小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
11月11日が過ぎてましたね。なんか書いてみようかなー。書けるかなー。
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甘いものはそんなに好きではなかったが、長時間本を読んでいると、欲しくなることがある。
単純にブドウ糖が枯渇しているだけなのだから、目と身体を休めればいいと自分でも思うのに、読みたい欲求に抗うのはなかなか難しい。
チョコレートでコーティングされたプレッツェルを口に咥え、パラパラと本を捲る。
カリッ、と小気味良い音が、歯と頭蓋骨を通して頭に響く。
シェラに頼めばもっと美味しくて栄養価の高いおやつを喜んで作ってくれるだろうけれど、たまに市販の安い味が欲しくなったりする。
もう1本手に取ってカリッ、と歯を立てると、肩からひと房髪が零れ落ちた。
姉と同じ真っ黒で真っ直ぐな髪は、結ってもすぐに解けてしまう。
本を捲る右手はそのままに左手で背後を探れば、いつの間にか落ちてしまったらしい結い紐が手に触れた。
プレッツェルを口に咥えながら、後頭部で髪を結おうとしたのだが。
「──あ! フーちゃん、いーの食べてる!」
いつ目の前にやって来たのか、ふわりと黒い綿のようなものが鼻先を掠めたと思ったら、カリッ、と音がして咥えていたプレッツェルが半分なくなった。
「ん・・・これビターだ・・・」
ビターというほど苦くもないのだが、甘いものが好きな彼の口には合わなかったらしい。
「人の取ろうとするからだよ──ロン」
からかうように言えば、ちょっと拗ねたような顔をして、傍らに置いておいたコップの中身に口をつける片割れ。
あ、と止めようとしたときには遅かった。
「──うぇ! にがっ!」
そのコップももちろん俺のもので、中は砂糖もミルクも入っていないブラック珈琲。
吐き出しはしなかったものの、青い瞳には涙が浮かんでいる。
「フーちゃん、よくこんな苦いの飲んだり食べたり出来るね・・・」
眦の涙を指で拭ってやると、苦さを誤魔化すためなのか、ロンドは仔犬のように舌を出した。
「珈琲はともかく、プレッツェルはそんなに苦くないだろ」
「甘くなかったもん」
「甘いと思い込んで食べたから、苦く感じただけだよ」
「えぇ~? そうかなぁ?」
怪訝な顔つきになったロンドは、ラグの上に置いてあった箱から、プレッツェルを1本取り出した。
カリッ、と音がして3分の1が口の中に消えていった。
「んー・・・やっぱり甘くない。──はい、あげる!」
そんな風に言って、ロンドは俺の口に食べかけのプレッツェルを押し込んだ。
「・・・お前なぁ」
咥えながら呆れたように呟くが、にこにこ笑っているロンドにはきっと何を言っても無駄だろう。
「フーちゃん、今度からもうちょっと甘いの食べててよ」
「何でだよ」
「だって、そうしたら齧っても苦くないし」
「俺の食べなきゃいいだろう?」
「えー。だって、フーちゃんが食べてると美味しそうに見えるんだもん」
「俺はロンやリチェたちみたいに、甘いもの好きなわけじゃないんだぞ?」
「んー・・・」
珍しく難しい顔をして何か考え込んでいたらしいロンドだったのだが。
「──そうだ!」
やがて、ポンッ、と手を打って満面の笑みを浮かべた。
「シェラに言って、フーちゃんも好きになるような甘くて美味しいお菓子作ってもらおうよ!」
「あのなぁ・・・」
シェラの作るおやつは、何だって美味しい。
甘いケーキだって作ってくれるけれど、それはとても美味しく感じられるのだ。
だから確かにロンドの言うことも一理あるのだが、しかし。
「お前、俺が食べてるお菓子を齧りたいから、シェラにおやつ作ってくれって言う気か?」
「ダメ?」
きょとん、とした顔で首を傾げるところを見ると、本気だったらしい。
「棒状の食べやすいやつ。──あ、お砂糖のかかったスティックパイがいいな!」
「・・・・・・」
想像しただけで甘い。
けれど、シェラの作ってくれるパイはとても美味しいから、まぁ、悪くはない。
「砂糖はちょっと・・・レモンパイならいいな」
「じゃあ、今度作ってもらおうね!」
にっこり機嫌良さそうに笑っている、一応兄にあたる男は、まだ残っているプレッツェルを手に取って自分の口に入れた。
「はい」
「・・・なに」
「はい、どーぞ!」
「・・・まだやるのかよ」
