小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
埋めてこその腐女子道にございます。
ちょっとおふざけ入りますけど、たぶんそんなに間違ってないと思う。
ちょっとおふざけ入りますけど、たぶんそんなに間違ってないと思う。
**********
「な・・・ぜだ・・・キュウ・・・ゾ・・・」
大戦中は同じ部隊だった。
口数の少ないキュウゾウはその腕の冴えもあって近寄る人間がほとんどいなかった。
その中で、自分はもっとも傍にいた。
大戦が終わり、用心棒となってもそれは同じ。
御前に仕える日々は単調で退屈なものであったが、それでも我らはともに在った。
少なくとも、キュウゾウをもっとも理解しているのは自分だという自負があった。
なぜこんなにも惹かれるのか、と何度己に問うたことか。
剣術の腕は凄まじいが、人付き合いはないに等しい。
必要最低限の会話しかしない。
たまに酒を呑むことならばあったが、酔ったところなど見たことがない。
仕事が出来ればそれでいい、とばかりに、剣以外の一切に興味がないようだった。
話しかけても満足な反応が得られないことなど常で、最初の頃は会話にもならなかったと記憶している。
無駄な殺生をする男ではないが、不用意に刀の間合いに入れば容赦なく斬られる。
だから、誰も近づかないのだ。
それを、時間をかけて一歩一歩近づいていった。
面倒くさそうにこちらを見ることもあったが、特に何を言うでも、刀を向けてくるでもなかったから、ヒョーゴは着実にキュウゾウとの距離を詰めていったのだ。
剣の腕は及ばないが、隣に立てるところまで来た。
それを、自分はこの寡黙で、己の腕のみを拠り所としている男に赦させた。
それは、途方もない満足感を生んだ。
この世で唯一、自分がこの男と並ぶことを赦されたのだ、と。
「サムライを斬るか? そのようなご下命、賜っておらぬが・・・?」
揶揄するように言った自分に、軽い一瞥をくれただけで行ってしまったキュウゾウ。
それもいい、とそのときは思った。
すぐに片付けて帰ってくる、と。
キュウゾウに剣で勝てる人間など、この世にはいない。
生身を機械に替えた野伏であろうとも。
背に負った鞘から神速で抜刀するその妙技、腰を使わないというのに、あの速さ。
華奢とも言えるほどに細身だが、意外と肩は広く、またかなり力があることを知っている。
だから、キュウゾウが狙って討てない獲物など、いるはずがなかった。
帰ってきたキュウゾウは、いつものように無表情だったが、どこか楽しそうな瞳をしていた。
そして、しきりに左の首筋を気にしている。
見れば、うっすらと刀傷があった。
まさか、と思った。
あのキュウゾウが、掠り傷とはいえ斬られるなど。
あまつさえ、仕損じるだなどということは信じられなかった。
そんなに凄腕のサムライなのか、と訊いた自分に、キュウゾウは微かに口端を吊り上げた。
あんな楽しそうな表情は、大戦が終わってから一度も見たことがなかった。
けれどそれも、すぐに終わると思ったのだ。
「お主を斬るのは、この俺だ・・・」
そう言って、キュウゾウは雷電に狙われていた島田カンベエを助けた。
キュウゾウならば野伏ですら斬れることは知っているが、まさか本当に、それも一応は『味方』であるはずの野伏を、あんなにも迷いなく斬るとは思っていなかった。
あっという間に、魚を捌くように巨大な野伏の身体を解体してしまった。
なぜだ、と。
それしか考えられなかった。
カンベエを斬ることに興味がわいているにしても、野伏に倒されるようなサムライではその程度ということではないか。
黙って見ていれば良かったものを、なぜ助けたのか。
野伏を斬るということは、御前を斬るのと同じこと。
用心棒の身で、何を血迷ったことを。
