小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
魔王naヴァンツァーがヘタレているので、少しでも昔のヴァンツァーを取り戻させようと思って書いた話。
しかし、いつものうちのサイトの話に慣れている方は、読まない方がいいかも知れませんねぇ。まったく糖度がありません(笑)むしろ、省けるだけ省きました(爆)
しかし、いつものうちのサイトの話に慣れている方は、読まない方がいいかも知れませんねぇ。まったく糖度がありません(笑)むしろ、省けるだけ省きました(爆)
**********
きっかけは、大したことじゃなかった・・・はず、だった。
「・・・ちょ、やだ・・・!」
洗い物をしていたら、背後から抱きすくめられた。
そんなに腕の力は強くなくて、そっと、軽く回された程度のもの。
だから、シェラはいつものことだ、と好きなようにさせておいた。
さすがに刃物や火を使っていたりすればやめさせるが、別に放っておいたところで大した実害はない。
──と、思っていたのだが。
鼻先で髪を掻き分け、項に唇が押し付けられたときに「ちょっと待て」と思った。
だからそれをそのまま口にしたら、「待たない」と呟いた男が同じ場所に舌を這わせた。
普通の人間の反応として、シェラは身を捩って拒んだ。
力の入っていない腕から抜け出し、正面から睨みつけた。
「私が何をしているのか、見えていないのか」
「そんなもの、あとでいい」
「お前が待ってろ」
傲然と告げると、ヴァンツァーは一瞬顔を顰めた。
そうして、「どうしても嫌か」と訊いてきた。
この男が、常に、あえて空気を読もうとしていないのは知っているが、家事を中断されるのはシェラにとって我慢のならないことだった。
だから、「嫌だ」と答えた。
すると、ヴァンツァーは「分かった」と言ってリビングへ戻っていった。
「何なんだ。まったく」
嘆息すると、シェラは気を取り直して食器を洗い、シンクまでピカピカに磨き上げた。
──それから、おかしくなった。
家にいるときも、職場でも、会話はする。
無視されるわけでもないし、表情や言葉に険が含まれているわけでもない。
いつもと変わらない。
けれど。
ヴァンツァーは、決してシェラに触れようとはしなかった。
キスはおろか、抱きしめることも、髪や頬に触れることも──ましてやセックスなど。
シェラは、行者として、娘として生きてきたこともあるが、割と淡白な男だった。
すぐ傍に外見だけを言えばあれだけ魅力的な男がいるのだからソノ気にならない方がおかしい、とよく周囲に言われるのだが、性欲は強い方ではない──あの男が無駄に誘ってくるからいけないんだ、とは本人の言だが。
しかし、実はそれに輪をかけて淡白なのがヴァンツァーだった。
彼にとって他者との交わりなど、あってもなくても同じようなものだった。
物事を徹底的に追求しないと気が済まないように見えて、その本質はレティシア以上に面倒くさがりの彼は、退屈を嫌っているくせに自ら動こうとはしない。
他者が自分を動かすのを待っているだけだ。
生き返ってだいぶ改善されたとはいえ、その本質が変わるわけではない。
おかしい、と思い始めたのは、3日目の夜だったろうか。
職場でも家でも無駄に触ってくることをしなくなったため反省したのか、と思っていた。
食後のお茶を飲んでいたとき、なんとなく──本当になんとなく、キスをしたくなって隣に座る男の袖を引こうとした。
しかし、ヴァンツァーが立ち上がったために掴もうとした袖がするりと指先をすり抜けていった。
飲み終わったらしいカップを下げるために立ち上がった男は、そのままキッチンへと向かった。
シェラの中に、ほんのちいさな違和感が芽生えた。
その足で自室へと向かおうとするヴァンツァーに、これもまたなんとなく、「寝ないのか?」と訊ねた。
