小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
昨日の朝、こんなこと書いて下書き保存してました。
(以下、下書き)
明日は友人の結婚式。親族以外に友人は私だけらしいので、「お祝いとかいらないから身体ひとつで来て!!」と呼んでいただきました。ご祝儀は渡しませんが、プレゼントを贈ろうと思っています。デジタルフォトフレーム。ソニさんの、スワロクリスタルがついてる最新のやつ。音も流せるんだぜ。なので、定番ですがカエラの『Butterfly』入れておきました。あと、Celtic Womanとか。この前銀座でランチしたときの写真を入れて。2枚しかなかったので、明日式場で撮った写真もSDに落として一緒に渡そうと思っています。現像する手間がいらないって、素晴らしいよね。電源さえあればいつでも見られるし。
今日、帰りに花屋にも寄ってみようかと思っています。青薔薇あるかなぁ? ちっちゃい花束かアレンジメントがいいよなぁ。
──と、喜んでくれるかな? どうかな? ってわくわくするのが大好きなのです(笑)
(ここまで)
本日、結婚式。お花のバスケットと、プレゼントを持って、意気揚々と電車に乗った橘。余裕を持って、1時間くらい前に会場に着くように家を出たのです。12時から式なので、11時過ぎくらいには着きたいよねー、と。
電車を乗り換える必要があったので、乗り換えました。3回乗り換えるんですが、その3回目のあとが長いのね。大体、45分くらい乗ってるわけです。しかし、路線情報で調べた時間になっても目的地に着かないんです。
──をや?
そう思って電車内の路線図を見て血の気が引きました。
──・・・反対方向の電車乗っとるやんけ・・・。
実は、乗り換えの駅なんですが、まったく逆の方向へ行く電車が、同じホームから出るんです。駅を出て、線路が左右に分かれるイメージ。・・・やってくれるじゃねーか、さいたま新都心・・・「あー、スーパーアリーナ懐かしい。ガッ君のライヴ来た~」とか思ってる場合じゃねー。そして高崎線・・・。高崎線に乗らないといけないのに、宇都宮線に乗ってしまいました。
えぇ、もちろん間に合いませんでしたとも。電車間違えたことに気づいたときには、既に40分以上電車に乗ったあと。すぐに友人に連絡しましたが、その時点で11時15分。もとの駅に戻るのに同じ時間かかって、そこからさらに40分あまりですからね。もう、人生最大の失敗と後悔です。結局式場に着いたのは、13時過ぎ。これからお食事会という感じだったのですが、今回の式、新郎新婦ともにごくごくうちわでの結婚式なので、友人で呼ばれたのは私だけ。新郎の友人も来ていないんです。それなのに・・・・・・。友人である新婦のドレス姿が綺麗だったのと申し訳ないのとで泣けてきました。しかも、私新婦の隣に席作っていただいていて・・・新婦のご両親より近いって何?!(笑)
気を取り直して。
食事が始まり、皆さんの写真を撮って回り、会場のスタッフに頼んで延長コード用意してもらいました。で、新婦にフォトフレームの包みを開けてもらって、その場で見てもらおうと思ったんです。
新婦:「──デジタルフォトフレーム欲しかったの!!」
新郎:「買おうか、って言ってたんだよね」
橘:「おー、じゃあちょうど良かったね」
遅刻したお詫びではないですが、喜んでもらえて何よりです。ご家族の方も、音楽も流せるフォトフレームの存在に興味津々。「すごーい」を連発して下さいました。これこれ(笑)こういうびっくりが大好きなのよ(笑)フレーム自体もスワロのクリスタルがきらきらしてて綺麗なので、気に入ってもらえました。あー、良かった。
ご家族の皆さんにも遅刻したことをお詫びしましたが、「来てもらえただけで嬉しいです」と仰っていただけて。新郎側のご親族もやさしい方ばかりで、幸せな空気に満ちてました。橘は霊感は皆無ですが、勘は良いんです。空気はあえて読まないけど、気配を察するのは敏感です。そんな橘の直感が、『幸せオーラ』を感じ取ったので大丈夫でしょう。幸せになってもらいたいです。
そんな流れでフィギュアに行けるのか、自分。
(以下、下書き)
明日は友人の結婚式。親族以外に友人は私だけらしいので、「お祝いとかいらないから身体ひとつで来て!!」と呼んでいただきました。ご祝儀は渡しませんが、プレゼントを贈ろうと思っています。デジタルフォトフレーム。ソニさんの、スワロクリスタルがついてる最新のやつ。音も流せるんだぜ。なので、定番ですがカエラの『Butterfly』入れておきました。あと、Celtic Womanとか。この前銀座でランチしたときの写真を入れて。2枚しかなかったので、明日式場で撮った写真もSDに落として一緒に渡そうと思っています。現像する手間がいらないって、素晴らしいよね。電源さえあればいつでも見られるし。
今日、帰りに花屋にも寄ってみようかと思っています。青薔薇あるかなぁ? ちっちゃい花束かアレンジメントがいいよなぁ。
──と、喜んでくれるかな? どうかな? ってわくわくするのが大好きなのです(笑)
(ここまで)
本日、結婚式。お花のバスケットと、プレゼントを持って、意気揚々と電車に乗った橘。余裕を持って、1時間くらい前に会場に着くように家を出たのです。12時から式なので、11時過ぎくらいには着きたいよねー、と。
電車を乗り換える必要があったので、乗り換えました。3回乗り換えるんですが、その3回目のあとが長いのね。大体、45分くらい乗ってるわけです。しかし、路線情報で調べた時間になっても目的地に着かないんです。
──をや?
