小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
久々にカノキニですかね。
**********
ふたりだけで来るのは、そういえば初めてだった。
デートスポットとしてこれ以上の定番はないというくらい定番なのに、来るときはいつも家族総出の泊まりがけ、といった感じだった気がする。
世界が誇るスーパースターなねずみがボスを務める、夢と魔法と冒険の海。
平日だったこともあってか客足はごった返すほどに多くはなく、天候にも恵まれた。
大学に入ってからはお互い忙しくてなかなか時間が取れないこともあったから、平日に会うのも久しぶりだったかも知れない。
そのせいか、昨夜はしばらく寝付けなかったなぁ、とカノンはこっそり内心で呟いた。
開園と同時に入り、朝イチでゴンドラに。
その前に、隣接のレストランで昼食の予約を入れてきた。
日射しは強かったが風は気持よかったから、面白おかしくお話をしてくれるゴンドリエの声に耳を傾け、カノンはにこにことしていた。
「平気か?」
と、声をかけられて隣の男に視線を移した。
「何が?」
「暑くないか?」
お前白いから、と言いたいのだろう。
相変わらずあまり愛想はないが、中身はやさしい青年なのだとよく知っている。
気はきかないけれど結構心配性で、体調に関することではこんな風に気遣ってくれることが多い。
「うん、平気」
にっこり笑って返してやれば、「そうか」とちいさな笑みが返ってくる。
本人には自覚がないようだけれどかなり端正な容貌をしている、しかも長身の男なので、ゴンドラの中でも彼に注目している女性というのがいないわけではなくて。
そんな視線を感じながら、カノンは『ふふん』とちょっぴり鼻が高くなってしまったりするのだった──絶対本人には言わないけど。
それから、お昼まで開いた時間でショップを眺めつつ、アトラクションに乗り。
昼食後はカノンの好きなビッグバンドを見に行ったり。
「女の子ひとり持ち上げられない男なんて、男と認めない」
とカノンが可愛らしくも顔を顰めていたのは、演出の中でソロを担当する男性が女性の腰を掴んで軽く抱き上げるという場面で、ようやく爪先が上がるくらいしか女性が持ち上がらなかったからだ。
確かに女性もそう小柄な方ではなかったが、「それくらい鍛えておけ」と、この女王様は言いたいらしい。
「・・・ガンバリマス」
自分にも矛先が向いているに違いない、と思える程度には空気を読めるようになったらしい青年は、明後日の方向を見ながらそう呟いた。
「70キロくらいまでは持ち上げられるようになります」
「──ぶっ飛ばすよ?」
にっこりと微笑んでいるのに額に青筋浮かべているカノンに、『なんで、なんで?』という表情で首を傾げるキニアン。
ここで「え、足りなかったか?」と返していたら、ピーカンの青空の下、有数のデートスポットで喧嘩別れをする、という事態に陥っていたかも知れない。
しかし、さすがに何か不穏なものを感じ取ったらしき、成長著しい好青年。
「もうちょっとふくふくしてた方が、抱き心地良さそうだし」
と、カノンの白い頬をふよふよと撫でてやる。
「まぁ、別に今が悪いってんじゃないけど」
そう言って笑ってやると、ぽんっ、と音を立ててカノンの頬が紅くなった。
~~~~こんの、天然誑しっ!!
口には出さないけれどそう思っているに違いないと傍目にも分かるカノンなのだが、そこまで読めるようになっているキニアンではないらしい。
首を傾げて、「やっぱり暑いか?」と訊いている。
そう思ってなさい、とばかりに顔を背け、スタスタと歩き出すカノン。
よく分からないながらも後をついていくキニアン。
──ちょっと、右手がお留守なんですけどっ。
とは思っても自分からは言えないカノンなので、どうやって気づかせてやろうかと画策していたのだが。
「──あ、『ミシュカ』始まるぞ」
お前好きだろう? とカノンの手を引いて歩き出すキニアン。
ちょっと今日はどうしちゃったんだろう、とびっくりして右斜め前方ちょっと上にある端正な横顔を見上げる。
「下行くか?」
中央鑑賞エリアがまだ空いているのでそう訊ねたキニアンだったが、ちょっと妙な間があったあと、カノンはふるふると首を振った。
その間をどうしようか考えてのものだと判断したキニアンは、そうか、という風に頷くと、手すりの前にカノンを立たせた。
自分はそのすぐ後ろ、カノンを腕の中に掻い込むようにして立つ。
~~~~ちょっとちょっと、だから今日はどうしちゃったの?!
