小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
役者に出会うと、嬉しくて、どんなに疲れていても、ついやる気を出してしまいます。技術的な巧さだけじゃなくて、気持ちがあるから、人の心を動かすことが出来るんだよなぁ、と改めて思いました。
明日からは合宿だけど、ゲネも本番も、楽しみだなぁ。もうちょっとで終わっちゃうのか、と思うと、ほっとするの半分、寂しいの半分。けど、これから社会人になる後輩を送り出すためだもの! 頑張るんだ!!(^^)
こんなちっぽけなぼくの力を必要としてくれる人がいる・・・それだけで、こんなにも嬉しくなれるんだ。
でもとてつもなく疲れてるから、妄想しましょ、そうしましょ。
明日からは合宿だけど、ゲネも本番も、楽しみだなぁ。もうちょっとで終わっちゃうのか、と思うと、ほっとするの半分、寂しいの半分。けど、これから社会人になる後輩を送り出すためだもの! 頑張るんだ!!(^^)
こんなちっぽけなぼくの力を必要としてくれる人がいる・・・それだけで、こんなにも嬉しくなれるんだ。
でもとてつもなく疲れてるから、妄想しましょ、そうしましょ。
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ノートパソコンを閉じ、目頭を軽く揉むと椅子から立ち上がって身体を伸ばす。
エッジエラーに対する判定が厳しくなってから、シェラのジャンプの調子が良くない。
特にルッツとフリップだ。
ルッツはアクセルの次に難度の高いジャンプで、通常女子選手にとっては最大の得点源である。
しかし、アウトエッジで踏み切らねばならないため、踏み切りのときに描くカーブと逆の方向に回転する。
他のジャンプはアクセルも含め、踏み切りのときのエッジのカーブと同じ方向に回転するから助走の力をジャンプに伝えやすいのだが、ルッツは自然の力に逆らったジャンプとなる。
そのため、たとえば回転数は3回転だったとしても、他の3回転ジャンプよりも回転力が必要となるのである。
シェラのルッツは、厳密に言えばフリップと同じ、インエッジで踏み切っている。
ヴァンツァーがコーチを始めた頃から、もっと言えば、スケートを始めた頃から、シェラのルッツはインエッジなのだ。
そこを、執拗なまでに指摘されている。
かつて、フィギュアスケートにおけるジャンプというものは、回転数や踏み切りの厳密な判定ではなく、いかに美しく着氷するかに重きが置かれた。
着氷後の流れの止まらないジャンプが、もっとも評価される。
それは現在も変わらないが、ここ最近のルール改正でエッジエラーや回転不足に対する判定は厳しくなる一方だった。
繰り返すが、シェラはフィギュアスケートを始めてから『一度も』アウトエッジでルッツを跳んだことがない。
たまたまエッジを誤ったのではなく、正しいエッジで跳ぶことが出来ないのだ。
そこを矯正しようとして、ジャンプに歪みが出た。
伸びやかなジャンプが最大の持ち味だったのに、エッジを気にしすぎて跳べなくなっているのだ。
3回転どころか、2回転ですら怪しい。
フリップ、ルッツ、アクセル──難度の高いそれらのジャンプが跳べなければ、選手として生きていくことは難しい。
それでもルッツ以外は何とか跳べるし、コンビネーションジャンプには難度の高いループジャンプをつけることも出来る。
ループはトゥを突かずにエッジで踏み切るから、トゥループより遥かに難度が高いのだ。
「──誰に有利なルール改正だか・・・」
吐き捨てるような物言い。
自室にひとりきり、ということもあるのだろうが、この美貌のコーチにしては珍しく、苛立ちを隠していない。
シーズン開幕も近い。
エッジの矯正よりは、跳べるジャンプでプログラムを組んだ方が負担が少ないのかも知れない、とため息を零す。
──コンコン。
ノックの音に、入室を許可する。
入ってきたのは銀髪の乙女。
「まだ起きていたのか。さっさと寝ろ。寝不足でリンクに立てば、怪我をするぞ」
「・・・・・・」
寝巻き姿の少女は、俯いて腹の前で手を握っている。
訝しんだ青年に、ぱっと駆け寄り、ぶつかるようにして抱きついた。
「・・・シェラ?」
別人か、と思うような態度にちいさくはない驚きを感じた青年に、シェラはぽつり、と呟いた。
「・・・だ、抱いて・・・下さい」
消え入るような声に、ヴァンツァーは眉を上げた。
「わ、私は、色気が足りないから・・・っ」
それは男を知らないからだ、と誰かに吹き込まれたのだろうか。
馬鹿馬鹿しい、とため息を零した男は、ジャンプを跳ぶためにギリギリまで絞られた細い身体を自分から引き剥がした。
負けるものか、といった風に、逆に強く抱きつかれた。
「妖艶なシャーリーちゃんと比べると、子どもっぽいんだって・・・表現力もないし・・・最近は、ジャンプも跳べない・・・」
「だから?」
「だ、だからっ」
「こんな下らないことをしている暇があったが、跳べるようになるまで跳んでこい」
あまりにも静かな声音に、シェラはキッ、と顔を上げて青年の美貌を睨みつけた。
「ヴァンツァーは跳べるから!! 今だって、3アクセルでも4回転でも跳べるから!!」
だからそんなことが言えるんだ、と菫色の瞳に涙を溜めて訴える。
「せめてもっと表現力が身につけば、って思って・・・真剣なんだから!!」
馬鹿にしないでよ!! と怒りを露にする少女に、ヴァンツァーは告げた。
「跳べないから表現力でカバーする? ──俺は、お前にそんな小手先だけの誤魔化し方法を教えたつもりはない」
「・・・・・・」
「お前も、煩く騒いでいるマスコミも、『表現力』を取り違えているんじゃないか? 顔の表情の豊かさが表現力じゃない。そんなものは、ただの『顔芸』だ」
あんまりといえばあんまりな台詞に、シェラはぽかん、としてしまった。
「指先まで集中して、自分の思いのままに動かせる、──それが表現力だ。表情と表現力を取り違えるな」
「・・・でも、私は表情が豊かじゃないから」
「ものの本質を見る眼のない人間は、分かりやすいものに飛びつきたがる。だから、指先の表情よりも、瞳や口角、頬の高さなどではっきりと違いの分かる顔の表情に目が行きやすい」
「・・・・・・」
「顔に表情があることが悪いわけじゃない。だが、それが最高のもののように考えるな。顔に表情を作るのは、もっとも安易で面白みのない点数の稼ぎ方だ」
「・・・・・・」
「いつも言っているだろう。ステップで手の振りや顔に目が行くのは素人だ、と。大きく動かしやすいから、見ているものの意識も向きやすい。だが、ステップの本質は足元だ。レティーは振り付けのとき、お前の顔なんて一切見ていない」
表情は最後についてくるものだ、と言う青年に、シェラはひとつだけ訊ねた。
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さて。続きはまた今度・・・
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