小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
曇り空でしたが、皆さん金環日食は見られましたか? 橘はダメな子なので、雲があるから、と直視してました。良い子の皆さんはやっちゃいけません。さすがに雲が厚すぎて、よく分からなかったですけどね・・・。
朝の電車もすごく混んでて、「なんでだろう?」と思ったら、皆さんこのために早く出たんでしょうねぇ、きっと。こういうどきどきわくわくは、誰にとっても嬉しいものです。
今年は金星食もあるそうですよ。こちらは世界中でも100年に1度程度だそうなので、金環日食より珍しいみたいです。
せっかくなので、すっごいベタベタなやつ書きましょうかね。
朝の電車もすごく混んでて、「なんでだろう?」と思ったら、皆さんこのために早く出たんでしょうねぇ、きっと。こういうどきどきわくわくは、誰にとっても嬉しいものです。
今年は金星食もあるそうですよ。こちらは世界中でも100年に1度程度だそうなので、金環日食より珍しいみたいです。
せっかくなので、すっごいベタベタなやつ書きましょうかね。
**********
「もうすぐ、もうすぐ♪」
家のベランダから空を見上げるシェラ。
期待に菫色の瞳を輝かせ、口許をふにふにと綻ばせている。
菫色の瞳はまっすぐに頭上の太陽を見つめている。
この日は、この場所で『金環日食』が見られる数百年に1度の日なのだ。
しかし、珍しいとはいえ、金環日食自体が起こるのが数百年単位なわけではない。
連邦大学惑星でも、各地を転々とすれば数年から数十年に1度という周期で見ることが出来るのだが、シェラが現在住んでいるイリ・ヤウラ大陸の西岸地域で観測出来るのはおよそ100年ぶりというわけだ。
特別天体観測に興味があるわけでもないシェラだったし、かつてシェラの住んでいた世界では日食といえば不吉なものだったが、価値観というものは周囲の環境によっていかようにも変わっていく。
現在一緒に暮らしている男に比べたら格段にリアリストな自覚のあるシェラだったが、せっかくの珍しい現象なのだから楽しみたいではないか。
「──コラ」
と、足音も気配もしなかったのに、嗜める声とともに大きな手で目元を覆われた。
「直視するな」
怒っているわけではないのだろう、その低く、穏やかな声音はどこか笑みを含んでいる。
仕方ない、と苦笑しているのかも知れない。
「離せ。見えないじゃないか」
むぅ、と唇を尖らせるシェラ。
男の手に覆われた彼の目は、太陽の残像をチカチカと映していた。
強い紫外線と光は目を焼く。
本来、曇天であっても太陽を直視してはいけない。
「お前の瞳が俺を映さなくなるのは困る」
しれっとそんなことを言い出した男に、シェラは余計眉間に皺を寄せた。
「・・・お前、どこでそういうベッタベタな台詞を仕入れて来るんだ?」
「ただの本心だよ」
「・・・・・・」
はぁぁぁぁ、と深くため息を吐いたシェラは、ヴァンツァーの手を引き剥がしながら背後を振り返った。
「市販の日食グラスはかっこ悪いから嫌だ」
「言うと思った」
ほら、とヴァンツァーがシェラに差し出したのは、サングラス型の日食グラス。
テンプル部分にクリスタルのあしらわれた、レンズの大きめなサングラスだ。
受け取ったシェラは、「ふぅん」とさしたる興味もなさそうに呟いた。
「ま、使ってやってもいい」
「それはどうも」
偉そうな物言いをしながらも、サングラスのデザインが気に入ったらしいシェラは、いそいそとそれを装着した。
日食が始まるまで、あと5分。
「お前は着けないのか?」
「着けてるよ」
「え?」
「──コンタクト」
「あーーーっ! お前ばっかりそういう手軽なのずるいっ!!」
「お前は、そういう『着けてます感』がある方が好きだろう?」
「・・・・・・」
まぁ、それはそうだけど、でもでも、と。
口の中でもごもご言ってるシェラを背後から抱え込むと、くいっと顎を持ち上げて天空を見上げさせた。
「他に気を取られていると、見逃すぞ」
「ふんっ・・・お前も結構楽しみなんじゃないか」
「それは、まぁ。お前と見るのは初めてだからな」
おや、と気づいたシェラはとりあえず訊いてみた。
「他の人間とは、見たことあるのか?」
「気になるか?」
「別に」
「ふぅん」
それっきり沈黙が訪れてしまったので、シェラは「さっさと言え!」と言おうとして、顔の横からぬっと手が出てきたのを言葉を呑み込んだ。
「ほら──始まる」
