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小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
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美しいものを見たり、美しい歌声を聴いたりすると涙が零れるというのは、「まだ大丈夫だよ」と言ってもらえているということなのでしょうね。美しいものを美しいと感じられる心が、まだ荒んでいない証拠なのだと思います。良かった、良かった(笑)


**********

キニアンの選んだ曲は、音楽家である彼らしくオペラの楽曲だった。
ゆったりとしたアリア。

──You Raise Me Up

心が疲れたとき、くじけそうになるとき、あなたがいてくれるから、また立ち上がれる。

やさしい彼の心がそのまま表れたような、力強くはないけれど心に染み入る声音。
歌うと意外なほどやわらかく響くテノールに、みな耳を澄ませた。
彼のチェロもそうだけれど、技巧がないわけではない。
これは彼の気質なのかもしれないが、難しいことを難しくやっているように見せない。
彼の演奏は歌にしろチェロにしろ、独創的なわけではない。
どちらかといえばオーソドックスな演奏スタイルだったが、だからこそ新しく、また真っ直ぐ聴くものに届く音を生み出す。
チェロ同様、彼の歌声は決して豊潤ではない。
長身の割りに細身の身体はまだまだ成長途中で、豊かに音を響かせるだけの造りをしていない。
それでも、宝石の原石のような、何か確かな価値を予感させるような音を生むのだ。
もう、これは天性のものと言うしかない。

「あぁ・・・何か・・・」
「耳が幸せぇ~」

ほわ~ん、とした顔をした金髪と黒髪の美女カップル──外見の話だ──に、シェラもこくこく、と頷いた。

「子守唄とか歌ってもらえたら、気持ちよく眠れそう」
「あー、それいい!」
「アー君、ちょっと今度録音させて」

これには呆れた顔になったキニアンだ。

「・・・別に、そんないいもんじゃないだろうが・・・」
「いやいやいやいや。アー君さ、それ、もう、謙虚っていうか自己否定だよ?!」
「はぁ? 別に自己否定なんてしてないぞ? そんないい声でもないし、上手くもないし。ただの事実じゃないか」

何を言っているんだ、という顔をしている少年にこそ、何を言っちゃってるんだ、と言いたくなった面々である。

「・・・アー君って、もしかして、ものすごい完璧主義とか」
「耳が肥え過ぎてて、満足する水準が恐ろしく高いことになってるよね」
「あれで歌苦手って・・・普通に上手いと思うんですけど」

ひそひそと、しかし聴こえるように喋っている3人の言葉に『よく分からん』という顔になったキニアンは、ふと気になって隣を見た。
じっとこちらを見つめてくる菫の瞳に、首を傾げる。

「なに?」
「歌えるじゃん」
「・・・歌えないわけじゃないけど、苦手なんだって」
「人前で歌うの、嫌なの?」
「あー・・・うん。出来れば」
「ふぅん」
「・・・カノン?」
「でも、ぼくには嫌だって言えないよね」
「・・・・・・え」

にっこりと微笑んだ天使に、ひくり、と頬を引き攣らせる。

「あ、今度マリアさんにヴァイオリンであれ弾いてもらって? で、アリスが歌うの」
「──絶対嫌だ」
「何で?」
「何でじゃないよ。マリアの音と遜色ない声なんて、出せるわけないだろう?」
「いーじゃん。ぼく聴きたい」
「ダメ」
「やだ」
「や・・・やだじゃないよ」
「ぼく決めたの」
「勝手に決めるなよ」
「聴くの!」
「・・・・・・」

言い出したら梃子でも動かない女王様に、キニアンは魂が抜け出すほど深いため息を零した。
勝利を確信したカノンは、にっこりと満足そうな笑みを浮かべてオレンジジュースに手を伸ばした。
どことなく楽しそうにそんなやり取りを見ていたヴァンツァーだったが、痛いほどの視線を無視するのも憚られてそちらに目を向けた。
いつになくきらきらと輝いている菫色に、その後の展開が読めたヴァンツァーだった。

「──お前、下手なんだろう?」
「え?」
「歌、下手なんだよな?」
「まぁ、得意ではないが」
「よし、歌え」

待ってました、とばかりに満面の笑みを浮かべるシェラに、ヴァンツァーは少し考える顔つきになった。

「嫌だ、と言ったら?」
「言わないよな」

即座に返ってきた言葉に、思わず苦笑する。

「じゃあ、キスしてくれたら──」

いいよ、と言い終わる前に唇どうしが触れ合う。
これには驚いた。
思わず目を瞠ったが、頬を紅潮させ、瞳を輝かせた夢見る少女のような顔で、シェラはもう一度言った。

「歌って」


もちろん、『否』が返るとは思っていなかった。

**********

さ。本命です(笑)
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