これが御前に知られれば、キュウゾウは追われる身となる。
そう易々と殺される男ではないが、きっと自分は御前の命を受けて追う身となるのだろう。
──せっかく隣に立ったというのに・・・。
また追う身か、と。
だから、この場でカンベエを斬れと言った。
雷電は、サムライたちが斬ったことにすれば良かろう、と。
そうすればこれまで通り。
キュウゾウも、決着がつけられるのならば文句はあるまい。
そう、思ったのに。
「なぜ・・・だ・・・」
気づいたときには、キュウゾウが目の前に迫っていた。
避ける間など、あるわけがない。
この男の速さは、自分が一番よく知っている。
一番近くで見てきたのだ。
狙った獲物は、絶対に外さない。
ずっと、見てきたのだ。
それなのに、なぜキュウゾウが雷電を斬ったのかも、自分をこうして斬ったのかも、まるで分からない。
問う自分に、キュウゾウは答えた。
「・・・生きて、みたくなった」
無表情というより、どこか子どものようにあどけない顔。
数えきれないほど人を殺してきて、自分自分幽鬼のようであったというのに。
血に飢えているわけでもなく、殺しに悦びを見出すでもなく、ただ淡々と腕を磨き、人を、野伏を斬るキュウゾウ。
それが、まるで目が覚めたかのような、憑き物が落ちたかのような表情をしている。
「・・・ばか・・・め・・・っ」
剣に身を捧げた男が「生きてみたい」など。
それを、このキュウゾウに言わせた男が、どうしようもなく憎かった。
島田カンベエ。
もしも冥府で会うことがあったなら、真っ先に血祭りに上げてやる。
そう心に決め、最後に真紅の瞳を脳裏に焼き付けたヒョーゴの意識は、闇の底へと落ちていった。
+++++
「おいで、願えるか?」
カンベエの言葉に、ヒョーゴの亡骸を見下ろしたまま「出立は」とキュウゾウ訊ねた。
「今すぐ」
シチロージが、少し驚いたように目を瞠り、カンベエを見やる。
カンベエの視線の先には、まだヒョーゴを見下ろしているキュウゾウの姿。
「・・・先に。すぐ追いつく」
「キュウゾウ」
「弔いを」
短く言うと、同胞の亡骸を抱き上げた。
華奢な身体に見えても、大の男ひとり運ぶのに難はない。
そのまま、カンベエを振り返る。
カンベエは、特に何の感慨も浮かべていないような顔で言う。
「追ってがかかるぞ」
「行け」
野伏十数機、ましてや浪人風情が何十人束になろうとも、キュウゾウを討つことは叶わないだろう。
「行き先はカンナ村であろう。場所は分かる」
ヒョーゴの亡骸を抱いたまま歩いて行こうとするキュウゾウに、カンベエが声をかける。
立ち止まるキュウゾウ。
しばし、視線を交わすふたり。
「キュウゾウ」
「・・・・・・」
じーっと見上げてくる真紅の瞳。
見下ろすカンベエの茶の瞳。
「キュ・・・」
「・・・・・・」
まだまだじーっと見つめてくる瞳に、カンベエは言葉を失った。
何かを訴えるような視線。
表情から、その感情は読み取れないが、確かに何かを語りかけている。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
じーっと見つめてくる瞳が、きらきらと輝いて見えるのは陽光のせいだろうか。
いつもはただ鋭く、恐ろしいばかりの瞳が、赤い宝石のように見える。
「・・・・・・」
「・・・・・・頼む」
微かに眉を寄せて、身長差から自然と上目遣いで見上げてくる青年からの『ドウスルアイフル』的懇願(カンベエビジョン)に、年甲斐もなく口許を押さえる男がひとり。
頬が緩むというよりは、鼻血をこらえているように見えたのは、シチロージの気のせいではなかろう。
──・・・まったく、この方は・・・。
そう思ったかどうかは定かではないが、次に続いたカンベエの台詞には思わずため息を零した。