長い指の示す方へと目を向け、そこからは長いような、短いような時間を、無心で過ごした。
絶対的な空の王者が徐々にその輪郭を蝕まれ、これが皆既日食であれば完全にその姿を隠されてしまう。
太陽の化身のような輝く美貌の主を思い出して、シェラは知らず身震いした。
日食は数分で終わるし、太陽はまた姿を現す。
わかっていても、この世に『絶対』は存在しない。
「──息をしろ」
静かな声が耳に届くと同時に、頬を軽く叩かれる。
ぺちぺち、と。
ただ刺激を与えるためだけの行為。
言われて初めて、呼吸を止めていたことに気付かされた。
「ほら。重なった」
焦点を合わせて見上げた空には、まさに金色の輪と呼ぶべきものが生まれていた。
太陽は隠されても、そのすべてを覆われたわけではない。
細く、その輪郭を残したその様子はまるで。
「・・・──後光だな・・・」
吐息のような言葉に、ヴァンツァーは「そうだな」と返した。
やがて太陽が完全に元の姿を取り戻すと、シェラはサングラスを外して「ほぅ」と息を吐いた。
「綺麗だった」
「そうか」
相槌を打つ男に、こくり、と頷いて見せる。
「じゃあ、次はこれだ」
言って渡されたのは、白い小箱。
嫌というほど見覚えのある形状の箱を手にしたシェラは、首を思い切り逸らすと軽くヴァンツァーを睨んだ。
「まぁ、記念だから」
「・・・・・・」
記念だろうとなかろうと関係ないくせに、と思いはしても、中身が気になるのも確か。
開けると、予想通りそこには指輪があった。
「何だ。金じゃないのか」
「一応、ホワイトゴールドだ」
「ふぅん。珍しい形状だな」
指の背に当たる部分がV字型だ、と指輪を取り出し、箱だけ返したシェラは、今左手にしている指輪を外そうとして、はた、と気づいた。
「これ・・・」
「あぁ」
「これ『も』、つけろってことか?」
「どちらでも。単体でつけてもおかしいということはない」
そういうデザインにした、と言った男は、シェラの左手からするり、とアンティークリングを抜き取ると、今渡した指輪をはめ、その上からアンティークリングをつけさせた。
V字型になっていたのは、重ねてつけてもアンティークリングについているムーンストーンの邪魔をしないようにするためだ。
重ねづけをする指輪にはよくあるデザインだが、違う人間が作った意匠も材質も、金属のカラーも異なる指輪だというのに、どちらかが浮いてしまうということがない。
「ふぅん」
「気に入ったみたいだな」
「つけてやってもいい」
「光栄だな」
二重になった左手のリングを見て口許をたわめるシェラに、ヴァンツァーも似たような表情になったのである。
**********
ヴァンツァーは、リアリストのようでいてロマンチストかな。逆にシェラの方がリアリスト。
「もうすぐ、もうすぐ♪」
家のベランダから空を見上げるシェラ。
期待に菫色の瞳を輝かせ、口許をふにふにと綻ばせている。
菫色の瞳はまっすぐに頭上の太陽を見つめている。
この日は、この場所で『金環日食』が見られる数百年に1度の日なのだ。
しかし、珍しいとはいえ、金環日食自体が起こるのが数百年単位なわけではない。
連邦大学惑星でも、各地を転々とすれば数年から数十年に1度という周期で見ることが出来るのだが、シェラが現在住んでいるイリ・ヤウラ大陸の西岸地域で観測出来るのはおよそ100年ぶりというわけだ。
特別天体観測に興味があるわけでもないシェラだったし、かつてシェラの住んでいた世界では日食といえば不吉なものだったが、価値観というものは周囲の環境によっていかようにも変わっていく。
現在一緒に暮らしている男に比べたら格段にリアリストな自覚のあるシェラだったが、せっかくの珍しい現象なのだから楽しみたいではないか。
「──コラ」
と、足音も気配もしなかったのに、嗜める声とともに大きな手で目元を覆われた。
「直視するな」
怒っているわけではないのだろう、その低く、穏やかな声音はどこか笑みを含んでいる。
仕方ない、と苦笑しているのかも知れない。
「離せ。見えないじゃないか」
むぅ、と唇を尖らせるシェラ。
男の手に覆われた彼の目は、太陽の残像をチカチカと映していた。
強い紫外線と光は目を焼く。
本来、曇天であっても太陽を直視してはいけない。
「お前の瞳が俺を映さなくなるのは困る」
しれっとそんなことを言い出した男に、シェラは余計眉間に皺を寄せた。
「・・・お前、どこでそういうベッタベタな台詞を仕入れて来るんだ?」
「ただの本心だよ」
「・・・・・・」
