小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
疲れてるのかも知れないですね。でも、糖分を過剰摂取すると、実は余計に疲れるんですよねぇ。
キニアン、さじ加減、よろしく(笑)
キニアン、さじ加減、よろしく(笑)
**********
「でもね、アリス」
「ん?」
このパークは恋人どうしが来ることが多いから、軽く抱き合っていてもそんなに変ではない。
美貌の天使と、ちょっときつめの顔立ちながら翡翠のまなざしは穏やかな大型犬のふたりともが男だとて、まぁ、ちょっとだいぶ人目は引いているが、見目が良いからアリ、というのが大筋の見解で。
それでもいつもなら端正な顔を紅く染めて恥ずかしがる青年が「離れて下さいよ」と言わないところを見ると、彼はまだ頭がぼーっとしているのかも知れなかった。
「マリアさんもマエストロも、すごく子煩悩だと思うよ?」
「子煩悩?」
「ん」
こっくりと頷くと、あのね、あのね、ナイショの話なんだけどね、と。
特にそうする必要はなかったものの、彼氏に耳打ちするカノン。
「ふたりとも、コンサートのアンコールで、『主よ、人の望みの喜びよ』を演奏することがあるんだって」
父さんが言ってたよ。
何だか自慢気にそう言うカノンだったが、キニアンにはさっぱり意味が分からない。
超絶技巧曲ではないし、とても短い曲だけれど、選ばれることがないわけではない曲だ。
クリスマスやファミリーコンサートなんかだと、耳に慣れた曲ということで演奏することが多い曲でもある。
「でね、でね。5月のコンサートだと、絶対なんだって」
「──・・・え?」
「アリス、バッハの曲の中でも、一番好きだって言ってたよね?」
「・・・・・・」
「その演奏がね、またすごくいいんだって」
生の演奏会へ行ったこともあるヴァンツァーは、なぜこの曲をアンコールに選んだのだろう? と首を捻ったらしいが、演奏そのものは大変素晴らしいもので。
胸が震えるという思いを、シェラ以外の存在から味わわせてもらえたということで記憶に残っているらしい。
それが、その大物音楽家の子息と関わりを持つようになって、「なるほど」と得心したというわけだ。
「別々の演奏会でも、ふたりとも示し合わせたように同じ曲弾くんだって言ってたよ。たぶん、実際打ち合わせなんてしてないんだろうね」
にこにこ、と。
我が身の誉のように語る恋人に、キニアンは「そっか」と呟いた。
「うん。そうなんだよ?」
「・・・参ったな」
「あー、アリス泣いてる~」
「泣いてないよ」
苦笑して見せたけれど、ほんのちょっと視界がぼやけている気がする。
一緒にいる時間は少なくとも愛されている自覚はあったし、人を感動させる音楽を生み出す両親は自慢でもあった。
寂しい思いもしたし、幼い頃などはベビーシッター相手に我が儘を言ったりもしたはずだ。
それでも、忙しいだろうに家にいるときには出来るだけ一緒にいる時間を作ってくれて、ピアノや、ヴァイオリンやチェロを教えてくれた。
そういえば、
「・・・うまくひけなくて、ごめんなさい」
しゅんとしてそう言った幼い自分に、マリアが朗らかに笑ったのを思い出す。
「上手く弾く必要なんてないのよ。好きなことを考えて、好きな人のために弾くと、自然と綺麗な音になるんだから」
「・・・すきなひと?」
「そう。だって、好きな人のことを考えると、笑顔になるでしょう? 楽しいな、嬉しいな、って思って弾けば、楽器は必ず応えてくれるものよ」
当時の自分にはよく分からなかったけれど、マリアやアルフレッドと一緒に演奏出来るときはただ嬉しくて。
そういうときは、技巧では及ばないながらも音の響きはとても美しかったのをきちんと覚えている。
あぁ、きれいだなぁ、と思って両親を見るとやさしい笑顔を浮かべてくれていたから、きっと彼らも楽しかったのだろう。
「隣の芝生は青く見えるよね」
くすくす、と。
悪戯っぽく笑う天使に、これまた苦笑を返す音楽家。
「カノンさん」
「ん?」
色んな意味で恥ずかしくなって、誤魔化すようににっこりと笑って言ってみた。
「何だか、俺、アトラクションになった気分なんですけど」
「?」
どういうことだ、と首を傾げ、はっとする。
ちらちらと、ときにガッツリと通行人の視線を集めまくっている。
『ドクロの魔宮』から少し移動して、アラビアンな世界で抱き合っていたからいけないんだ、と妙な解釈をしたカノン。
「は、離せ!」
「いや、俺全然拘束してないし」
確かに、抱きついてきているカノンの腰に軽く手を回してはいるけれど。
嫌がられるほど強く抱きしめてはいない。
「あ、アリスのばかっ!」
「はいはい。あ、やば。マジックランプ見てると、ビッグバンドが見られないかもな・・・」
行くぞ、とカノンの手を引いて歩き出すキニアン。
どうする? とのお伺いもなしの行動だったのでちょっとびっくりしてしまったカノンだったが、特に文句は言わなかった。
だって、決して強くはなく、それでも離れないように握られた手が、とても心地良かったのだから。
**********
まだ続くんかい(笑)
PR
この記事にコメントする