「・・・ならぬ、と言ったら・・・?」
何を子どものようなことを、そうシチロージが言おうとしたとき。
「・・・行かぬ」
きゅっと眉を寄せての言に、シチロージは苦笑を漏らした。
これは、カンベエの負けであろう。
しかし、ふたりは睨み合いを始めてしまった。
それこそ時間の無駄というものである。
「・・・カンベエ様。キュウゾウ殿も、ああおっしゃっていることですし・・・」
やんわりと宥めすかすのも、『古女房』たる自分の役目であろう──こんな経験は初めてであったが。
けれど、ふん、と唇を引き結んでいるカンベエは腕組みをしてしまって動きそうもない。
これは参りやした、と額を叩くシチロージ。
周りのものは皆、一体何が起こっているのか、と顔を見合せている。
「──よし、ならばこうしよう」
妙案を思いついた、という顔で言い出したカンベエに、キュウゾウは首を傾げた。
「わしがそいつを捨てて──」
「──じゃかあしぃわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
叫んだのは、絶命したと思ったヒョーゴであり。
キュウゾウは、耳元から聞こえた声に、さすがに目を真ん丸にした。
「・・・ヒョー・・・」
「貴様、人が黙って死んでればギャーギャーギャーギャー」
「ギャーギャーは言っておらぬ」
「黙れ! そもそも、俺は貴様が気に入らんのだ!!」
突然始まった口喧嘩に、キュウゾウはヒョーゴを抱き上げたまま赤い目をぱちくりさせている。
胸元をざっくり斬られ、口端から血を流した黄色いサングラス男が喚くというちょっとホラーな展開に、カンベエとキュウゾウ以外の面々はドン引きである。
ゾゾゾ、と立つ鳥肌に、ヘイハチは思わずシチロージの袖を引いた。
「・・・あれは、生きているんでしょうか、それとも・・・」
「・・・あれじゃないですかい。キュウゾウ殿の腕があまりにも見事なので」
「──あぁ、自分が捌かれたことに気づかず泳いでいる魚のような!」
「そうそう、それでげす」
なるほど、と手を打つヘイハチに、シチロージは困ったように眉を下げている。
相変わらず、周囲はドン引きだ。
「死んでも死に切れぬのであれば、わしが引導を渡してやろう」
「いらぬ世話だ! 誰が貴様なんぞに!」
「・・・ヒョーゴ」
「いつまでもお主を抱いていたのでは、キュウゾウも疲れる」
「呼び捨てにするな、馴れ馴れしい! そもそも俺だって」
「ヒョーゴ」
「だいたい、貴様のような中年の枯れたオヤジに、キュウゾウが」
「──ヒョーゴ」
彼にしては強めに発された声に、ヒョーゴははっとしてキュウゾウに目を向ける。
こんなにも近づいたことはない、というくらい近くに、金糸の髪と真紅の瞳。
きつい顔立ちではあるが、その肌は意外なほど滑らかであることを知る。
「・・・何だ、キュウゾウ」
「死に切れぬのか?」
「は?」
「せめて苦しまぬよう、急所を斬ったはずだが」
「・・・・・・」
「死に切れぬのか・・・?」
どこか心配そうな表情に、まさか、という思いで目を瞠るヒョーゴ。
「悔いを残したまま死んだものの目は閉じぬという・・・お主も、そうか」
意外すぎるものを見て言葉を紡げなくなったヒョーゴに、キュウゾウは言った。
「・・・せめて、安らかに」
眠れ、とヒョーゴの額に唇を落とす。
両手が塞がって瞼を閉じてやることが出来ないキュウゾウの、それは同胞への弔いだったのかも知れない。
──ゴプッ。
「「──あ、とどめ」」
呟いたシチロージとヘイハチの前で、ヒョーゴは吐血してがっくりと首を落としたのだった。
**********
前半と後半の温度差がすげーと我ながら思う。
ふざけてるわけじゃないの。きっと、あの流されなかったシーンではこういうことになっていたはず!