そう思って電車内の路線図を見て血の気が引きました。
──・・・反対方向の電車乗っとるやんけ・・・。
実は、乗り換えの駅なんですが、まったく逆の方向へ行く電車が、同じホームから出るんです。駅を出て、線路が左右に分かれるイメージ。・・・やってくれるじゃねーか、さいたま新都心・・・「あー、スーパーアリーナ懐かしい。ガッ君のライヴ来た~」とか思ってる場合じゃねー。そして高崎線・・・。高崎線に乗らないといけないのに、宇都宮線に乗ってしまいました。
えぇ、もちろん間に合いませんでしたとも。電車間違えたことに気づいたときには、既に40分以上電車に乗ったあと。すぐに友人に連絡しましたが、その時点で11時15分。もとの駅に戻るのに同じ時間かかって、そこからさらに40分あまりですからね。もう、人生最大の失敗と後悔です。結局式場に着いたのは、13時過ぎ。これからお食事会という感じだったのですが、今回の式、新郎新婦ともにごくごくうちわでの結婚式なので、友人で呼ばれたのは私だけ。新郎の友人も来ていないんです。それなのに・・・・・・。友人である新婦のドレス姿が綺麗だったのと申し訳ないのとで泣けてきました。しかも、私新婦の隣に席作っていただいていて・・・新婦のご両親より近いって何?!(笑)
気を取り直して。
食事が始まり、皆さんの写真を撮って回り、会場のスタッフに頼んで延長コード用意してもらいました。で、新婦にフォトフレームの包みを開けてもらって、その場で見てもらおうと思ったんです。
新婦:「──デジタルフォトフレーム欲しかったの!!」
新郎:「買おうか、って言ってたんだよね」
橘:「おー、じゃあちょうど良かったね」
遅刻したお詫びではないですが、喜んでもらえて何よりです。ご家族の方も、音楽も流せるフォトフレームの存在に興味津々。「すごーい」を連発して下さいました。これこれ(笑)こういうびっくりが大好きなのよ(笑)フレーム自体もスワロのクリスタルがきらきらしてて綺麗なので、気に入ってもらえました。あー、良かった。
ご家族の皆さんにも遅刻したことをお詫びしましたが、「来てもらえただけで嬉しいです」と仰っていただけて。新郎側のご親族もやさしい方ばかりで、幸せな空気に満ちてました。橘は霊感は皆無ですが、勘は良いんです。空気はあえて読まないけど、気配を察するのは敏感です。そんな橘の直感が、『幸せオーラ』を感じ取ったので大丈夫でしょう。幸せになってもらいたいです。
そんな流れでフィギュアに行けるのか、自分。
**********
その日、ヴァンツァーはそわそわしていた。
シニアに上がって初めてのシーズン。
そして、その年初めての国際大会だった。
ジュニア時代から3アクセルを得意としていたヴァンツァー。
最初に3アクセルを跳んだのは12歳のときだ。
4回転は13歳。
現在トゥループ、サルコウ、フリップの3種類の4回転を、練習では成功させている。
ジャンプは得意中の得意だった。
シニアに上がって初の国際大会で緊張するかとも思われたが、そんな心配は無用だった。
スピンがあまり得意ではないのだが、それでもショートは1位だった。
シーズン初戦だというのに80点近い点数を出した。
ヴァンツァーのジャンプは着氷後の流れが止まらないため加点が多く、それが他の先輩選手に点差をつけた要因だった。
翌日のフリースケーティングも1位。
シニアに上がったばかりの選手の大躍進に、会場に来ていた客は少ないながらも大熱狂であった。
その歓声が、何よりも嬉しかった。
──それに、ヴァンツァーには、この日は絶対に負けられない理由があったのだ。
「まずは、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
インタビュアーからマイクを向けられ、晴れやかな笑みを浮かべる美少年。
「冒頭の4回転、綺麗に決まりましたね」
「そうですね。そこは、ほっとしています」
ちいさく笑みを零しながらもどこか誇らしげな表情の少年に、インタビュアーも『そうだろう』という風に頷いた。
「あの4回転が決まったことが大きかったのではないかと思うのですが、いかがですか? 他に4回転を決めた選手はいませんでしたし」
