小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
ねみぃ(笑)疲れてると思って糖分摂り過ぎて、余計に疲れている橘ですどうもおはようございます。9月に入ってしまいました。ほんとかよ・・・
カレンダーをめくるたびに出てくる犬や猫に癒されてます。はい。
カレンダーをめくるたびに出てくる犬や猫に癒されてます。はい。
**********
本人そっち退けで険悪なムードになってきた練習室。
キニアンたち以外にも何組か練習している学生はいるが、皆知らぬフリをしている。
飛び火は誰も避けたいところである。
初めは口論で済んでいたが、引くに引けなくなってきたのだろう。
艶のない金髪の青年が、ツカツカと歩み寄ってきた。
「おい、何とか言えよ、二世!」
ビシッと、チェロの弓を突きつけてくる青年に、「危ないよ」とだけ返すキニアン。
それも気に入らなかったらしい。
「そんなデカい図体して、何も言い返せないのかよ!」
青年が振るった弓は、キニアンに当たることはなかった。
「──きゃあ!」
「──っ!」
ガタン。
軽い音だったが、周囲が受けた衝撃は計り知れない。
見ぬフリをしていた周りの学生も、これは見過ごせなかったらしい。
「あ・・・あんたっ!!」
アシュリーがひと際大きな声を上げる。
しかし、その声は震えていて、顔は青ざめている。
弓を振るった青年ですが、その表情を強ばらせている。
「口で勝てないからって、楽器に当たるってどういうこと?!」
青年の攻撃は、キニアンではなくその相棒であるチェロを襲った。
椅子に立てかけてあったそれが、床に転がっている。
「お・・・俺は・・・」
「このチェロが何だか知らないわけじゃないでしょう?!」
「──う、煩い!! こいつがいけないんじゃないか!!」
「人のせいにするのも大概にしなさいよ!!」
またもやヒートアップしてきたアシュリーたちとは対照的に、キニアンはひと言も発することなくチェロを助け起こした。
胴体や弦の状態を確認する。
大きな傷がないことにほっとしたが、無傷というわけにはいかなかった。
おそらく音に影響はないだろうが、専門家に見せた方がいいかも知れない、とは思った。
「謝りなさいよ!」
「何でだよ!」
「当たり前でしょう? あたしたちが使ってる安物とはわけが違うのよ?!」
安物とはいっても、彼女たちの楽器ですら数十万から数百万。
連邦大学の学生が比較的裕福な家の子どもたちとはいえ、乱暴に扱って良いものではない。
「アル、あんたも何とか言いなさいよ!」
「別にいいよ」
「──アル?!」
信じられない、という顔になったアシュリーに、キニアンは静かな瞳を向けた。
何か言いたそうな顔をしたものの押し黙るアシュリーから視線を外し、若干引き攣った顔をしている青年を見る。
もともとがきつい顔立ちのキニアンだ。
正面から見据えられると、それなりの威圧感がある。
「ひとつだけ言っておく。別に俺は何されても、何言われてもいいけど、楽器に当たるのは違うだろう?」
「・・・・・・」
「まぁ、チェロに当たったのは偶然だったろうけど。俺に当たってたら、あんたのその弓だって使えなくなってたかも知れない」
「・・・・・・」
「それさ、そういう風に使うものじゃないよな?」
「・・・偉そうに」
「偉そうでも何でもいいよ。確かに俺には両親みたいな才能はないし、七光りかも知れないけど、少なくともこいつらのことを道具だと思ったことはないよ」
「・・・・・・」
「それってさ、音楽家としては、当たり前の感覚なんじゃないの?」
唇を噛みしめて睨みつけてくる青年に、キニアンは苦笑して言った。
「こいつら気分屋だから、ぞんざいな扱いしてると良い音出してくれなくなるぞ」
諭すような物言いに、青年は自分の楽器を掴むと足音高らかに部屋を出て行った。
アシュリーが、『馬鹿じゃないの』と言いたげな視線でキニアンを見遣る。
「何で怒らないわけ?」
「目立った傷ないし。それにたぶん・・・」
相棒に、歌を歌わせる。
いつもと変わらない音に、無愛想な青年の顔にほのかな笑みが浮かんだ。
「うん、大丈夫。──な?」
「『な?』じゃないわよ。一歩間違ったら、ストラドを傷物にするところだったのよ?」
「んー、まぁ、ならなかったし」
「結果論じゃないの!」
「──それにさ」
「・・・なによ」
なぜかアシュリーの方がひどく憤慨していて、キニアンは少し嬉しくなった。
「怒ったり、妬んだりすると、音が汚くなるから」
「──・・・アル」
「俺、隠し事とか得意じゃないからさ」
特にこいつには、全部バレる、と苦笑して指板を軽く叩く。
「・・・いつもと同じように歌ってくれて、正直ほっとした」
アシュリーは呆れ返ってため息を零した。
「・・・なんとかと馬鹿は紙一重とは、よく言ったものだわ」
「それ、伏字の意味ないぞ?」
「あなたみたいなのを、音楽馬鹿って言うんだわ・・・」
「そうか? 『やる気がない!』って、父親にいつも怒られてるけどなぁ」
自覚のない青年に、アシュリーは盛大なため息を零したのであった。
**********
チェロは友達、怖くないよ。
PR
この記事にコメントする