小説だと、死んだヒョーゴをウキョウが蘇生させるんだってね。
「な・・・ぜだ・・・キュウ・・・ゾ・・・」
大戦中は同じ部隊だった。
口数の少ないキュウゾウはその腕の冴えもあって近寄る人間がほとんどいなかった。
その中で、自分はもっとも傍にいた。
大戦が終わり、用心棒となってもそれは同じ。
御前に仕える日々は単調で退屈なものであったが、それでも我らはともに在った。
少なくとも、キュウゾウをもっとも理解しているのは自分だという自負があった。
なぜこんなにも惹かれるのか、と何度己に問うたことか。
剣術の腕は凄まじいが、人付き合いはないに等しい。
必要最低限の会話しかしない。
たまに酒を呑むことならばあったが、酔ったところなど見たことがない。
仕事が出来ればそれでいい、とばかりに、剣以外の一切に興味がないようだった。
話しかけても満足な反応が得られないことなど常で、最初の頃は会話にもならなかったと記憶している。
無駄な殺生をする男ではないが、不用意に刀の間合いに入れば容赦なく斬られる。
だから、誰も近づかないのだ。
それを、時間をかけて一歩一歩近づいていった。
面倒くさそうにこちらを見ることもあったが、特に何を言うでも、刀を向けてくるでもなかったから、ヒョーゴは着実にキュウゾウとの距離を詰めていったのだ。
剣の腕は及ばないが、隣に立てるところまで来た。
それを、自分はこの寡黙で、己の腕のみを拠り所としている男に赦させた。
それは、途方もない満足感を生んだ。
この世で唯一、自分がこの男と並ぶことを赦されたのだ、と。
「サムライを斬るか? そのようなご下命、賜っておらぬが・・・?」
揶揄するように言った自分に、軽い一瞥をくれただけで行ってしまったキュウゾウ。
それもいい、とそのときは思った。
すぐに片付けて帰ってくる、と。
キュウゾウに剣で勝てる人間など、この世にはいない。
生身を機械に替えた野伏であろうとも。
背に負った鞘から神速で抜刀するその妙技、腰を使わないというのに、あの速さ。
華奢とも言えるほどに細身だが、意外と肩は広く、またかなり力があることを知っている。
だから、キュウゾウが狙って討てない獲物など、いるはずがなかった。
帰ってきたキュウゾウは、いつものように無表情だったが、どこか楽しそうな瞳をしていた。
そして、しきりに左の首筋を気にしている。
見れば、うっすらと刀傷があった。
まさか、と思った。
あのキュウゾウが、掠り傷とはいえ斬られるなど。
あまつさえ、仕損じるだなどということは信じられなかった。
そんなに凄腕のサムライなのか、と訊いた自分に、キュウゾウは微かに口端を吊り上げた。
あんな楽しそうな表情は、大戦が終わってから一度も見たことがなかった。
けれどそれも、すぐに終わると思ったのだ。
「お主を斬るのは、この俺だ・・・」
そう言って、キュウゾウは雷電に狙われていた島田カンベエを助けた。
キュウゾウならば野伏ですら斬れることは知っているが、まさか本当に、それも一応は『味方』であるはずの野伏を、あんなにも迷いなく斬るとは思っていなかった。
あっという間に、魚を捌くように巨大な野伏の身体を解体してしまった。
なぜだ、と。
それしか考えられなかった。
カンベエを斬ることに興味がわいているにしても、野伏に倒されるようなサムライではその程度ということではないか。
黙って見ていれば良かったものを、なぜ助けたのか。
野伏を斬るということは、御前を斬るのと同じこと。
用心棒の身で、何を血迷ったことを。
これが御前に知られれば、キュウゾウは追われる身となる。
そう易々と殺される男ではないが、きっと自分は御前の命を受けて追う身となるのだろう。
──せっかく隣に立ったというのに・・・。
また追う身か、と。
だから、この場でカンベエを斬れと言った。