なんだか妙にドキドキしてしまったカノンだったのだけれど。
手すりに腕を置き、その上に顔を伏せさせて緩みそうになる口許を隠す。
「・・・あっちぃ」
「・・・日傘、差す?」
「んー。でも、それだと後ろの人見えないかも知れないから」
言って、カノンの頭の上にタオルを載せてやる。
「なに、これ?」
「え、いや、暑いかなって・・・邪魔か?」
「・・・ううん」
タオルが落ちない程度に首を振る。
・・・やっぱり、今日のアリスは変だ。
そんな風に思ったカノンだった。
**********
続くよ。
ふたりだけで来るのは、そういえば初めてだった。
デートスポットとしてこれ以上の定番はないというくらい定番なのに、来るときはいつも家族総出の泊まりがけ、といった感じだった気がする。
世界が誇るスーパースターなねずみがボスを務める、夢と魔法と冒険の海。
平日だったこともあってか客足はごった返すほどに多くはなく、天候にも恵まれた。
大学に入ってからはお互い忙しくてなかなか時間が取れないこともあったから、平日に会うのも久しぶりだったかも知れない。
そのせいか、昨夜はしばらく寝付けなかったなぁ、とカノンはこっそり内心で呟いた。
開園と同時に入り、朝イチでゴンドラに。
その前に、隣接のレストランで昼食の予約を入れてきた。
日射しは強かったが風は気持よかったから、面白おかしくお話をしてくれるゴンドリエの声に耳を傾け、カノンはにこにことしていた。
「平気か?」
と、声をかけられて隣の男に視線を移した。
「何が?」
「暑くないか?」
お前白いから、と言いたいのだろう。
相変わらずあまり愛想はないが、中身はやさしい青年なのだとよく知っている。
気はきかないけれど結構心配性で、体調に関することではこんな風に気遣ってくれることが多い。
「うん、平気」
にっこり笑って返してやれば、「そうか」とちいさな笑みが返ってくる。
本人には自覚がないようだけれどかなり端正な容貌をしている、しかも長身の男なので、ゴンドラの中でも彼に注目している女性というのがいないわけではなくて。
そんな視線を感じながら、カノンは『ふふん』とちょっぴり鼻が高くなってしまったりするのだった──絶対本人には言わないけど。
それから、お昼まで開いた時間でショップを眺めつつ、アトラクションに乗り。
昼食後はカノンの好きなビッグバンドを見に行ったり。
「女の子ひとり持ち上げられない男なんて、男と認めない」
とカノンが可愛らしくも顔を顰めていたのは、演出の中でソロを担当する男性が女性の腰を掴んで軽く抱き上げるという場面で、ようやく爪先が上がるくらいしか女性が持ち上がらなかったからだ。
確かに女性もそう小柄な方ではなかったが、「それくらい鍛えておけ」と、この女王様は言いたいらしい。
「・・・ガンバリマス」
自分にも矛先が向いているに違いない、と思える程度には空気を読めるようになったらしい青年は、明後日の方向を見ながらそう呟いた。
「70キロくらいまでは持ち上げられるようになります」
「──ぶっ飛ばすよ?」
にっこりと微笑んでいるのに額に青筋浮かべているカノンに、『なんで、なんで?』という表情で首を傾げるキニアン。
ここで「え、足りなかったか?」と返していたら、ピーカンの青空の下、有数のデートスポットで喧嘩別れをする、という事態に陥っていたかも知れない。
しかし、さすがに何か不穏なものを感じ取ったらしき、成長著しい好青年。
「もうちょっとふくふくしてた方が、抱き心地良さそうだし」
と、カノンの白い頬をふよふよと撫でてやる。
「まぁ、別に今が悪いってんじゃないけど」
そう言って笑ってやると、ぽんっ、と音を立ててカノンの頬が紅くなった。
~~~~こんの、天然誑しっ!!
口には出さないけれどそう思っているに違いないと傍目にも分かるカノンなのだが、そこまで読めるようになっているキニアンではないらしい。
首を傾げて、「やっぱり暑いか?」と訊いている。
そう思ってなさい、とばかりに顔を背け、スタスタと歩き出すカノン。
よく分からないながらも後をついていくキニアン。
──ちょっと、右手がお留守なんですけどっ。
とは思っても自分からは言えないカノンなので、どうやって気づかせてやろうかと画策していたのだが。
「──あ、『ミシュカ』始まるぞ」
お前好きだろう? とカノンの手を引いて歩き出すキニアン。
ちょっと今日はどうしちゃったんだろう、とびっくりして右斜め前方ちょっと上にある端正な横顔を見上げる。
「下行くか?」
中央鑑賞エリアがまだ空いているのでそう訊ねたキニアンだったが、ちょっと妙な間があったあと、カノンはふるふると首を振った。
その間をどうしようか考えてのものだと判断したキニアンは、そうか、という風に頷くと、手すりの前にカノンを立たせた。
自分はそのすぐ後ろ、カノンを腕の中に掻い込むようにして立つ。
~~~~ちょっとちょっと、だから今日はどうしちゃったの?!
なんだか妙にドキドキしてしまったカノンだったのだけれど。
手すりに腕を置き、その上に顔を伏せさせて緩みそうになる口許を隠す。
「・・・あっちぃ」
「・・・日傘、差す?」
「んー。でも、それだと後ろの人見えないかも知れないから」
言って、カノンの頭の上にタオルを載せてやる。
「なに、これ?」
「え、いや、暑いかなって・・・邪魔か?」
「・・・ううん」
タオルが落ちない程度に首を振る。
・・・やっぱり、今日のアリスは変だ。
そんな風に思ったカノンだった。
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続くよ。
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