小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
朝書いた小ネタの続き。
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「で、どうしたの?」
キニアンはアイスコーヒーを、ライアンはアイスレモネードとチョコレートケーキを注文した。
初夏のこの時期、店内は空調が効いていて涼しい。
しかし、人々の異様な熱視線のおかげで何だか薄く汗ばむような思いがする。
それでなくても、キニアンは若干緊張してこの場を訪れていたのだから。
「・・・頼みが、あるんだ」
「頼み?」
可愛らしく首を傾げる金髪美人に、キニアンは真剣な面持ちで頷いた。
「何だろ。おれで役に立てることかな?」
「・・・あんたくらいにしか、訊けないんだ」
「どうしたの?」
真剣な顔をして美女を見つめる美少年という、いたくオイシイ構図に、客だけでなくウェイトレスまでもが仕事の手を止めて食い入るようにふたりを見つめている。
「俺・・・」
「うん」
「その・・・」
「うん」
「────モテたいんだ」
もともときつい顔立ちを険しいくらいにしてそう告げたキニアンに、ライアンはマヌケな表情を晒した。
「・・・も?」
「モテたい」
「・・・誰が?」
「俺」
「何で?」
「モテないからだよ」
決まってるだろ、そんなの、と顔を顰める少年は文句なく『美形』とか『かっこいい』とか、『男前』と称されるのに十分なほどの美貌の主だった──その中身はともかくとして。
「いやいやいやいや。その顔でそんなこと言ったら、きみの周りの男の子たちに殺されると思うよ・・・?」
何を言っちゃってるのかな、この子は、といった口調になるライアン。
それに、と彼は言葉を続けた。
「アー君には、お兄ちゃんという天使がいるじゃない。女の子にモテる必要なんてないでしょう?」
あの女の子よりも余程乙女な心を持った可愛らしい女王様が、彼氏の浮気を赦すとは思えない。
同級生に殺される前に、確実にあの女王様のお仕置きが待っているはずだ。
「・・・他の女子なんてどうでもいいよ」
「──え?」
「あいつ・・・どうしたら、俺のこと好きになるのかな・・・?」
「・・・はい?」
「俺ばっかり・・・その・・・」
耳まで赤くなる多感な年頃の少年に、ライアンは思わず吹き出した。
「ちょっ! 何で笑うんだよ!!」
寡黙な少年にしては珍しく大きな声に、ライアンは「ごめん、ごめん」と言いながらも大笑いしている。
キニアンは思い切り眉を寄せ、「何だよ・・・」と呟いてそっぽを向いた。
「アー君はあれだ。お兄ちゃんが自分のことなんて好きじゃないんじゃないか、と不安なわけだ」
「不安っていうか、実際、俺はあいつにとってただの下僕だし」
「ぷっ」
「だから何で笑うんだよ!」
「だっ・・・ごめ・・・・・・・・・あっははははははは!!!!」
ひーひー言って腹を抱えながら笑っている年上の友人に、キニアンは「言わなきゃ良かった」と舌打ちした。
「必要ない、ない! お兄ちゃんはアー君のこと大好きなんだから」
「どこがだよ」
「どこって・・・ぷっ! 見れば分かるよ」
「分かんないからあんたに頼んでるんじゃないか」
「お兄ちゃんにモテる方法、教えてくれって?」
「そうだよ。あんた、前は相当遊んでたんだろ? だったら分かるだろ?」
「・・・ぷっ・・・っくくくくくくくくく・・・」
「・・・・・・」
顔中に『腹立つ』と書いて憚らない少年に、ライアンは太陽のような笑顔を向けたまま言った。
「──じゃあ、ひとつ」
キニアンは、ごくり、と息を呑んだ。
ライアンにとっては爆笑するようなことでも、彼にとってはとても真剣な悩みなのだ。
男どうしだなんてことは分かってる。
周りは割りと理解のある人たちが多く、カノンの両親など諸手を上げて喜んでいるくらいだが、そうは思わない人もいるだろう。
それでも、誰に何と言われようと、好きなものは好きなのだ。
理由なんて、それで十分。
女王様だろうと天使だろうと妖精だろうと何でもいい。
どれだけ我が儘を言われようと、軽くあしらわれようと、下僕扱いされようと、一緒にいたいという気持ちは変わらない。
──けれど、たまには可愛く 『 好き 』 とか言われてみたいのだ。
だから、モテる秘訣を、この金髪美人から聞き出さなければならないのだ。
身を乗り出したキニアンに、ライアンはにっ、と口端を吊り上げて笑った。
「──毎晩、『愛してる』って言うこと」
告げられた言葉に、キニアンの顔から表情がぽっかりと抜け落ちた。
もともと表情の少ない少年だが、そういうことではない。
目は真ん丸だというのに、時間が止まったようにぴくりとも動かない。
「・・・あ・・・?」
「愛してる。毎日、毎晩言ってごらん」
「・・・・・・言えるか」
「だって、モテたいんでしょう? これ、一番効くよ?」
「・・・・・・」
「さっきも言ったけど、お兄ちゃんはアー君のこと大好きなんだよ。でも、ちょっと恥ずかしがりやさんだから、素直になれないだけ。毎日言われてれば、『好き』って気持ちを受け取るのに抵抗なくなるから」
さっきまで爆笑していた人間の言葉だというのに、何だかものすごい含蓄のある言葉のように聞こえてきた。
「・・・もうちょっとハードル下がらないか?」
「スポーツマンが何言ってるの」
「いや・・・全然関係ないぞ、それ」
「じゃあ、毎日『好き』って伝えること」
「・・・・・・」
口を噤む少年に、ライアンは深くため息を吐いた。
「若い男の子のいけないところは、恋人に『言葉』で伝えないところだよね」
「あんたも若いだろうが・・・」
「女の子はね、100カラットのダイヤより、100万本の薔薇の花束より、たったひと言の『好き』の方が、ずっとずっと嬉しいんだよ」
「・・・・・・」
「1日1回の『好き』と『キス』。これで落ちない女はいない!」
力強く断言されたその台詞に、キニアンはしばらく難しい顔をしていたが、やがてこっくりと頷いた。
「・・・分かった」
「言える?」
「・・・鋭意、努力する」
「ん~、何か頼りないけど・・・──ま、頑張って」
頷くキニアンに、ライアンは「じゃあ」と切り出した。
「──早速、今ここで、お兄ちゃんに電話して言ってみようか」
おれと会う時間があるならお兄ちゃんと一緒にいなよ、と苦笑するライアン。
さらっと無茶振りをしてくる男に、キニアンは頬を引き攣らせたのだった。
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キニアンは、みんなの玩具になっていればいいと思うよ。うん。
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