小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
目覚めればそこは雪国だった・・・・・・わけはないですが。正午過ぎでした(笑)クーラーつけてても暑くて目が覚めました。暑くなければまだまだ寝ていられたのに・・・。
さ。フォローになるか分からないフォローいってみよう。
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「お前は俺のことが好きなのか?」
昼食後の休憩時間、単刀直入に訊いてみた。
職員全員がぎょっとした顔になり、当の本人はぽかん、とした表情を浮かべている。
「・・・え?」
「お前は俺のことが好きで、体調を気遣っているのか?」
「・・・・・・────っ!!」
ようやく何を言われているのか分かったらしいシェラは、みるみるうちに顔を真っ赤にした。
「なっ・・・ちがっ!」
「違うのか?」
「ち・・・い、忙しそうだから何か手伝えればとは思うけど、べ、別に好きとかじゃっ!!」
睨むようにして早口でまくし立てるシェラに、ヴァンツァーは頷いた。
「だろうな。──ほら、エマ。違うじゃないか」
どこか得意げな顔でそんなことを言ってくる男に、エマは軽い殺意を覚えた。
頭の中ではその美しい顔からは想像も出来ないような汚い言葉でヴァンツァーを罵っているわけだが、そんなことは綺麗さっぱり──額の青筋はご愛嬌だ──隠してにっこりと微笑んだ。
「えぇ、そうね。シェラがあなたみたいな馬鹿で鈍感で空気の欠片も読めない男のことなんて、好きになるはずもなかったわ」
「何か棘がないか?」
「被害妄想じゃない? だってわたしは本当のことしか言ってないもの」
なぜエマが怒っているのか、レイチェルやレオンたちが顔を見合わせて苦笑しているのか、ヴァンツァーにはさっぱり分からなかった。
「あ・・・し、仕事思い出した! 悪いが、失礼する!」
席を立って行ってしまったシェラを見送った面々は、口々に「気の毒に」と呟いたのだった。
*****
その夜。
シェラは悩んでいた。
あれからヴァンツァーの顔がまともに見られない。
仕事に支障が出ないようにはしているつもりだが、目が合うと逃げるように背中を向けてしまう。
だって、何だか顔が熱いのだ。
入浴も済ませ、あとは寝るだけなのだが、同じ寝室で寝ているということもよく考えるとものすごく恥ずかしい。
そんなのはおかしいのだ。
だって、同じ男どうしなのだし、今までだってそうしてきたのに、どうして今更。
寝室が同じだというだけで、別に同じベッドで寝ているわけではないし、と隣のベッドを見遣る。
「──シェラ」
──ビクッ。
派手な反応に、自分自身が一番驚いた。
名前を呼ばれただけじゃないか、と思っても意識し出すともうダメだ。
──ドキドキドキドキ。
自分はどこかおかしくなってしまったのではないか。
何かの病気だろうか。
だって、こんなに心臓が──。
「シェラ」
「──っ!」
目の前に秀麗な美貌があって、思わず身を引いた。
「どうかしたか?」
「な・・・なにが?」
「呼んでも返事がなかったから」
「あ・・・悪い。何か用だったか?」
意識している自分が馬鹿らしくなってきて、シェラは一度深呼吸をした──のだが。
「お前は、俺のことが好きなのか?」
「なっ! ち、違う・・・だ、だからあれは」
真っ赤な顔であたふたしているシェラに、ヴァンツァーは頷いた。
「だろうな。お前は俺を憎んでいる」
「──違う!!」
身を乗り出し、ヴァンツァーの襟首すら掴みそうな勢いになるシェラ。
その顔は、一瞬前まで紅潮していたとは思えないほどに青褪めている。
「私は・・・」
そんなシェラを見て、あろうことかヴァンツァーは微笑んだ。
ドキッ、と跳ねる胸を思わず押さえるシェラ。
「あぁ、そういうことか」
「・・・ヴァンツァー?」
「お前は、俺のことが好きなんだな」
疑問ではなく肯定で紡がれる言葉に、シェラは否定を返そうとした。
「同じ『違う』でも、お前の表情がすべてを物語っている」
「・・・・・・」
「俺は、お前に好意を抱いてもらう資格はないし、好きになってもらえるとも思っていない」
