小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
明日は『愛妻の日』なので。便乗。
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「──だいたいお前は」
会話の始まりは、確かそんな感じだった。
「言動が突拍子もないんだ。さっきまで機嫌良さそうに笑っていたかと思えば突然泣くし、不安そうな顔をしたかと思えば今度は怒るし」
怒っている口調ではない。
どちらかといえば呆れているそれだ。
それでも、この男がこんなによく喋ることは珍しいから、シェラは無言で耳を傾けていた。
「勘違いするな。別にそれが悪いと言っているわけじゃない。無理に感情を押し込めるよりずっといい。──だが」
わざとらしく言葉を切り、ヴァンツァーはじっとシェラの瞳を見つめた。
シェラも同様に見つめ返すと、しばらく無言でいた男は大袈裟なため息を吐いた。
「まったく・・・」
そうして、また喋り出した。
「お前は天然なのか計算なのか、本当に分からないな」
「当然だ。私は『小悪魔』だからな」
ごくごく真面目な顔で、シェラは頷いた。
ついさっきまで、その『小悪魔』が原因で怒ったり笑ったりを忙しく繰り返していた人間の台詞とは思えない。
思えないが、それが『シェラ』という生き物なのだ。
「あぁ、そうだな。そうだ。確かにお前は『小悪魔』だ。だから言っただろうが。別にそのままでいいんじゃないか、って。それなのにお前はいきなり怒り出して、勝手に腹を立てて今度は『アゲ嬢』? 本当に忙しい男だな」
「正直、お前に言われたくはないがな」
これまた生真面目な顔で返したシェラに、ヴァンツァーは若干眉を寄せた──しかしそれは怒っているというよりも拗ねているという表現がしっくりくる表情だったが。
「忙しい? 俺が? 働きすぎると誰かさんが文句を言うから、仕事を半分に減らしているのに?」
「随分デキた人だな、その『誰かさん』は。よくよくお礼を言っておいた方がいいぞ」
「そうだな。今度会ったら言っておくよ」
「うん。恩は2倍3倍にして返さないといけないからな」
こくり、と頷くシェラに、ヴァンツァーはこれまた特大のため息を吐いた。
「それにお前は──」
「ヴァンツァー」
途中で言葉を遮られたヴァンツァーは、「何だ」とちょっと偉そうに──彼にしては非常に頑張った結果だ──顎を逸らし、間近にある菫の瞳を斜視した。
シェラは彼の美貌に両手を沿え、ぐいっ、とばかりに真っ直ぐ自分に向かせた。
「──寒い」
きゅっと顔を顰めるのも当然のこと。
延々喋っている間に、膝の上に乗せたシェラの服のボタンをプチプチ外していたヴァンツァーのせいで、シェラは現在半裸の状態にあった。
空調の効いた部屋とはいえ、真冬に服を肌蹴られれば、それなりの寒さは感じるに決まっている。
ヴァンツァーはふいっ、と顔を横に向けた。
「お前に冷たくされた上に、子どもたちにまで説教された俺の心の方が寒い」
「ヴァンツァー」
もう一度、わざとゆっくり名前を呼ぶと、ヴァンツァーは少し躊躇ったあとに軽く睨むようにしてシェラに視線を移した。
シェラは険しいまでの表情を浮かべていたが、じっと藍色の瞳を覗きこみ、海よりも深い夜空の色を堪能すると、にやり、と口端を吊り上げた。
「──さっさと私をあたためろ」
唇が触れそうで触れない微妙な距離での誘惑のささやきに、ヴァンツァーが返した言葉はたったひと言。
「────全力で」
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いいのかお前はそれで・・・
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