「そうですね。それも大きいですが、他のジャンプでもダウングレードを取られなかったので、それもあったと思います。ただ、プロトコルを見ると、スピンでのレベルの取りこぼしがあるみたいなので、それは課題ですね」
「次はグランプリシリーズですが」
「課題を克服して、より良い演技を見せられるようにしたいと思います」
「頑張って下さい」
「ありがとうございます」
お辞儀をして控え室へと戻っていったヴァンツァー。
ほっとした。
嬉しかった。
演技の出来には満足していないが、それでも今日優勝出来たことは、本当に嬉しかった。
「・・・プレゼントに、なったかな・・・?」
ちいさく呟き、脳裏に満面の笑みを零す女性を思い描く。
今日はラティーナの誕生日なのだ。
会場にも見に来ている。
「ヴァンツァー! 改めて、おめでとう!」
控え室に入った途端、大きな声でそう言われ、これまた大きな身体に抱きしめられて目を丸くした。
「父さん・・・ありがとう」
「4回転を決めたあとも、よく最後まで集中していたな」
ぎゅうぎゅう抱きしめられて少し苦しかったが、それでもこんな風に喜んで、褒めてもらえるのはやはり嬉しい。
ちいさく苦笑して、逞しい身体をそっと抱き返したヴァンツァーに、ウォルは自分が勝利したような、嬉しそうな顔で言った。
「ラティーナも喜んでいた」
「──こっちに来てるの?」
「いや、メールと電話でな。会場の外で待っているそうだ」
「そうなんだ」
「支度が終わったら、3人で食事に行こう」
「うん」
頷き、着替えとスタッフへの挨拶を済ませると、荷物を手にして会場の出口へと向かう。
スケートに必要なものを一式入れた大きなバッグはスタッフに渡してある。
持って帰るのは自分の手荷物くらいのはずなのだが、ヴァンツァーはトートバックくらいの大きさの紙袋も手にしていた。
ラティーナに渡そうと、大きくはないが花束を用意していたのだ。
眩いばかりに白いというガブリエルをイメージした、白薔薇の花束。
百合というよりは、薔薇のような気がしたのだ。
袋の中身を確認し、会場を出る。
父とラティーナは既に待っていて、ヴァンツァーは小走りに駆け寄った。
「おめでとう、ヴァンツァー。素晴らしかったわ」
そう言って、ラティーナはヴァンツァーの頬にキスをした。
くすぐったそうな顔でそれを受け取ったヴァンツァーは、「ありがとう」と返した。
「いい誕生日プレゼントになったな」
そう言う父に、頷きを返す。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「あの──」
花束のことを言おうとしたヴァンツァーだったが、ウォルが「そうだ」と何かを思い出したように声を発した。
ラティーナがそちらに意識を向けたので、ヴァンツァーは反射的に口をつぐんだ。
「ひとつ、あなたに言おうと思っていたことがあるんだ」
そう前置きをするウォルに、ラティーナはきょとん、とした顔で首を傾げた。
「何でしょう?」
「頼みがあるんだが、聞いてもらえるだろうか」
「私で出来ることでしたら」
くすっと笑ったラティーナに、ウォルは真剣な面持ちで言った。
「結婚してもらえないだろうか」
「──え?」
「──っ」
ラティーナが目を真ん丸にするのと、ヴァンツァーが息を呑むのは同時だった。
ウォルは少し困ったような顔をして、1輪の花を差し出した。
淡いピンク色の薔薇の花。
「・・・俺は、こういうものはよく分からなくてな。花束を持ち歩いても似合わんから、こんなにちいさくなってしまったんだが・・・」
「・・・・・・」
「その・・・受け取ってもらえると、ありがたい」
実に神妙な面持ちで、ちらっと相手の顔色を窺うような態度を見せるウォルに、ラティーナは真ん丸にしていた目をやがて潤ませ、ゆっくりと口許に笑みを浮かべると、こくり、と頷いた。
「──そうか! いや・・・ははは。まさか頷いてもらえるとは!」
ペチン、と額を叩いたウォルに、ラティーナはくすくすと笑みを零した。
「嬉しいですわ。こんなに素敵なお願いなら、何度でも聞きたいくらい」
「いや、もう、いい歳して何を言ってるんだ、と言われたらどうしようかと」
