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小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
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2ケツ編。今度こそ『むぎゅっ』。

しかし、今更ですが、カノンとキニアンはどちらもオリジナルなわけで。私は「オリキャラだけで話し書けるやんけー!!」とつい最近感動を覚えたものです。


**********

脅迫に近い約束を取り交わしたのが土曜日。
翌日の日曜はキニアンが部活に出るため、バイクに乗るのは次の金曜まで待つこととなった。
すべての授業が終わり、カノンは意気揚々と妹たちのクラスを訪ねた。

「迎えに来てあげたよ」

にっこりと笑ってそんなことを言う女王様に、キニアンは今の今になっても気乗りしない表情でため息を吐いた。

「・・・やっぱり」
「──男に二言はないよね?」
「・・・・・・」

そこを突かれると痛い。
何せ、かっこつけたがりの高校生。
『男』とか、『プライド』とか『面子』といった単語を持ち出されると非常に弱い。

「・・・分かったよ」

そして、諦めたように項垂れるその姿こそが情けないのだと気づいていない辺りが、青い証拠である。
女王様に付き従う従僕を見送ったクラスメイトたちは、こぞってささやきあったものだ。

「なんかさぁ、カノン君と付き合う前のキニアンって、もっとかっこよくなかった?」
「ね~。何か、ふたりで一緒にいると、カノン君の方が大きく見えるよね」
「あ、分かる!! 20センチ近く身長差あるとは思えないよね!!」
「カノン君、犬の散歩してるみたいだもんねぇ」
「惚れた弱みってやつかなぁ?」
「そうだよねー。ものすごく、『キニアンの片想い』って感じだもんねー」

そんなことを言い合っているクラスメイトたちを横目に、ソナタはこっそり呟いた。

「──みんな、まだまだ青いわねぇ」



ガレージに停められているバイクを見て、カノンは菫の目を丸くした。

「──うっわぁ、かっこいい~」

漆黒の機体はかなり大型でありながら、意外と車体の高さは低い。
その、地を這うような美しいフォルムが、この車種の大きな魅力だ。
実に300kg近い重厚感のある機体と比べると、普通の高校生では見劣りしてしまう。
しかし、さすがに細身とはいえ190センチの長身を誇るだけのことはある。
黒と銀を貴重とした機体に寄り添うキニアンは、カノンの目から見ても通常の3割増でかっこよく見える──ただし、今カノンが褒めたのは純粋にバイクのみだ。

「──だろう?」

けれど、愛車を褒められたキニアンは、本当に珍しいことながら、新緑色の瞳を輝かせてこの車種の解説を始めたのだ。
こんなに多弁な彼を、カノンは見たことがなかった。
『DRUG STAR』と銘打たれたこのオートバイは排気量別に生産され、キニアンの愛車は実に1100ccを誇る。

「400もあったんだけど、どうしてもこっちが良くて」
「自分で買ったの?」
「さすがに全額は出せなかったから・・・」

半分母親に出してもらったのだ、と苦笑する。

「父親に話したらバスケ始めたときみたいに猛反対されるの分かってたからな」
「お母さんは、心配してなかった?」
「してたよ。でも、最後は笑って『人生、楽しみなさい』で済ませてくれる人だから」

カノンはにっこりと笑って、「いいお母さんだね」と言った。
頷いたキニアンは、「ほら」と言ってヘルメットを手渡した。
フルフェイスタイプのそれを受け取ったカノンは、しげしげと眺めてから、キニアンに向かって差し出した。
キニアンは若干顔を顰めた。

「被らないと乗せないからな」
「被るけど、分からないからやって」

あぁ、そうか、とヘルメットを受け取り、銀色の頭にすぽん、と被せてやる。
顎の下でベルトを締め、シールドを上げてやる。

「・・・結構重いね。ふらふらする」
「我慢しろ。そのタイプが一番安全なんだ」
「──アリスは?」
「装着義務は、初心者だけだ」
「でも、いつもは被ってるんでしょう?」
「日によってかな」

それでも、車と違って身体が直に風に晒されるため、ゴーグルはつける。
カノンは「ふぅん」と呟き、手渡されたグローブも受け取った。

「これも?」
「そんなに速度出さないけど、それでもバイクで走ると直接風を受けるからかなり寒い。夏はともかく、他の季節は春でもつけておいた方がいい」
「アリスは?」

同じことを訊いてくるカノンに、キニアンは「ないんだよ」と返した。

「人乗せないから、用意してない」
「──ぼく、初めて?」
「初めてじゃないけど」
「・・・なぁんだ」

フルフェイスのヘルメット越しのくぐもった声に、キニアンはちいさく笑った。

「──女じゃないぞ」
「は?」
「何だ。妬いたんじゃないのか?」
「──はぁ?! 妬く? ぼくが? 何で!」

冗談じゃない、と言いたげな口調と瞳に、キニアンは肩をすくめた。
人を乗せて走るのは初めてではないが、この愛車に人を乗せるのは初めてだ。
だが、それは言わなかった。
言っても、どうせ「ふぅん」で済ませられてしまうと思ったのだ──KYだから。
バイクのシートに跨り、エンジンをかける。
ゴーグルを下ろしてリアシートを叩き、ここに座れ、と示す。

「早くグローブつけろ」
「ぼく、いいや。やっぱりアリスがつけて」

反射的にグローブを受け取ってしまったキニアン。

「馬鹿言うな。つけないなら」

乗せないからな、と言おうとしたときには既に遅く、カノンはひょい、とリアシートに腰を下ろしていた。

「あぁ、こっちのが高いから、アリスと同じくらいの視界だね」
「お前なぁ・・・」

無邪気な声で話し掛けてくる女王様に、グローブを再度手渡そうとしたが、カノンは首を振った。

「ぼく、こっちでいい」

そう言って、カノンはキニアンのライダージャケットのポケットに手を突っ込んだ。

「────っ・・・」

背中に抱きつかれ、キニアンは一瞬言葉を失った。
振り返り様に見たカノンは、にっこり笑っている。

「こっちもあったかいから。グローブは、アリスがつけてね」
「・・・・・・」

天使の微笑を浮かべる女王様を前に、キニアンの心臓は破裂しそうになっていた。
いや、別に抱きつかれるのは初めてではないし、キスだってするが、これはいくらなんでも唐突だろう、と思うのだ。
バイクを走らせるときになってから「掴まってろ」と言うつもりだったし、どうせカノンのことだからジャケットを握るくらいのことしかしないだろうと思ったのだ。

──何だ? 誰だこいつ? あれか? これがデレ期ってやつか???

固まってしまったキニアンに、カノンは不満そうな声で「はやくぅー」と催促した。
ポケットに手を突っ込んだまま腹をポンポン叩かれ、はっと我に返る。

「早くしないと、陽が沈むまでに海岸行けないよー」
「・・・・・・」

カノンに他意はないのだ。
女王様は、いつも通りの女王様。
いつだって、ドキドキしたり慌てたりするのは自分だけなのだ。
出発する前からぐったりしてしまったキニアンだったが、確かに週末とはいえ、あまり遅くならないうちにカノンを家に送って行きたい。

「・・・ちゃんと、掴まってろ」

キメ台詞にするつもりだったそれを、ため息とともに告げたキニアンなのであった。



**********

ん~、海岸編も書きたくなってきた(笑)
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