小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
ひたすら『パガ超』聴いてたら、書きたくなったので。
この前書いたキニアンの続きみたいなもんですかね。
あ、知識は付け焼刃なので、信用しないで下さい。
この前書いたキニアンの続きみたいなもんですかね。
あ、知識は付け焼刃なので、信用しないで下さい。
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「もっと弾いて」
満足したんじゃなかったのか、と言いたくなったキニアンであったが、この貪欲で我が儘な女王様は『ちょっと』聴いたら『もっと』聴きたくなったらしい。
「・・・リスト好きなのか?」
「アリス、手が大きいから10度届くでしょう?」
「そりゃ届くけど」
「ピアノも上手いんだね」
「・・・・・・」
正直なところ、今の演奏を父親の前でやって見せたら激怒される。
それどころか、『弾けないなら弾くな』とまで言われるに違いない。
マリアの前でやって見せても、「あらあら、カノンちゃんの前で緊張してたのね」なんて笑われることは目に見えている。
特に『ラ・カンパネラ』はマリアが最も得意としているパガニーニの作だ。
ピアノの方が有名なようだが、元々はヴァイオリン曲である。
『悪魔に魂を売った演奏技術』と呼ばれるほどのパガニーニの超絶技巧曲を聴いたリストが、「わたしはピアノのパガニーニになる」と言い放って作曲したのが『パガニーニによる超絶技巧練習曲』だ。
その中に、ピアノ曲の『ラ・カンパネラ』がある。
簡易版である『パガニーニによる大練習曲』であれば演奏出来る音楽家は少なくないが、『超絶技巧練習曲』になると6曲ある楽曲すべて弾いて録音出来たのは片手で足りる。
その悪魔の楽曲をマリアは少女のような笑みを浮かべて弾いて見せる──むろん、本人にとっても簡単に弾いているわけではないのだが。
にこにこと機嫌良さそうにしているカノンには悪いが、この程度の演奏を『上手い』と言われたのでは、世の音楽家に申し訳がない。
そして、キニアンの両親は揃いも揃って『天才』・『巨匠』と呼ばれるほどの音楽家だった。
「・・・・・・」
キニアンは軽く息を吐いて椅子から立ち上がった。
「もう止めちゃうの~?」
カノンが不満そうな声を上げるのも当然。
キニアンは何だかんだ言って、カノンの前でチェロを弾いたことがなかった。
せめてピアノくらい、と思ったカノンの心情も分からないではない。
そんな可愛らしい恋人の気持ちに気づいているのかいないのか、キニアンは店員に訊ねた。
「チェロ、ありますか?」
「え?」
「俺、ピアノは専門じゃないんで。出来ればチェロを貸していただきたいんですけど」
「──専門じゃない? あの演奏で?」
「・・・チェロなら、もう少しマシな演奏が出来ますから」
「あるにはあるけれど・・・このお店にはあまりチェロを演奏するお客様はいらっしゃらないから、若いものしかないの」
肩をすくめた店員は、キニアンに「いつもはどんなものを使っているの?」と訊ねた。
「ストラドです」
「──ストラディバリウス?!」
「えぇ。やっぱり音がいいですから」
「・・・・・・」
卒倒しそうになった店員である。
現存数が極端に少ない、世界最高水準の名器だ。
何でもないような顔をして高校生が使うようなものではない。
「・・・悪いけど、うちじゃ無理よ」
「じゃあ、オールドチェロは?」
「とんでもない。せいぜい10年、20年がやっと」
「そうですか・・・分かりました」
ありがとうございます、と頭を下げたキニアンは、カノンに「帰るぞ」と告げた。
むぅ、と唇を尖らせた恋人の頭をポンポン叩く。
「1回寮に戻って、お前の家に行こう」
「──え?」
「どうせなら、ちゃんとした音の出る楽器がいい」
「そんなに違うの?」
呆れた顔になったキニアンだ。
「お前なぁ・・・やたら耳がいいくせに、チェリストにピアノ弾かせるわ、楽器にまで無頓着だわ」
「だって、アリス、チェロ弾いてくれないんだもん・・・」
「当たり前だ。満足出来ない音を聴かせたくない」
「ピアノは弾いた」
「あれは専門じゃないからいいんだよ」
「上手だったのに」
「・・・あんな音で喜ばないでくれ・・・」
『弾ける』のと、『奏でる』のは違う。
そもそも、先ほどの曲は『弾く』ことすら満足に出来ていなかった。
「弦楽器は生で聴いたことあるのか?」
「ソナタはヴァイオリン弾くよ」
「──本当か?」
「ちょっとだけね。ぼくも、ヴィオラは教えてもらった」
「・・・ヴァンツァーさんに?」
「うん」
「・・・・・・」
何かひとつくらい出来ないことはないのか、と僻みそうになる。
「あ、でも、父さんチェロは弾かないんだ」
「──え?」
「っていうか、まだチェロまで行ってない」
「・・・行ってない?」
「ピアノでリスト弾けるようになったらヴァイオリン行って、ヴァイオリンでパガニーニ弾けるようになったらヴィオラ行って、って段階踏んでるらしいよ」
「・・・・・・」
勘弁してくれ、と絶望的な気分になったキニアンである。
もう、恋人の父親だろうがなんだろうが、『おかしい』と声を大にして言いたくなる。
そんな『段階』はそもそも存在しないし、彼の中の定義づけがどうなっているかは知らないが、どれも大企業の経営者が片手間に練習して弾けるようになるような曲ではない。
「・・・チェロまで来ないことを祈るよ」
「あ、アリスがチェロ弾けるから、ピアノ四重奏出来るね」
「──シェラさんは?」
「シェラは、楽器全然ダメだよ」
「そうなの? シェラさんも、ヴァンツァーさんに負けず劣らず、何でも出来そうなのに」
「音楽とか絵とか、興味ないんだって」
「意外・・・」
「でも、そのくせ父さんに超絶技巧曲とか弾かせるの好きなんだ。きゃっきゃ言って鬼みたいな速弾きさせてる。何か、ぼくよく分からないんだけど、『シャア専用パガ超』とかいうリクエストよくしてるよ。さすがの父さんも苦笑して『無理』って言ってるから、相当鬼なこと言ってるんだろうね」
「・・・ヴァンツァーさんの無駄なマルチさって、シェラさんが助長させてるんじゃないのか?」
「うん、そうだよ?」
そんなことを話しているうちに、エア・カーは寮に着き、キニアンはカノンを車中に待たせて『相棒』を取りにいった。
「──チェロケースに、シートベルト?」
「あー・・・馬鹿みたいに高いんだよ、こいつ。こんなとこ父親に見られたら半日説教される」
「いくら?」
「ウォルナット・ヒルに家が建つ」
「──・・・・・・」
さすがに目を剥いたカノンだ。
軽く億単位だ。
その顔を見て、「ちょっと大袈裟だけどな」と付け足したキニアンだが、さほど誇張はしていなかった。
そんなものを学校に持ってくるな、という話なのだが、幸い連邦大学惑星は治安も良いし、正直、教員含め誰もキニアンがそんな高級楽器を持っているとは知らない。
「・・・寮で弾けばいいのに」
「音響効果最悪」
「音楽室は?」
「お前の家のホールのがいい」
「ふぅん」
「・・・ホント、無頓着なのな」
そうして、デートは演奏会へと変わったのである。
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続いてしまった・・・。こんな時間なので、寝ます。
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