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小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
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もう暑くて暑くて熱くて忙しくてしんどすぎて、半年くらい引きこもりたい。




**********

「パパ、だっこ!」

ピン、と腕を伸ばしてねだってくる娘に軽く身を屈めて手を出せば、当の本人が少し嫌そうな顔をした。

「どうした?」
「・・・ながそで、あつい」

この日のヴァンツァーは、麻のジャケットを着ていた。
風通しの良い素材ではあるが、遠赤外線グリルのような炎天下では、本人の感覚はともかく確かに見た目は暑いかも知れない。
抱っこをねだったリチェルカーレは袖なしのひまわり柄ワンピースで、頭には麦わら帽子、足元は白いサンダル。
避暑地のお嬢様、といった出で立ちだ。
苦笑したヴァンツァーがジャケットを脱ぐと、周囲が明確にざわついた。
自惚れではなく、自分のせいだろうな、とヴァンツァーは思った。
ベージュの麻のジャケットの下は、黒い半袖のシャツを着ていた。
伸縮性の高い生地がピタリとフィットした身体は、贅肉はおろか筋肉すら無駄にはついていない彫刻のような肉体だ。
細身ではあるが、肩は広く、胸は厚く、引き締まった腰も長い手足も羨望の対象でしかなく、その上に乗っているのはかつて娼婦ですら裸足で逃げ出すと言われた妖艶な美貌。
実際の年齢よりも十歳は若く見え、道を歩けばほとんどの女性が目を奪われる。
ジャケットを着ていてもその姿の良さは際立っていたが、シャツ一枚になってそれがより強調された。

「くろいシャツもあついよ」
「これは勘弁してくれ。脱ぐわけにいかないだろう?」

──いや、脱げ!

足を止めている女性の大半、そして男性の半数ほどがそんな風に思っただろうか。
脱いだジャケットを腕にかけて娘に手を伸ばす男は、あまりにも見目が良すぎた。

「しかたない。だきょうする」
「難しい言葉を知っているな」

抱き上げた娘を左腕一本に乗せて微笑むと、ざわめきというよりはどよめきに近い声が上がった。

──幼女、そこ退け!

至近距離で、あの美貌に微笑みかけられてみたい。
きっとほとんどの女性がそう思い、三分の一くらいの男性だってそう感じてぽーっとなっているに違いない。

「──フーガ」

三女を抱っこしたままヴァンツァーが声をかけると、ファロット家の三男坊はぐっと上を見上げ、少し首を傾げた。
黒髪がさらりと肩に触れる。
女の子にも見える顔立ちだが、半袖の開襟シャツとセンタープレスのパンツ姿からするに、男の子だ。
炎天下だというのに、彼の周囲だけひんやりとした空気で満たされているように涼しげだ。

「手を」

賢い息子が迷子になる心配など微塵もしていないが、休日の繁華街は人が多い。
安全と言われる連邦大学惑星でも、愛らしい子どもを拐かそうとする人間がいないとは言えない。
ロンドとアリアはシェラと一緒に子ども向けの映画を観に行っている。
リチェルカーレは映画よりも新しいロッドが欲しいと父に訴え、それにフーガもついてきた。
どちらかと言えばフーガはロッドよりも映画に興味があると思っていたヴァンツァーだったが、もちろん否やはない。
「二刀流って難しい?」と訊いてきた息子に「教えてあげるよ」と返したらキラッキラした表情が返ってきたので、ヴァンツァー自身もこの買い物には満足だった。

「・・・大丈夫」

ちいさな声で否定の言葉が返り、ヴァンツァーは目を瞬かせた。

「嫌か?」

聞かれてぎょっとしたフーガは、ふるふるふるっ! と水濡れの犬のように思い切り頭を振った。

「両手、塞がっちゃうから」

シェラが一緒にいるときは、片手はシェラと繋いでもう片方に荷物を持つこともあれば、両手に子どもたちを抱えることもある──それは、何かあってもシェラが何とかしてくれると信じているからだ。
四つ子が一緒に出掛けるとき、アリアやリチェルカーレはシェラや兄たちと手を繋ぐことが多い。
やさしい父は決して嫌がったりも怒ったりもしないけれど、それとなくそう促されている感じがするから、きっと両手が塞がることをあまり快く思っていないのだとフーガは考えていた。

「──なぁ、リチェルカーレ」

俯くフーガを横に、ヴァンツァーは娘に声を掛けた。

「もし悪いやつが襲ってきたら、俺とフーガを守ってくれるか?」

きょと、と色違いの瞳を瞬かせた三女は、にぃ、と笑みを浮かべた。

「リチェにおまかせ~」

ぽんぽん、と叩いたポシェットには、買ってもらったばかりのアクションロッド。
大人の二、三人くらい、簡単にのしてしまえる程度には強い娘だ。

「このこ、こてつっておなまえにする!」
「ロッドか?」
「まさむねでもか!」
「物騒だからもう少し大人しいのにしなさい」
「んーむー・・・バルムンク?」
「光の剣とかお星さまのロッドとか」
「ゲイボルグ!」

何で血溜まりが出来そうな武器ばかり選ぶのか。
愛らしい顔をして中身が狂犬みたいなところはシェラによく似ている、とヴァンツァーは半分諦め顔になった。
そうして、癒やしを求めるようにソワソワしている息子に手を伸ばした。
躊躇いがちに指先に手を添えてくるのを、逆にきゅっと握ってやると菫色の瞳が真ん丸になった。

「フーちゃんはけんよりゆみのがにあう!」
「・・・弓? フェイルノートとか?」
「お前も、もう少し明るいものを選びなさい」
「パパ、ぶきはだいたいぶっそう」

まぁ、そうだ。

「フーガ、右側は任せたぞ」
「──え?」

信じられない言葉を聞いたように驚いた顔をしている息子に微笑みかけてやると、ほんの少し、ほんのちょっとずつ頬が緩んでいって、やがて大輪の牡丹のように艷やかな笑みが浮かんだ。
ザワッ、とした周囲の気配に、リチェルカーレは反射的に腰元を探った。

「リチェルカーレ」
「ふらちなけはいをけんち」
「実害がないうちはいけません」
「せんてひっしょう」
「過剰防衛だ」
「せいぎはわれにあり」
「フーガが胸を痛める」
「むむ・・・」

それはいけない、とリチェルカーレはポシェットから手を離した。

「・・・ロンちゃん、こういうのじょうず」
「あれは・・・まぁ、うん・・・」

珍しく言葉を濁す父の様子に、フーガは首を傾げた。
手を繋いだまま指の背でやわらかな頬を撫でてやると、嬉しそうに目を細めるのが可愛らしい。

「パパ、やっぱりぬぐといいとおもう」
「なぜそうなる」
「そしたらめだつ」
「捕まるよ」
「たぶんまわりのひとがおまわりさんとめるとおもう」

そうかも知れない、と一瞬考えてしまい、ヴァンツァーはため息を零した。
もちろん脱がない。
美貌の男は、子どもたちににっこりと笑みを向けた。

「──さぁ、シェラたちを迎えに行こうか」

無駄に色気を振りまくな! とヴァンツァーがシェラに怒られるまで、あと少し。


**********

深い理由があるんですよ、シェラさん。
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