はぁぁぁぁ、と深くため息を吐いたシェラは、ヴァンツァーの手を引き剥がしながら背後を振り返った。
「市販の日食グラスはかっこ悪いから嫌だ」
「言うと思った」
ほら、とヴァンツァーがシェラに差し出したのは、サングラス型の日食グラス。
テンプル部分にクリスタルのあしらわれた、レンズの大きめなサングラスだ。
受け取ったシェラは、「ふぅん」とさしたる興味もなさそうに呟いた。
「ま、使ってやってもいい」
「それはどうも」
偉そうな物言いをしながらも、サングラスのデザインが気に入ったらしいシェラは、いそいそとそれを装着した。
日食が始まるまで、あと5分。
「お前は着けないのか?」
「着けてるよ」
「え?」
「──コンタクト」
「あーーーっ! お前ばっかりそういう手軽なのずるいっ!!」
「お前は、そういう『着けてます感』がある方が好きだろう?」
「・・・・・・」
まぁ、それはそうだけど、でもでも、と。
口の中でもごもご言ってるシェラを背後から抱え込むと、くいっと顎を持ち上げて天空を見上げさせた。
「他に気を取られていると、見逃すぞ」
「ふんっ・・・お前も結構楽しみなんじゃないか」
「それは、まぁ。お前と見るのは初めてだからな」
おや、と気づいたシェラはとりあえず訊いてみた。
「他の人間とは、見たことあるのか?」
「気になるか?」
「別に」
「ふぅん」
それっきり沈黙が訪れてしまったので、シェラは「さっさと言え!」と言おうとして、顔の横からぬっと手が出てきたのを言葉を呑み込んだ。
「ほら──始まる」
長い指の示す方へと目を向け、そこからは長いような、短いような時間を、無心で過ごした。
絶対的な空の王者が徐々にその輪郭を蝕まれ、これが皆既日食であれば完全にその姿を隠されてしまう。
太陽の化身のような輝く美貌の主を思い出して、シェラは知らず身震いした。
日食は数分で終わるし、太陽はまた姿を現す。
わかっていても、この世に『絶対』は存在しない。
「──息をしろ」
静かな声が耳に届くと同時に、頬を軽く叩かれる。
ぺちぺち、と。
ただ刺激を与えるためだけの行為。
言われて初めて、呼吸を止めていたことに気付かされた。
「ほら。重なった」
焦点を合わせて見上げた空には、まさに金色の輪と呼ぶべきものが生まれていた。
太陽は隠されても、そのすべてを覆われたわけではない。
細く、その輪郭を残したその様子はまるで。
「・・・──後光だな・・・」
吐息のような言葉に、ヴァンツァーは「そうだな」と返した。
やがて太陽が完全に元の姿を取り戻すと、シェラはサングラスを外して「ほぅ」と息を吐いた。
「綺麗だった」
「そうか」
相槌を打つ男に、こくり、と頷いて見せる。
「じゃあ、次はこれだ」
言って渡されたのは、白い小箱。
嫌というほど見覚えのある形状の箱を手にしたシェラは、首を思い切り逸らすと軽くヴァンツァーを睨んだ。
「まぁ、記念だから」
「・・・・・・」
記念だろうとなかろうと関係ないくせに、と思いはしても、中身が気になるのも確か。
開けると、予想通りそこには指輪があった。
「何だ。金じゃないのか」
「一応、ホワイトゴールドだ」
「ふぅん。珍しい形状だな」
指の背に当たる部分がV字型だ、と指輪を取り出し、箱だけ返したシェラは、今左手にしている指輪を外そうとして、はた、と気づいた。
「これ・・・」
「あぁ」
「これ『も』、つけろってことか?」
「どちらでも。単体でつけてもおかしいということはない」
そういうデザインにした、と言った男は、シェラの左手からするり、とアンティークリングを抜き取ると、今渡した指輪をはめ、その上からアンティークリングをつけさせた。
V字型になっていたのは、重ねてつけてもアンティークリングについているムーンストーンの邪魔をしないようにするためだ。
重ねづけをする指輪にはよくあるデザインだが、違う人間が作った意匠も材質も、金属のカラーも異なる指輪だというのに、どちらかが浮いてしまうということがない。
「ふぅん」
「気に入ったみたいだな」
「つけてやってもいい」
「光栄だな」
二重になった左手のリングを見て口許をたわめるシェラに、ヴァンツァーも似たような表情になったのである。
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ヴァンツァーは、リアリストのようでいてロマンチストかな。逆にシェラの方がリアリスト。
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