「うん。だってポッキーの日だもん」
「苦いから嫌なんだろう?」
「ぼくこっちのチョコついてない方咥えてるから、フーちゃんが齧ればいいよ」
「・・・・・・」
そこまでしてやりたいのか、と呆れもするけれど、結局は齧ってやるのだ。
ロンや妹たちが笑っていてくれるなら、それ以上のことはないのだから。
「ふふ、──ちゅっ」
残りわずかになったところで折ろうとしたのだけれど、ロンドがこちらに向かって頭を動かすから唇が触れた。
「・・・満足したか」
「した!」
それは何より、と苦笑を向ければ、ふわぁ、とあくびをしたロンドがポンポンとラグを叩いている。
「フーちゃん、お昼寝しよ」
「本読んでたんですけど?」
「ぼく、眠くなっちゃった」
「膝枕してやるから、寝てていいよ」
「それもいいけど、一緒にお昼寝しようよ。向こうでアーちゃんとりっちゃんもくっついてお昼寝してたし」
気持ち良さそうだったんだもの、と青い瞳がおねだりの色を浮かべる。
手にした本の続きはとても読みたい。
読みたいのだけれど──。
「・・・わかったよ」
結局は、このお願いにも頷いてしまうのだ。
本はいつでも読めるけれど、『今』お昼寝をしたいロンドの希望は、後からでは叶えられないのだから。
「風邪ひくといけないから、ブランケット持ってくる」
「持ってきてあるよ!」
そこ、と俺の背後を指さすロンド。
「一緒にお昼寝しようと思って来たら、フーちゃんお菓子食べてたから、そっちのが気になっちゃって」
「用意がいいというか、何というか」
「はい、どうぞ」
広げたブランケットの中に潜り込んだロンドは、ポンポンと自分の腕を叩いた。
「痺れたって言うなよ?」
「そしたら、フーちゃんにナデナデしてもらうから平気」
嬉しそうに笑ったロンドに俺も笑い返して、伸ばされた腕に頭を乗せる。
もう片方の手がトントン、と規則的に背中を叩いてきて、急激に眠気が襲ってきた。
「おやすみ、フーちゃん」
ちゅっ、と額に唇が落ちてくる。
「ん・・・」
そういえば、ロンは妹たちを寝かしつけるのが抜群に上手かったな、と。
ぼんやりとしてきた頭で思って、そのまま眠りに就いた。
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ロンちゃんは、にっこりにこにこ攻め様がいいと思います(コラ)
甘いものはそんなに好きではなかったが、長時間本を読んでいると、欲しくなることがある。
単純にブドウ糖が枯渇しているだけなのだから、目と身体を休めればいいと自分でも思うのに、読みたい欲求に抗うのはなかなか難しい。
チョコレートでコーティングされたプレッツェルを口に咥え、パラパラと本を捲る。
カリッ、と小気味良い音が、歯と頭蓋骨を通して頭に響く。
シェラに頼めばもっと美味しくて栄養価の高いおやつを喜んで作ってくれるだろうけれど、たまに市販の安い味が欲しくなったりする。
もう1本手に取ってカリッ、と歯を立てると、肩からひと房髪が零れ落ちた。
姉と同じ真っ黒で真っ直ぐな髪は、結ってもすぐに解けてしまう。
本を捲る右手はそのままに左手で背後を探れば、いつの間にか落ちてしまったらしい結い紐が手に触れた。
プレッツェルを口に咥えながら、後頭部で髪を結おうとしたのだが。
「──あ! フーちゃん、いーの食べてる!」
いつ目の前にやって来たのか、ふわりと黒い綿のようなものが鼻先を掠めたと思ったら、カリッ、と音がして咥えていたプレッツェルが半分なくなった。
「ん・・・これビターだ・・・」
ビターというほど苦くもないのだが、甘いものが好きな彼の口には合わなかったらしい。
「人の取ろうとするからだよ──ロン」
からかうように言えば、ちょっと拗ねたような顔をして、傍らに置いておいたコップの中身に口をつける片割れ。
あ、と止めようとしたときには遅かった。
「──うぇ! にがっ!」
そのコップももちろん俺のもので、中は砂糖もミルクも入っていないブラック珈琲。
吐き出しはしなかったものの、青い瞳には涙が浮かんでいる。
「フーちゃん、よくこんな苦いの飲んだり食べたり出来るね・・・」
眦の涙を指で拭ってやると、苦さを誤魔化すためなのか、ロンドは仔犬のように舌を出した。
「珈琲はともかく、プレッツェルはそんなに苦くないだろ」
「甘くなかったもん」
「甘いと思い込んで食べたから、苦く感じただけだよ」
「えぇ~? そうかなぁ?」
