小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
マツコ・デラックスの妊婦姿を見てたら書きたくなった。マツコ、好きだ(コラ)
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「お前は、私たちが何をするにも、反対ってしないな」
ある日、シェラは久方ぶりにヴァンツァーとふたりきりで過ごす休日に、ふと思いついて呟いた。
対する男は、手にしていた書物から顔を上げると軽く首を傾げた。
「反対? たとえば?」
「え? うーん・・・たとえば・・・カノンが彼氏を作ったり?」
「お前という男を伴侶に選んだ俺に、どの面下げて反対しろと?」
「いや、そりゃ私だって反対してるわけじゃないし、むしろアー君大好きだし、カノンが幸せならそれでいいし、全然反対する理由なんてないけど」
しどろもどろになったシェラは、ちょっと膨れたような顔つきになった。
「・・・だから、その・・・結構びっくりするようなことでも普通に受け入れてるというか・・・私にはもちろん、子どもたちにもあれしろこれしろ言わないし、好きなようにさせてるし、何訊いても『いいんじゃないか?』って答えるし・・・」
なんとなく、シェラの言いたいことが分かったような気がした。
「──興味がないから」
ぴくっ、とシェラのちいさく肩が震える。
他の人間なら見逃したであろう本当にちいさな反応でも、ヴァンツァーの目を誤魔化すことなど出来ない。
「だと、思っているのか」
ほとんど断定する物言いに、シェラは何と返していいのか分からなくなった。
きっと、とても失礼なことだ。
この男がそんな考え方をする男でないことはよく知っているというのに、昔からどうしてもその不安が拭えない。
それは、取りも直さずシェラ自身の自分への執着の薄さが原因だった。
「まぁ、突き放しているといえば、そうなのかな」
「っ、ちが」
「間違ってはいない」
「・・・・・・悪かった」
「なぜ謝る? お前の考えは、そう的外れでもない」
「・・・そんなことない。お前は・・・そんな男じゃない」
自分の心に確かめるように、シェラはそう口にした。
ヴァンツァーは、薄く笑った。
「案外、そんな男だよ」
「違う」
「少なくとも、お前の目にはそう映ったんだろう? だったら、それが事実だ」
真実ではないかも知れない。
けれど、一面の事実ではある。
シェラは唇を噛み締めた。
自嘲する癖があるのは、自分もこの男も同じ。
それなのに、どうして自分はこうも不用意な発言をしてしまうのか。
「・・・そうじゃ、ないんだ」
「では、何だ?」
「そうじゃなくて・・・男だったら、ある程度他人を自分の思い通りに動かしたいと思うだろう? 私だって、そう思うことがないわけじゃない。経営者としてのお前の仕事を見ていても、そう・・・思う」
「だから、お前や子どもたちもそうだと?」
「束縛とか、支配とか、そういうんじゃなくて・・・それでも、ある程度自分の手のひらの上で動かすのが、『父親』なのかと・・・」
よく分からないけど、と付け加えるシェラを、ヴァンツァーはソファの背に肘をつき、頬杖をついてじっと見つめている。
視線に居心地が悪くなったシェラは、きょろきょろと視線を彷徨わせた。
この男の、こういうところが嫌いなのだ。
じっと見てくるだけで、何も言おうとしない。
『言いたいことはそれだけか?』という態度で、焦れたこちらが慌ててボロを出すのを待っているようで気に入らない。
「な、何とか言え!」
それでも、やはり耐えられなくなるのは自分なのだ。
それを、シェラは嫌というほど分かっている。
「お前の言う通りだと思うよ」
「え・・・?」
「好きに生きればいいと思う──という言い方をすると、またお前には誤解されそうだが」
くすくすと、何がおかしいのか低く笑っている男を、シェラは軽く睨んでやった。
「人生は、そう長くない。俺の一度目の人生は二十数年はあったわけだが、そのうちどれだけを『生きて』いたのかといえば、きっと数カ月にも満たないだろう」
「・・・・・・」
「呼吸をして、食べて、寝て、動いていることを果たして『生きている』と言うのか。甚だ疑問だな」
「・・・だから、何だ」
「思うように生きればいいんじゃないか? まぁ、あまり人様に迷惑をかけるのは感心しないが」
「お前が言うか」
「だから、何かあれば全部引き受けるよ」
「──・・・お前・・・」
「俺に出来るのは、レールを敷いてやることじゃない。そんな資格もないしな。──ただ、お前や子どもたちの進む先に切り立った崖が見えたら、その方向を変えてやる。それくらいなら出来る。その上で、もしお前たちが壁にぶつかったり、動けなくなるときがきたら、全部引き受ける」
「・・・・・・」
「まぁ、お前の場合暴走列車だから、なかなかそれも難しいがな」
からかうように、おかしそうに笑う男にシェラは頬を膨らませた。
そうして、「まったく」と言いながら、紅茶のカップに触れさせる口許は、僅かに綻んでいた。
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ヴァンツァー九歳企画的ななにか。いや、もう誤字だろうと何でもいい。ぼくは間違ってない。
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