雷電は、サムライたちが斬ったことにすれば良かろう、と。
そうすればこれまで通り。
キュウゾウも、決着がつけられるのならば文句はあるまい。
そう、思ったのに。
「なぜ・・・だ・・・」
気づいたときには、キュウゾウが目の前に迫っていた。
避ける間など、あるわけがない。
この男の速さは、自分が一番よく知っている。
一番近くで見てきたのだ。
狙った獲物は、絶対に外さない。
ずっと、見てきたのだ。
それなのに、なぜキュウゾウが雷電を斬ったのかも、自分をこうして斬ったのかも、まるで分からない。
問う自分に、キュウゾウは答えた。
「・・・生きて、みたくなった」
無表情というより、どこか子どものようにあどけない顔。
数えきれないほど人を殺してきて、自分自分幽鬼のようであったというのに。
血に飢えているわけでもなく、殺しに悦びを見出すでもなく、ただ淡々と腕を磨き、人を、野伏を斬るキュウゾウ。
それが、まるで目が覚めたかのような、憑き物が落ちたかのような表情をしている。
「・・・ばか・・・め・・・っ」
剣に身を捧げた男が「生きてみたい」など。
それを、このキュウゾウに言わせた男が、どうしようもなく憎かった。
島田カンベエ。
もしも冥府で会うことがあったなら、真っ先に血祭りに上げてやる。
そう心に決め、最後に真紅の瞳を脳裏に焼き付けたヒョーゴの意識は、闇の底へと落ちていった。
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「おいで、願えるか?」
カンベエの言葉に、ヒョーゴの亡骸を見下ろしたまま「出立は」とキュウゾウ訊ねた。
「今すぐ」
シチロージが、少し驚いたように目を瞠り、カンベエを見やる。
カンベエの視線の先には、まだヒョーゴを見下ろしているキュウゾウの姿。
「・・・先に。すぐ追いつく」
「キュウゾウ」
「弔いを」
短く言うと、同胞の亡骸を抱き上げた。
華奢な身体に見えても、大の男ひとり運ぶのに難はない。
そのまま、カンベエを振り返る。
カンベエは、特に何の感慨も浮かべていないような顔で言う。
「追ってがかかるぞ」
「行け」
野伏十数機、ましてや浪人風情が何十人束になろうとも、キュウゾウを討つことは叶わないだろう。
「行き先はカンナ村であろう。場所は分かる」
ヒョーゴの亡骸を抱いたまま歩いて行こうとするキュウゾウに、カンベエが声をかける。
立ち止まるキュウゾウ。
しばし、視線を交わすふたり。
「キュウゾウ」
「・・・・・・」
じーっと見上げてくる真紅の瞳。
見下ろすカンベエの茶の瞳。
「キュ・・・」
「・・・・・・」
まだまだじーっと見つめてくる瞳に、カンベエは言葉を失った。
何かを訴えるような視線。
表情から、その感情は読み取れないが、確かに何かを語りかけている。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
じーっと見つめてくる瞳が、きらきらと輝いて見えるのは陽光のせいだろうか。
いつもはただ鋭く、恐ろしいばかりの瞳が、赤い宝石のように見える。
「・・・・・・」
「・・・・・・頼む」
微かに眉を寄せて、身長差から自然と上目遣いで見上げてくる青年からの『ドウスルアイフル』的懇願(カンベエビジョン)に、年甲斐もなく口許を押さえる男がひとり。
頬が緩むというよりは、鼻血をこらえているように見えたのは、シチロージの気のせいではなかろう。
──・・・まったく、この方は・・・。
そう思ったかどうかは定かではないが、次に続いたカンベエの台詞には思わずため息を零した。
「・・・ならぬ、と言ったら・・・?」
何を子どものようなことを、そうシチロージが言おうとしたとき。
「・・・行かぬ」
きゅっと眉を寄せての言に、シチロージは苦笑を漏らした。