怪訝な顔つきになったロンドは、ラグの上に置いてあった箱から、プレッツェルを1本取り出した。
カリッ、と音がして3分の1が口の中に消えていった。
「んー・・・やっぱり甘くない。──はい、あげる!」
そんな風に言って、ロンドは俺の口に食べかけのプレッツェルを押し込んだ。
「・・・お前なぁ」
咥えながら呆れたように呟くが、にこにこ笑っているロンドにはきっと何を言っても無駄だろう。
「フーちゃん、今度からもうちょっと甘いの食べててよ」
「何でだよ」
「だって、そうしたら齧っても苦くないし」
「俺の食べなきゃいいだろう?」
「えー。だって、フーちゃんが食べてると美味しそうに見えるんだもん」
「俺はロンやリチェたちみたいに、甘いもの好きなわけじゃないんだぞ?」
「んー・・・」
珍しく難しい顔をして何か考え込んでいたらしいロンドだったのだが。
「──そうだ!」
やがて、ポンッ、と手を打って満面の笑みを浮かべた。
「シェラに言って、フーちゃんも好きになるような甘くて美味しいお菓子作ってもらおうよ!」
「あのなぁ・・・」
シェラの作るおやつは、何だって美味しい。
甘いケーキだって作ってくれるけれど、それはとても美味しく感じられるのだ。
だから確かにロンドの言うことも一理あるのだが、しかし。
「お前、俺が食べてるお菓子を齧りたいから、シェラにおやつ作ってくれって言う気か?」
「ダメ?」
きょとん、とした顔で首を傾げるところを見ると、本気だったらしい。
「棒状の食べやすいやつ。──あ、お砂糖のかかったスティックパイがいいな!」
「・・・・・・」
想像しただけで甘い。
けれど、シェラの作ってくれるパイはとても美味しいから、まぁ、悪くはない。
「砂糖はちょっと・・・レモンパイならいいな」
「じゃあ、今度作ってもらおうね!」
にっこり機嫌良さそうに笑っている、一応兄にあたる男は、まだ残っているプレッツェルを手に取って自分の口に入れた。
「はい」
「・・・なに」
「はい、どーぞ!」
「・・・まだやるのかよ」
「うん。だってポッキーの日だもん」
「苦いから嫌なんだろう?」
「ぼくこっちのチョコついてない方咥えてるから、フーちゃんが齧ればいいよ」
「・・・・・・」
そこまでしてやりたいのか、と呆れもするけれど、結局は齧ってやるのだ。
ロンや妹たちが笑っていてくれるなら、それ以上のことはないのだから。
「ふふ、──ちゅっ」
残りわずかになったところで折ろうとしたのだけれど、ロンドがこちらに向かって頭を動かすから唇が触れた。
「・・・満足したか」
「した!」
それは何より、と苦笑を向ければ、ふわぁ、とあくびをしたロンドがポンポンとラグを叩いている。
「フーちゃん、お昼寝しよ」
「本読んでたんですけど?」
「ぼく、眠くなっちゃった」
「膝枕してやるから、寝てていいよ」
「それもいいけど、一緒にお昼寝しようよ。向こうでアーちゃんとりっちゃんもくっついてお昼寝してたし」
気持ち良さそうだったんだもの、と青い瞳がおねだりの色を浮かべる。
手にした本の続きはとても読みたい。
読みたいのだけれど──。
「・・・わかったよ」
結局は、このお願いにも頷いてしまうのだ。
本はいつでも読めるけれど、『今』お昼寝をしたいロンドの希望は、後からでは叶えられないのだから。
「風邪ひくといけないから、ブランケット持ってくる」
「持ってきてあるよ!」
そこ、と俺の背後を指さすロンド。
「一緒にお昼寝しようと思って来たら、フーちゃんお菓子食べてたから、そっちのが気になっちゃって」
「用意がいいというか、何というか」
「はい、どうぞ」
広げたブランケットの中に潜り込んだロンドは、ポンポンと自分の腕を叩いた。
「痺れたって言うなよ?」
「そしたら、フーちゃんにナデナデしてもらうから平気」
嬉しそうに笑ったロンドに俺も笑い返して、伸ばされた腕に頭を乗せる。
もう片方の手がトントン、と規則的に背中を叩いてきて、急激に眠気が襲ってきた。
「おやすみ、フーちゃん」
ちゅっ、と額に唇が落ちてくる。
「ん・・・」
そういえば、ロンは妹たちを寝かしつけるのが抜群に上手かったな、と。
ぼんやりとしてきた頭で思って、そのまま眠りに就いた。
**********
ロンちゃんは、にっこりにこにこ攻め様がいいと思います(コラ)
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