「ヴァンツァー・・・」
「だから、頭から否定していたんだ」
そっとシェラの頬に触れる。
僅かに逃げる素振りを見せたが、その表情は怯えているわけではなくて、戸惑いの濃いものだった。
よく見れば、こんなにも明らかなのに。
「俺を、気遣ってくれていたのか?」
「・・・忙しそう、だったから・・・私には、手伝えることもなさそうだったし・・・」
何も出来ない無力感に打ちのめされた。
この男の『月』になんて、なれるわけもない。
「やっぱりお前は・・・遠いな」
無理やり笑みを浮かべた。
いつのときでもこの男の能力の高さには驚かされ、──自分のみすぼらしさに嫌悪すら覚える。
何でもひとりで出来てしまう男だから、自分の手など必要ない──手を伸ばしてもらえるその高さまで、近づくことが出来ない。
「俺にとっても、お前は遠いよ」
「・・・ヴァンツァー?」
静かというよりは、どこか儚さすら感じさせる声音に、シェラは顔を上げた。
「分からないんだ。お前だけ」
「・・・何を」
「俺がしたことは赦されない」
「それは」
「赦してもらおうとも思っていない」
「・・・・・・」
「でも・・・──失いたくはない、と思っている」
「──ヴァンツァー・・・」
「ひどく自分勝手なことを言っている自覚はある。だが、これが正直な気持ちだ」
何だか胸がいっぱいになって、シェラはきつく目を閉じた。
はらり、と零れ落ちる涙がそっと拭われる。
「・・・泣かれるのは、好きじゃないんだろう?」
「お前なら、いい」
「何だそれ」
「お前が、俺のことだけを見て、俺のことだけを考えて流す涙なら、それでいい」
「・・・・・・我が儘」
「知ってるよ」
ふ、と笑い、そのままシェラに軽く口づけた。
「・・・していいなんて、言ってない」
「やめろとも言われていない」
「・・・・・・」
大袈裟なため息を零すシェラに、ヴァンツァーは言った。
「──とりあえず、詰めろ」
「──は? 何の話だ?」
「ベッド。俺が入れるスペースを空けろ」
「はぁぁぁぁ?! なに馬鹿なこと」
「さっさとしろ」
言うなり、ぐいぐいシェラをベッドの中央へ押しやる。
自分は隣に潜り込み、真っ赤な顔で憤慨しているシェラを無理やり引き寄せて腕の中に入れてしまった。
「おまっ!!」
「おやすみ」
「おやすみじゃない! この体勢でどうやって」
「落ち着くんだ、お前が傍にいると」
「・・・・・・」
「安心して、眠れる気がする」
戸惑いの表情を浮かべているシェラの前でさっさと目を閉じた男は、数秒の後にはすーすーと健やかな寝息を立てていた。
「・・・冗談だろう?」
何だこの寝つきの良さは、と愕然としたシェラである。
しかし、きっと連日深夜に及ぶ仕事で疲れているのだろうし、自分が身動きを取ることで起こしてしまったのでは忍びない。
仕事で手伝えることがないというのは男として耐え難いことだが、ヴァンツァーの寝顔の穏やかさを見たらそんな考えもどこかに吹き飛んだ。
「・・・今日は特別・・・だからな」
まったく、と内心で文句を言いつつ、シェラも瞼を閉じたのだった。
──数年後。
「あーもう! 邪魔!!」
べたべたとひっついてくる男を蹴散らすようにして暴れるシェラだったが、そんな抵抗はないものと同じように自分の居心地が良い場所を探すヴァンツァー。
「暑苦しい!」
「お前の傍は、安心す──」
「そう言えば私が甘い顔をすると思ったら大間違いだ!」
「ちっ」
「・・・お前、今舌打ちしただろう・・・」
「空耳だろう?」
「あー、もー、いいから離れ」
「おやすみ」
三秒とかからずに眠ってしまう男。
寝ていたって、蹴散らせばいいのだ。
起こしてしまっても構うものか。
そう思ってはいても、何度実行に移そうとしても、シェラは結局諦めて自分も眠りに就くのだ。
──明日こそは・・・!
毎日が、それの繰り返し。
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おーしまい。
『かっこいいヴァンツァー=絶滅危惧種』は、シェラのやさしさと流されやすさが原因なのだと痛感。
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