「あなたこそ、私のような踊る以外何の取り柄もない女でもよろしいんですの?」
「その踊りと笑顔にな、癒される思いがするんだ」
少しばかり照れくさそうなウォルに、ラティーナは破顔した。
「・・・・・・」
幸せそうな空気を作っているふたりの横で、ヴァンツァーは拳を握った。
見ていられなくて、深く俯く。
どうして、と思っても、もうどうにもならない。
再婚が嫌なわけではない。
母が亡くなって、だいぶ経つ。
失意に沈んでいた父が、ようやく明るさを取り戻してきて嬉しくも思っていた。
次の幸せを見つけるのもいいだろう。
けれど、なぜ彼女なのか。
父とラティーナでは、ひと回り以上違う。
それが悪いわけではないけれど、それならば──。
「・・・っ」
奥歯を噛んだヴァンツァーは、ウォルの訝る声での問いかけに無理やり笑みを作った。
「ちょっと・・・忘れ物」
「忘れ物?」
「控え室、見てくる」
それだけ言うと、会場の中へと戻っていった。
「・・・・・・」
なぜ? と問うことも、反対だ、と憤ることも出来ない。
そんな子どもじみた真似は出来ない。
けれど、すぐに受け入れることも出来ない。
「・・・・・・」
行き場をなくした花束の入った紙袋を握り締める。
「あー、くるくるあくせるのおにーちゃんだー!」
そのとき、可愛らしい子どもの声が耳に届いた。
声のした方向に目を向けると、真っ白い女の子がいた。
銀色の髪、白い肌、白いケープを纏った少女である。
隣には、かなり大柄な──170センチあるヴァンツァーよりも背の高い──女性がいて、少女との大きさの違いにしばし唖然とした。
たたた、と駆け寄ってきた少女は、菫色の瞳をきらきらさせてヴァンツァーを見上げてくる。
「くるくるじゃーんぷ、って、すごいねー」
「・・・え?」
「『トリプル』のことらしい。悪いな、少年」
「あ、いえ・・・」
真っ白い少女とはこれまた正反対の、燃えるような真っ赤な髪をした女性に見下ろされ、ヴァンツァーは少しどぎまぎしてしまった。
「おにーちゃんがいちばんきれーだったの! おにーちゃん、てんしさまなの?!」
「え・・・いや・・・」
「ふわって! はねがはえてるみたい!!」
「・・・そう」
ありがとう、と苦笑したヴァンツァーは、少女の背丈に合わせてしゃがみ込んだ。
そうして、手にした紙袋から花束を取り出した。
彼女にはちいさいけれど、この少女には両手いっぱいに抱えるくらいの花束だ。
「あげる」
「──いいの?! おっきい!!」
「少年、これは?」
「あぁ、気にしないで下さい。プレゼント用に買ったんですけど、白はあまり好きじゃないみたいで・・・もらっていただけると助かります」
「まま! もらってもいいでしょう?」
「そういうことなら。せっかくの花だ。捨てるのはもったいないからな」
「おにーちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして」
それじゃあ、とヴァンツァーは会場を出た。
忘れ物を取りに行ったはずなのに特に荷物を増やしていない息子に、ウォルは首を傾げた。
当たり障りのないことを言って、その場を切り抜けたヴァンツァーだった。
**********
ヴァンツァーの『くるくるあくせる』に憧れてシェラたんがスケート始めればいい。
その日、ヴァンツァーはそわそわしていた。
シニアに上がって初めてのシーズン。
そして、その年初めての国際大会だった。
ジュニア時代から3アクセルを得意としていたヴァンツァー。
最初に3アクセルを跳んだのは12歳のときだ。
4回転は13歳。
現在トゥループ、サルコウ、フリップの3種類の4回転を、練習では成功させている。
ジャンプは得意中の得意だった。
シニアに上がって初の国際大会で緊張するかとも思われたが、そんな心配は無用だった。
スピンがあまり得意ではないのだが、それでもショートは1位だった。
シーズン初戦だというのに80点近い点数を出した。
ヴァンツァーのジャンプは着氷後の流れが止まらないため加点が多く、それが他の先輩選手に点差をつけた要因だった。
翌日のフリースケーティングも1位。
シニアに上がったばかりの選手の大躍進に、会場に来ていた客は少ないながらも大熱狂であった。
