小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
叩いて被ってじゃんけんぽん。
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「──乙女、そのゴミは何だ?」
白金の髪に水色の瞳の人間離れした美貌の男は、寵愛する少女を抱く腕のやさしさからは信じられないほど温度のない一瞥を向けた。
「ゴミ?」
少女は左右色の違う瞳で男の顔を見てから、その視線の先を辿った。
がっしりとよく鍛えられた身体の、二十をいくつか超えた年頃の男だ。
小ざっぱりと短い黒髪に日に焼けた肌をしており、どこか熊のような印象を受ける。
「──じ、自分はゴミではないでありますっ!」
「誰が口を開いていいと言った、人間風情が」
低い声は心地良さすら覚えるほどなのに、その圧に勝手に膝が折れる。
「ごめんなさい」
「──なぜ乙女が謝る?」
少女の滑らかな薔薇色の頬に、爪の先まで完璧に整った指を這わせ、男は訝しげに問う。
「だって、わたしも人間風情」
喋っちゃダメだった? と長い睫毛を瞬かせながら訊く少女に、男はその怜悧なまでの美貌に笑みを浮かべて見せた。
「乙女は器が人の形を取っているだけであろう」
「んー?」
違いがよく分からなくて首を傾げると、ふわふわとやわらかな銀髪が揺れた。
「乙女とあのゴミとでは、魂の価値が違う」
「あの人、とってもいい人よ?」
綺麗なおリボンくれたの、とブラウスの襟元で結ばれた繊細なレースのリボンを指差した。
所々、立体的に小花が浮き出るように編まれた見事なものである。
「アリアたんのために、ひと目ひと目、心を込めて編んだであります!」
地面に両手両膝を付きながらも、ニッカと笑ってみせた熊男を不快気に見遣り、美貌の男はしゅるりとリボンを解いた。
「このような、物騒な念のこもっていそうなものは乙女に相応しくない」
「物騒とは何か!」
「邪念しか感じぬ」
「何が邪か! 美少女はレースとリボンでくるまれているべk」
「喋るな、ゴミ」
言い終わる前に身体にかかる圧が増し、耐え切れず地面に這いつくばる。
「乙女はリボンが好きか」
永久凍土を思わせるアクアマリンのような瞳が、とろけるような甘さを含んで少女を見つめる。
「うん。綺麗なものは大好き」
「そうか。リボンでも宝石でも、乙女が欲しいものは私がいくらでも用意しよう」
「そのおリボンも綺麗よ?」
「・・・じ、自分、射撃よりも編み物が得意でありm」
「まだ喋るか」
グエッ、と呻く声を聞き、アリアは自分の肩を抱く男の袖をちょいちょいと引いた。
「・・・苦しそう」
その言葉に、水色の瞳が細められる。
「乙女はやさしい。では、ひと思いに」
「ユニちゃん」
「・・・誰のことだ」
「じゃあ、エリオット」
「・・・」
「お願い」
ね? と微笑みかけられて、男は渋々──本当に嫌そうに、圧を解いた。
「──ぷはっ!」
ぜーぜーと荒い呼吸を繰り返す熊男に目を遣り、次にアリアは水色の瞳を見上げて右手を差し出した。
「・・・」
「アリア、そのおリボン欲しいの」
「・・・・・・」
「わたしが欲しいもの、何でもくれるんでしょう?」
疑うことを知らぬように深く澄んだ藍と菫の瞳で見つめられれば、折れるしかない。
「ありがとう!」
にっこり笑うと、アリアはたたたっ、と熊男に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「な、何の・・・遠洋航海で生命維持装置が壊れたときに比べれば・・・」
ぐぬぬ、とまずは肘を、次に手のひらを地面につけ、どうにか上体を起こす。
「ごめんなさい。ユニちゃんは、ちょっと過保護なんです」
「問題ないであります。彼とは気が合いs」
「合うか」
ようやく起き上がった男の背に足を乗せ、代わりにアリアを抱き上げる。
「さぁ、乙女。今日はご母堂がアップルパイを焼いて待っているのであろう?」
「そうだった!」
嬉しそうな顔になったアリアを見て、水色の瞳もやさしげに細められた。
「あ、おリボンありがとうございました!」
歩き出す男の背中越しに礼を言えば、地面に蹲ったまま手だけがブンブン振り返された。
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ユニコーンのユニちゃんと、レース編みの得意な元軍人さん。
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