忍者ブログ
小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
<< 12   2025/01   1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31     02 >>
[1569]  [1568]  [1567]  [1566]  [1565]  [1564]  [1563]  [1562]  [1561]  [1560]  [1559
ねみぃ(笑)疲れてると思って糖分摂り過ぎて、余計に疲れている橘ですどうもおはようございます。9月に入ってしまいました。ほんとかよ・・・

カレンダーをめくるたびに出てくる犬や猫に癒されてます。はい。


**********

本人そっち退けで険悪なムードになってきた練習室。
キニアンたち以外にも何組か練習している学生はいるが、皆知らぬフリをしている。
飛び火は誰も避けたいところである。
初めは口論で済んでいたが、引くに引けなくなってきたのだろう。
艶のない金髪の青年が、ツカツカと歩み寄ってきた。

「おい、何とか言えよ、二世!」

ビシッと、チェロの弓を突きつけてくる青年に、「危ないよ」とだけ返すキニアン。
それも気に入らなかったらしい。

「そんなデカい図体して、何も言い返せないのかよ!」

青年が振るった弓は、キニアンに当たることはなかった。

「──きゃあ!」
「──っ!」

ガタン。

軽い音だったが、周囲が受けた衝撃は計り知れない。
見ぬフリをしていた周りの学生も、これは見過ごせなかったらしい。

「あ・・・あんたっ!!」

アシュリーがひと際大きな声を上げる。
しかし、その声は震えていて、顔は青ざめている。
弓を振るった青年ですが、その表情を強ばらせている。

「口で勝てないからって、楽器に当たるってどういうこと?!」

青年の攻撃は、キニアンではなくその相棒であるチェロを襲った。
椅子に立てかけてあったそれが、床に転がっている。

「お・・・俺は・・・」
「このチェロが何だか知らないわけじゃないでしょう?!」
「──う、煩い!! こいつがいけないんじゃないか!!」
「人のせいにするのも大概にしなさいよ!!」

またもやヒートアップしてきたアシュリーたちとは対照的に、キニアンはひと言も発することなくチェロを助け起こした。
胴体や弦の状態を確認する。
大きな傷がないことにほっとしたが、無傷というわけにはいかなかった。
おそらく音に影響はないだろうが、専門家に見せた方がいいかも知れない、とは思った。

「謝りなさいよ!」
「何でだよ!」
「当たり前でしょう? あたしたちが使ってる安物とはわけが違うのよ?!」

安物とはいっても、彼女たちの楽器ですら数十万から数百万。
連邦大学の学生が比較的裕福な家の子どもたちとはいえ、乱暴に扱って良いものではない。

「アル、あんたも何とか言いなさいよ!」
「別にいいよ」
「──アル?!」

信じられない、という顔になったアシュリーに、キニアンは静かな瞳を向けた。
何か言いたそうな顔をしたものの押し黙るアシュリーから視線を外し、若干引き攣った顔をしている青年を見る。
もともとがきつい顔立ちのキニアンだ。
正面から見据えられると、それなりの威圧感がある。

「ひとつだけ言っておく。別に俺は何されても、何言われてもいいけど、楽器に当たるのは違うだろう?」
「・・・・・・」
「まぁ、チェロに当たったのは偶然だったろうけど。俺に当たってたら、あんたのその弓だって使えなくなってたかも知れない」
「・・・・・・」
「それさ、そういう風に使うものじゃないよな?」
「・・・偉そうに」
「偉そうでも何でもいいよ。確かに俺には両親みたいな才能はないし、七光りかも知れないけど、少なくともこいつらのことを道具だと思ったことはないよ」
「・・・・・・」
「それってさ、音楽家としては、当たり前の感覚なんじゃないの?」

唇を噛みしめて睨みつけてくる青年に、キニアンは苦笑して言った。

「こいつら気分屋だから、ぞんざいな扱いしてると良い音出してくれなくなるぞ」

諭すような物言いに、青年は自分の楽器を掴むと足音高らかに部屋を出て行った。
アシュリーが、『馬鹿じゃないの』と言いたげな視線でキニアンを見遣る。

「何で怒らないわけ?」
「目立った傷ないし。それにたぶん・・・」

相棒に、歌を歌わせる。
いつもと変わらない音に、無愛想な青年の顔にほのかな笑みが浮かんだ。

「うん、大丈夫。──な?」
「『な?』じゃないわよ。一歩間違ったら、ストラドを傷物にするところだったのよ?」
「んー、まぁ、ならなかったし」
「結果論じゃないの!」
「──それにさ」
「・・・なによ」

なぜかアシュリーの方がひどく憤慨していて、キニアンは少し嬉しくなった。

「怒ったり、妬んだりすると、音が汚くなるから」
「──・・・アル」
「俺、隠し事とか得意じゃないからさ」

特にこいつには、全部バレる、と苦笑して指板を軽く叩く。

「・・・いつもと同じように歌ってくれて、正直ほっとした」

アシュリーは呆れ返ってため息を零した。

「・・・なんとかと馬鹿は紙一重とは、よく言ったものだわ」
「それ、伏字の意味ないぞ?」
「あなたみたいなのを、音楽馬鹿って言うんだわ・・・」
「そうか? 『やる気がない!』って、父親にいつも怒られてるけどなぁ」

自覚のない青年に、アシュリーは盛大なため息を零したのであった。


**********

チェロは友達、怖くないよ。
PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret(管理人のみ表示)
カレンダー
12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
拍手
検索
リンク
Copyright ©  ひっくり返ったおもちゃ箱 All Rights Reserved.
*Material by Pearl Box  * Template by tsukika
忍者ブログ [PR]