その歓声が、何よりも嬉しかった。
──それに、ヴァンツァーには、この日は絶対に負けられない理由があったのだ。
「まずは、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
インタビュアーからマイクを向けられ、晴れやかな笑みを浮かべる美少年。
「冒頭の4回転、綺麗に決まりましたね」
「そうですね。そこは、ほっとしています」
ちいさく笑みを零しながらもどこか誇らしげな表情の少年に、インタビュアーも『そうだろう』という風に頷いた。
「あの4回転が決まったことが大きかったのではないかと思うのですが、いかがですか? 他に4回転を決めた選手はいませんでしたし」
「そうですね。それも大きいですが、他のジャンプでもダウングレードを取られなかったので、それもあったと思います。ただ、プロトコルを見ると、スピンでのレベルの取りこぼしがあるみたいなので、それは課題ですね」
「次はグランプリシリーズですが」
「課題を克服して、より良い演技を見せられるようにしたいと思います」
「頑張って下さい」
「ありがとうございます」
お辞儀をして控え室へと戻っていったヴァンツァー。
ほっとした。
嬉しかった。
演技の出来には満足していないが、それでも今日優勝出来たことは、本当に嬉しかった。
「・・・プレゼントに、なったかな・・・?」
ちいさく呟き、脳裏に満面の笑みを零す女性を思い描く。
今日はラティーナの誕生日なのだ。
会場にも見に来ている。
「ヴァンツァー! 改めて、おめでとう!」
控え室に入った途端、大きな声でそう言われ、これまた大きな身体に抱きしめられて目を丸くした。
「父さん・・・ありがとう」
「4回転を決めたあとも、よく最後まで集中していたな」
ぎゅうぎゅう抱きしめられて少し苦しかったが、それでもこんな風に喜んで、褒めてもらえるのはやはり嬉しい。
ちいさく苦笑して、逞しい身体をそっと抱き返したヴァンツァーに、ウォルは自分が勝利したような、嬉しそうな顔で言った。
「ラティーナも喜んでいた」
「──こっちに来てるの?」
「いや、メールと電話でな。会場の外で待っているそうだ」
「そうなんだ」
「支度が終わったら、3人で食事に行こう」
「うん」
頷き、着替えとスタッフへの挨拶を済ませると、荷物を手にして会場の出口へと向かう。
スケートに必要なものを一式入れた大きなバッグはスタッフに渡してある。
持って帰るのは自分の手荷物くらいのはずなのだが、ヴァンツァーはトートバックくらいの大きさの紙袋も手にしていた。
ラティーナに渡そうと、大きくはないが花束を用意していたのだ。
眩いばかりに白いというガブリエルをイメージした、白薔薇の花束。
百合というよりは、薔薇のような気がしたのだ。
袋の中身を確認し、会場を出る。
父とラティーナは既に待っていて、ヴァンツァーは小走りに駆け寄った。
「おめでとう、ヴァンツァー。素晴らしかったわ」
そう言って、ラティーナはヴァンツァーの頬にキスをした。
くすぐったそうな顔でそれを受け取ったヴァンツァーは、「ありがとう」と返した。
「いい誕生日プレゼントになったな」
そう言う父に、頷きを返す。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「あの──」
花束のことを言おうとしたヴァンツァーだったが、ウォルが「そうだ」と何かを思い出したように声を発した。
ラティーナがそちらに意識を向けたので、ヴァンツァーは反射的に口をつぐんだ。
「ひとつ、あなたに言おうと思っていたことがあるんだ」
そう前置きをするウォルに、ラティーナはきょとん、とした顔で首を傾げた。
「何でしょう?」
「頼みがあるんだが、聞いてもらえるだろうか」
「私で出来ることでしたら」
くすっと笑ったラティーナに、ウォルは真剣な面持ちで言った。
「結婚してもらえないだろうか」
「──え?」
「──っ」
ラティーナが目を真ん丸にするのと、ヴァンツァーが息を呑むのは同時だった。
ウォルは少し困ったような顔をして、1輪の花を差し出した。
淡いピンク色の薔薇の花。
