らませるシェラに、ヴァンツァーは首を傾げた。
「俺には、お前が無事でいてくれることの方が大事だよ」
こつん、と額を合わせられ、シェラは焦点の合わないくらい近くにある美貌に目を丸くした。
怒り、焦燥、それから安堵。
普段表情に出ないヴァンツァーの感情が、胸を揺さぶった。
「伝わったか?」
こくっ、と頷いたシェラを頭を、ぽんぽん、と叩く大きな手。
「元気なのはいいことだが、お転婆も程々にな」
ちいさく笑うと、ヴァンツァーは部屋を出ていった。
残されたシェラは、紅く染まった頬を両手で押さえて、唇を尖らせた。
「・・・飛ぶのが下手なのは、ヴァンツァーのせいですよ」
父様と母様に笑われてしまう、とため息を零しつつも、力強い腕に抱き上げて運んでもらうのも大好きなシェラが自由に大空を飛べるようになるのは、もう少し先の話。
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瞳孔を隠せるようになったら、人前で泣かなくなったら、ひとりで空を飛べるようになったら。
一緒に出掛けられるようになるには色々クリアしないといけないけれど、甘やかされるのも、お土産を買ってきてもらえるのも捨てがたくて、なかなか大人になれないシェラさんなのでした。
・・・すぐに「子作りしましょう!」とか真っ昼間から言い出す子になるけどな!(笑)
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