「急ぎの仕事がある。先に寝ていろ」
家でまで仕事をしようとする男を快く思ってはいないシェラだったが、何度も言って聞かせたことだから、それでも必要ということは余程差し迫った案件なのだろう。
この男の邪魔だけはしたくない。
そう思っているシェラは、何か腑に落ちないものを感じてはいたが頷いた。
──それからは、毎日そうだった。
1週間が経つ頃、キスのひとつもしないで仕事ばかりしている男への疑念は、確信に変わった。
日中の職場、ヴァンツァーの執務室へ入ったシェラは、デスクの上に珈琲カップを置きながら言った。
「そろそろ休憩にしろ」
「これが終わったら」
シェラは思い切り顔を顰めた。
「2時間前にもそう言っていた」
「急ぎなんだ」
「5分の休憩が取れないほど、差し迫ったことか」
ふん、と鼻を鳴らして山と詰まれた書類に目を移す。
大層な分量だが、この男ならばこれを3時間と掛からずに片付けられることを知っている。
クリップで留められたひと束に指を伸ばす。
「──触るな」
言葉に含まれる拒絶の強さに、細い肩が揺れた。
端末から顔を上げず、ヴァンツァーは冷気すら感じられる声で告げた。
「急ぎだと言った。──邪魔をするな」
それはもう、命令だった。
「・・・何なんだお前。最近ちょっと変だぞ」
震えそうになる声を叱咤し、シェラはドレスシャツの前をくしゃり、と握った。
どんなときでも、ヴァンツァーはシェラを『邪魔だ』と言ったことはない。
無理やり仕事を中断させても、顔を顰めることはあったが最後には仕方なさそうに受け入れた。
それは、本当に差し迫った仕事であればシェラが手を出すことはない、と知っているからだ。
シェラも、ヴァンツァーの仕事の仕方と表情でその案件の重要性が分かる程度には、長い時間一緒に仕事をしてきた自負がある。
今のこの男は、口で言うほど緊急の仕事を抱えているわけではない。
だから、休め、と言ったのに。
ゆっくりと顔を上げた男は、見惚れてしまいそうになる微笑を浮かべて言った。
「──いい加減、面倒になった」
執務室から出てきたシェラを迎えたアトリエの面々は、真っ青な顔をしている天使を見て仰天した。
「ちょ・・・どうしたのよ!」
大量の布を抱えながらピンヒールできびきびと歩いていたエマが、思わずといった感じでシェラに駆け寄った。
なんでもない、と苦笑するシェラに、今度は傍でパターンを起こしていたレイチェルが笑った。
「まぁたヴァンツァーにセクハラされたの~?」
彼女の言葉に、アトリエの職員たちはくすくすと笑った。
「言ってやんなさいよ。あんまり夜が激しいと仕事に響くんです、って」
「でもさ、エマ。仲がいいのは良いことだよ」
「レオン。私の可愛いシェラが野獣の餌食になってるのよ?」
「ははっ。『美女と野獣』か。真実の愛に目覚めた野獣は、王子様でした、ってな」
「いくら顔が良くてお金持ちでも、あたしヴァンツァーは願い下げだわぁ~」
「──ともかく。シェラ。あんまりセクハラがひどいようだったら、私たちに言いなさいよ? あの男、とっちめてやるんだから」
楽しそうに頷く面々に、シェラはぎこちない笑みを浮かべて「ありがとう」と返した。
けれど、心の中では違うことを思っていた。
──その方が、ずっとマシだ・・・・・・。
**********
おぉ、ヴァンツァーさんかっこいいじゃありませんか。やればデキる子だ。やっぱり喋らないとイイ男なんだよなぁ・・・。
だいぶ長いけど・・・しかし、ここで終わったままだとふたりは別居後離婚とかいう流れにしかならないので、サイトには掲載出来ませんね(笑)
もしふたりが別れることになったら、意外と切り捨てるのはヴァンツァーの方なんじゃないか、というお話。ヴァンシェラサイトにはあるまじき小ネタでした(笑)
PR