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小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
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って、政宗様もおっしゃってたし。やってみよ。

とりあえず、今回はいつものフィギュア小ネタ。


**********

「終わりだ」
「──え?」
「聞こえなかったのか。終わりだ、と言った」

いつも通りの無愛想な顔で、顔立ちだけは抜群に綺麗な男が告げた言葉に、シェラは目を丸くした。

「だって、まだ予定の半分しか」
「今日は終わりだ。リンクから上がれ」
「・・・・・・何でよ」
「いいから上がれ。時間の無駄だ」

むっとしたシェラは、音もなく氷の上を滑ると、リンクサイドのコーチに食ってかかった。

「まだ出来る!」
「上がれ」
「疲れてないし、無理もしてない!」
「コーチは俺だ。言うことを聞け」
「──っ!」

カチン、ときたシェラは、「あーそうですか!」と怒鳴ってリンクから降りると、べーっと舌を出してずんずん控え室の方へと向かった。
それを、呆れた目で見る男がふたり。

「・・・もしかして、いつも『ああ』なのかい?」
「えぇ。いつも『ああ』なんです」

片方は、銀色の髪を綺麗に撫で付けた壮年の男。
もう片方は、猫のようなくるりとした瞳がどこか可愛らしい印象を与える青年。
どちらも、街に出れば大半の女性が振り向くであろう容姿の主だ。

「あれでは、上手くいくものも行かない気がするのだがね」
「俺もそう思います」
「あの子は本当に、昔から言葉が少ない」
「いや、あれ無口とかいう問題じゃないでしょ。性格ですよ、性格」

ひねくれてんだから、とため息を吐くレティシアを、ヴァンツァーが振り返る。
そして、ふいっと顔を逸らして今度は自分がリンクの上に立った。

「・・・仕方ない。これもわたしの仕事と思うことにしよう」
「どんだけ甘いんですか」

だからあんなんなっちゃったんですよ、とくつくつ笑って喉を鳴らすレティシアに、壮年の男は困ったように眉を下げた。

「出会った頃は、天使のようだったんだけれどね・・・」


+++++


シェラの後を追った男は、ノックをしてからドアを開けた。

「・・・伯爵さん」

それは男の通り名であったが、貴族的な雰囲気と容貌のため、まるで違和感がない。

「お邪魔してもいいかな?」
「邪魔だなんて・・・どうぞ」
「ありがとう」

パタンとドアを閉め、シェラの向かいに腰掛ける。
しばらく、沈黙が横たわる。
先に口を開いたのは、元来重苦しい雰囲気というものが苦手なシェラだった。

「・・・私、調子悪そうに見えました?」
「いや。とても良くスケートが滑っていたと思うよ」
「ですよね。なのに、何であんなこと言ったんだろ・・・」

もっともっと頑張れる。
まだまだ滑れたのに。
新しいプログラムも決まって、少しずつ調子は良くなってきているのだから、どんどん滑りたいのに。

「きみは、頑張り屋さんだね」
「え・・・?」
「才能に驕ることなく、努力を重ねられる。素晴らしいことだと思うよ」
「・・・そんなの、みんな一緒です。みんな、頑張ってます」

これに、伯爵は「そうだね」と頷いた。

「わたしはね、頑張っている子は大好きなんだが、頑張っている人間に『頑張れ』と言うことほど、失礼なことはないと思っている」
「え・・・?」
「頑張っているのなんて、本人が一番よく分かっているからね。他人の目にどう映ろうと、『頑張る』というのは本人の心構えの問題だ」
「・・・はい・・・?」

よく分からなくて首を傾げるシェラに、伯爵はにっこりと笑った。

「きみは、誰の目から見ても頑張っていると思うよ。」
「・・・・・・ありがとうございます」

ぺこり、と頭を下げるシェラに、伯爵は頷いた。
またしばし沈黙が訪れたが、今度口火を切ったのは伯爵だった。

「──跳びたいかい?」
「え?」
「もっと高く、もっと遠くへ」
「もちろんです!」

そのために、来る日も来る日も練習をしているのだから。
ふむ、と伯爵は頷いた。

「ちょっと立ってみてごらん」
「はい?」
「その場でいい。立ってごらん」
「・・・・・・」

よく分からなかったけれど、シェラは腰掛けている椅子から立ち上がった。

「座って」
「・・・・・・」

すとん、と腰を降ろす。

「立って」

言われた通りに、また。

「立って」
「・・・え?」
「立ってごらん」
「・・・・・・」

困惑したシェラは、ちいさく「出来ません」と呟いた。

「どうして?」
「だって・・・もう、立ってます」

こんなことを言ってもいいのかな、と心配そうな顔をしてモジモジしているシェラに、伯爵は微笑みながら頷いた。

「わたしもそう思う」
「・・・・・・あの?」

やっぱりヴァンツァーの先生だから、こんなにわけの分からないことを言うのだろうか、とちょっと思ったシェラだった。

「立っている人間に、立てと言っても無理な話だ」
「はぁ・・・」
「同じように、頑張っている人間に頑張れと言うことも、ナンセンスだとわたしは思う」
「──・・・伯爵さん」

大きく目を瞠るシェラを、伯爵は座らせた。

「立ちたいなら、まずは座りなさい」
「・・・・・・」
「空高く飛びたいなら、羽を休ませることを覚えなさい」
「・・・・・・」
「きみはとても真面目で勤勉だ。それに、素晴らしい努力家でもある」

だから、と伯爵は目元に皺を刻んで微笑んだ。

「その努力に報いるよう、自分にご褒美をあげなくては」
「・・・・・・」
「ご褒美のために頑張ったっていい。きみが歩みを止めないことは、みな知っている」

多少休んだところでシェラが怠けているだなどとは、誰も思わない。
むしろ、やりすぎだ、と感じているくらいなのだから。

「──さて。今日はもう終わりだったね。わたしとデートをしようか」
「──え?!」
「可愛いお嬢さんを連れて歩くのは久々だから、何だかドキドキしてしまうね」

ふふ、とどこか子どものように微笑む伯爵に、シェラは困惑の視線を向けた。

「さ、着替えておいで。表に車を用意して待っているからね」
「あ、あの、でも」
「わたしと一緒は嫌かい?」
「──いえ、そんな、滅相もない!」

ふるふると首を振ったシェラに、「では決まりだ」と伯爵は微笑んだ。

──・・・やさしいのか腹黒いのか分からない・・・。

そう思ったシェラだったけれど、どこへ行くのか少し楽しみな気もする。
10分後、駐車場へと向かったシェラは、黒塗りの高級車の横に佇む伯爵を見つけた。

「やあ、素敵なワンピースだね。パンツ姿のきみも、リンクの上のきみも凛々しくていいが、こういう可愛らしい格好もよく似合う」

助手席にエスコートされ、何だかちょっぴりお姫様になった気分を味わった。

──・・・ヴァンツァーは無愛想に「乗れ」とか言ってたな・・・自分さっさと車に乗っちゃうし。伯爵さんは、こんなに素敵なのに・・・。

比べる相手を間違ってるな、とは自分でも思ったが、どうしてもため息が零れてしまうのだった。


**********

こういう役目を、ヴァンツァーはパパに求めているのだ・・・と信じている。

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