「・・・俺は、こういうものはよく分からなくてな。花束を持ち歩いても似合わんから、こんなにちいさくなってしまったんだが・・・」
「・・・・・・」
「その・・・受け取ってもらえると、ありがたい」
実に神妙な面持ちで、ちらっと相手の顔色を窺うような態度を見せるウォルに、ラティーナは真ん丸にしていた目をやがて潤ませ、ゆっくりと口許に笑みを浮かべると、こくり、と頷いた。
「──そうか! いや・・・ははは。まさか頷いてもらえるとは!」
ペチン、と額を叩いたウォルに、ラティーナはくすくすと笑みを零した。
「嬉しいですわ。こんなに素敵なお願いなら、何度でも聞きたいくらい」
「いや、もう、いい歳して何を言ってるんだ、と言われたらどうしようかと」
「あなたこそ、私のような踊る以外何の取り柄もない女でもよろしいんですの?」
「その踊りと笑顔にな、癒される思いがするんだ」
少しばかり照れくさそうなウォルに、ラティーナは破顔した。
「・・・・・・」
幸せそうな空気を作っているふたりの横で、ヴァンツァーは拳を握った。
見ていられなくて、深く俯く。
どうして、と思っても、もうどうにもならない。
再婚が嫌なわけではない。
母が亡くなって、だいぶ経つ。
失意に沈んでいた父が、ようやく明るさを取り戻してきて嬉しくも思っていた。
次の幸せを見つけるのもいいだろう。
けれど、なぜ彼女なのか。
父とラティーナでは、ひと回り以上違う。
それが悪いわけではないけれど、それならば──。
「・・・っ」
奥歯を噛んだヴァンツァーは、ウォルの訝る声での問いかけに無理やり笑みを作った。
「ちょっと・・・忘れ物」
「忘れ物?」
「控え室、見てくる」
それだけ言うと、会場の中へと戻っていった。
「・・・・・・」
なぜ? と問うことも、反対だ、と憤ることも出来ない。
そんな子どもじみた真似は出来ない。
けれど、すぐに受け入れることも出来ない。
「・・・・・・」
行き場をなくした花束の入った紙袋を握り締める。
「あー、くるくるあくせるのおにーちゃんだー!」
そのとき、可愛らしい子どもの声が耳に届いた。
声のした方向に目を向けると、真っ白い女の子がいた。
銀色の髪、白い肌、白いケープを纏った少女である。
隣には、かなり大柄な──170センチあるヴァンツァーよりも背の高い──女性がいて、少女との大きさの違いにしばし唖然とした。
たたた、と駆け寄ってきた少女は、菫色の瞳をきらきらさせてヴァンツァーを見上げてくる。
「くるくるじゃーんぷ、って、すごいねー」
「・・・え?」
「『トリプル』のことらしい。悪いな、少年」
「あ、いえ・・・」
真っ白い少女とはこれまた正反対の、燃えるような真っ赤な髪をした女性に見下ろされ、ヴァンツァーは少しどぎまぎしてしまった。
「おにーちゃんがいちばんきれーだったの! おにーちゃん、てんしさまなの?!」
「え・・・いや・・・」
「ふわって! はねがはえてるみたい!!」
「・・・そう」
ありがとう、と苦笑したヴァンツァーは、少女の背丈に合わせてしゃがみ込んだ。
そうして、手にした紙袋から花束を取り出した。
彼女にはちいさいけれど、この少女には両手いっぱいに抱えるくらいの花束だ。
「あげる」
「──いいの?! おっきい!!」
「少年、これは?」
「あぁ、気にしないで下さい。プレゼント用に買ったんですけど、白はあまり好きじゃないみたいで・・・もらっていただけると助かります」
「まま! もらってもいいでしょう?」
「そういうことなら。せっかくの花だ。捨てるのはもったいないからな」
「おにーちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして」
それじゃあ、とヴァンツァーは会場を出た。
忘れ物を取りに行ったはずなのに特に荷物を増やしていない息子に、ウォルは首を傾げた。
当たり障りのないことを言って、その場を切り抜けたヴァンツァーだった。
**********
ヴァンツァーの『くるくるあくせる』に憧れてシェラたんがスケート始めればいい。
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