これは、カンベエの負けであろう。
しかし、ふたりは睨み合いを始めてしまった。
それこそ時間の無駄というものである。
「・・・カンベエ様。キュウゾウ殿も、ああおっしゃっていることですし・・・」
やんわりと宥めすかすのも、『古女房』たる自分の役目であろう──こんな経験は初めてであったが。
けれど、ふん、と唇を引き結んでいるカンベエは腕組みをしてしまって動きそうもない。
これは参りやした、と額を叩くシチロージ。
周りのものは皆、一体何が起こっているのか、と顔を見合せている。
「──よし、ならばこうしよう」
妙案を思いついた、という顔で言い出したカンベエに、キュウゾウは首を傾げた。
「わしがそいつを捨てて──」
「──じゃかあしぃわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
叫んだのは、絶命したと思ったヒョーゴであり。
キュウゾウは、耳元から聞こえた声に、さすがに目を真ん丸にした。
「・・・ヒョー・・・」
「貴様、人が黙って死んでればギャーギャーギャーギャー」
「ギャーギャーは言っておらぬ」
「黙れ! そもそも、俺は貴様が気に入らんのだ!!」
突然始まった口喧嘩に、キュウゾウはヒョーゴを抱き上げたまま赤い目をぱちくりさせている。
胸元をざっくり斬られ、口端から血を流した黄色いサングラス男が喚くというちょっとホラーな展開に、カンベエとキュウゾウ以外の面々はドン引きである。
ゾゾゾ、と立つ鳥肌に、ヘイハチは思わずシチロージの袖を引いた。
「・・・あれは、生きているんでしょうか、それとも・・・」
「・・・あれじゃないですかい。キュウゾウ殿の腕があまりにも見事なので」
「──あぁ、自分が捌かれたことに気づかず泳いでいる魚のような!」
「そうそう、それでげす」
なるほど、と手を打つヘイハチに、シチロージは困ったように眉を下げている。
相変わらず、周囲はドン引きだ。
「死んでも死に切れぬのであれば、わしが引導を渡してやろう」
「いらぬ世話だ! 誰が貴様なんぞに!」
「・・・ヒョーゴ」
「いつまでもお主を抱いていたのでは、キュウゾウも疲れる」
「呼び捨てにするな、馴れ馴れしい! そもそも俺だって」
「ヒョーゴ」
「だいたい、貴様のような中年の枯れたオヤジに、キュウゾウが」
「──ヒョーゴ」
彼にしては強めに発された声に、ヒョーゴははっとしてキュウゾウに目を向ける。
こんなにも近づいたことはない、というくらい近くに、金糸の髪と真紅の瞳。
きつい顔立ちではあるが、その肌は意外なほど滑らかであることを知る。
「・・・何だ、キュウゾウ」
「死に切れぬのか?」
「は?」
「せめて苦しまぬよう、急所を斬ったはずだが」
「・・・・・・」
「死に切れぬのか・・・?」
どこか心配そうな表情に、まさか、という思いで目を瞠るヒョーゴ。
「悔いを残したまま死んだものの目は閉じぬという・・・お主も、そうか」
意外すぎるものを見て言葉を紡げなくなったヒョーゴに、キュウゾウは言った。
「・・・せめて、安らかに」
眠れ、とヒョーゴの額に唇を落とす。
両手が塞がって瞼を閉じてやることが出来ないキュウゾウの、それは同胞への弔いだったのかも知れない。
──ゴプッ。
「「──あ、とどめ」」
呟いたシチロージとヘイハチの前で、ヒョーゴは吐血してがっくりと首を落としたのだった。
**********
前半と後半の温度差がすげーと我ながら思う。
ふざけてるわけじゃないの。きっと、あの流されなかったシーンではこういうことになっていたはず!
小説だと、死んだヒョーゴをウキョウが蘇生させるんだってね。
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