小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
小ネタ執筆だな。
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──あなたは、気づいていない。
「シェラー、おはよー」
「おはよー、シェラー」
日曜日の朝だって、いつも通りの時間に双子の元気な声が家の中に響く。
「──おはよう」
にっこりと微笑を浮かべたシェラは、庭で洗濯物を干していた。
真っ白に洗い上げたシーツが風に揺れている。
早い秋の訪れに、少し肌寒いくらいの気候。
双子はぎゅっとシェラに抱きついた。
「「おはよー」」
「うん、おはよ」
へへへ、と笑いかけてくる可愛い子どもたちに、シェラも聖母の微笑みを浮かべた。
「パパは?」
「寝てる」
「「──嘘?!」」
「ほんと。ぐっすり」
「「・・・・・・」」
カノンとソナタは、思わず顔を見合わせた。
気配に敏感で、眠りが浅くて、低血圧とは無縁で朝なんかめちゃくちゃ強くて、シェラより遅く起きたことなんてほぼない父がそんなまさか。
「・・・薬でも盛ったの?」
「こら」
カノンの言葉に、思わず苦笑したシェラだ。
「同じくらいに目は覚めたんだけど、もうちょっと寝てろって言ったんだ」
「『シェラが一緒じゃないと眠れない』とか言わなかった?」
「言った」
「よく逃げてこられたね」
「さすがに、ここ最近忙しかったからね」
これから決算期でもっと忙しくなるから、休めるときに休ませておかないと、と言うシェラに、双子は苦笑した。
「シェラだって」
「──私?」
「そうだよ。毎日早起きして、ご飯作ったり掃除したり洗濯したり」
「休みの日くらい、のんびりしたっていいのに」
「うーん・・・でも、家事好きだから」
「それは知ってるけど」
「ご飯、『美味しい』って言ってもらえると嬉しいし」
「美味しいよ。世界一、いや、宇宙一美味しいよ!」
「ありがとう。お布団もふかふかだと気持ちいいでしょう?」
「ぐっすり眠れるよ」
「でしょう?」
でも、と双子は心配そうな顔をした。
「頑張りすぎると、疲れちゃうよ・・・」
「ただでさえ、うちには特大の子どもがいるのに」
「あはは。そうだね。でもほら、大きいのにじゃれつかれる前にお洗濯終わらせておかないと」
「ぼくたちだって出来るよ」
「乾燥機使っちゃえばいいのに」
「うん、そうだね」
にこにこ笑って頷いていても、きっとシェラは自分の力で何でもやってしまうのだ。
──それが、ちょっと寂しい。
頼りない子どもなのは分かっているけれど、もっともっと、周りを頼っていいのに。
「心配してくれて、ありがとう。ソナタとカノンにそう言ってもらえると、すごく元気になれるよ」
もう一度「ありがとう」と言って、シェラは朝食の用意をしにキッチンへ向かった。
その背中を見送った双子は、「「だから、そういうのをサボっちゃえばいいのに」」とため息を吐いた。
「シェラはさ、天然さんで、鈍感さんなんだよね」
「しっかりさんに見えて、うっかりさんだしね」
「そこが可愛いんだけど」
「心配でもある」
はぁぁぁぁ、と大きなため息を吐いた双子は、顔を見合わせてもう何度目かの苦笑をした。
「「──・・・どんなシェラだって、大好きなのにね」」
綺麗で、可愛くて、強くて、男前なのに意外と泣き虫で。
気が短いくせに、二十年以上あの父と付き合っていられるツワモノだ。
「パパには『休め』って言うくせに」
「何だかんだ言って、大好きだよね」
「ね。怒ったり、泣いたり、笑ったり、パパの前にいるシェラ、百面相だもん」
「で、父さんがいつかいなくなっちゃうんじゃないか、って心配してるんだよ」
「そんなわけないのにね」
「ホント。父さんがシェラから離れることより、明日世界が崩壊することの方がまだ信憑性があるよ」
「ね」
まったく、と双子は困ったようにくすくす笑った。
「パパはだいぶ自覚出てきたよね」
「っていうか、半分自己暗示?」
「あはは。言えてる。もうすっかり暗示かかってるけど」
「二十年? 呆れるくらい気が長いけど、シェラはそれ以上だもんなぁ・・・」
双子は肩をすくめると、胸中で声を揃えた。
──みんな、あなたのことを愛しているよ。
早く気づいてもらえるように。
もっともっと、たくさん『愛してる』をあげよう。
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うん。平和だ。
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