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小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
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私の書く話がまとまっていた試しがないので、気にしない方向で。


**********

床を蹴り、飛び上がった勢いのまま宙返りをしたヴァンツァーは、眼下で色違いの瞳を「ほわぁ」とまん丸にしている娘と目があった。

「いまだよって、ゆってたのに・・・」

誰が? とは訊いてはいけないやつだ。
女の子は秘密がいっぱいだとライアンが言っていた。
アリアの突き出しているロッドの高さと角度を見て、ヴァンツァーは思わず眉を顰めた。
当たれば、左の肩甲骨の少し内側。
避けられたのは、勘以外の何ものでもない。

「もうちょっとだったな」

厭味のつもりはなかったがそう聞こえただろうかと、言ったあとに心配になったが、「うん!」と元気いっぱいの頷きが帰ってきた。

──天使かな。

ついほっこりしそうになったヴァンツァーだが、他の三人もアリアの周りに寄ってきたので、少々表情を引き締めた。

「あーちゃん、惜しかったね!」
「つぎはいけるよ!」

アリアを励ますロンドとリチェルカーレとは別に、フーガは少し考えるような顔つきをしている。

「みんな頑張れ~。ヴァンツァーをやっつけろ~!」

シェラからも激励の声が飛ぶと、フーガははっとしたあと少し困ったような顔つきになった。
可愛そうに、とは思ったが、ヴァンツァーは黙っていた。
きっとフーガは、アリアの動きを見て父に勝てる可能性を探っていたのだろう。
手に入りそうになったところで、解けてしまったに違いない。

「時間まだあと半分あるね」
「パパにかって、おもちゃおねだりするんだもんね!」

ロンドとリチェルカーレが気合を入れ直しているが、「そんな話だったかな?」とヴァンツァーは内心で首を傾げた。
勝負などしなくても玩具くらい買ってあげるのだけれど、たぶん『報酬』っぽいのが良いのだろう。
その気持ちはよく分かるヴァンツァーだった。

「フーちゃん、パパすごいね! つよいね!」

アリアに話し掛けられたフーガは、にっこり笑ってコクコク頷いた。
彼にしては珍しい興奮具合だ。
四人が読んだ漫画がどのような内容なのかは知らないが、『父は敏腕スパイ』だというのなら、その期待には応えなければいけない。

──どちらかと言えば、『スパイ』と『殺し屋』は逆だが。

まぁ、兼業農家みたいなものだ。
トントン、と軽くその場でジャンプをしてロッドを握り直したヴァンツァーは、「来ないならこちらから行くぞ」と宣言し、今の自分が出せるトップスピードで四人に迫った。
この四人を同時に相手にするのであれば、攻撃に回った方が楽だ。
ロンドとリチェルカーレに対しては、防戦に回っても問題ない。
速く、鋭い攻撃を仕掛けて来るがまだまだ軽く、その動きは分かりやすい。
フーガは賢い子だが、一生懸命で真っ直ぐな性格なので攻撃は大抵正面からだ。

──問題は、アリアか。

視界から外すとマズいというのは、先程よく分かった。
一対一で相手をしているときはひとりの動作に集中すれば良いが、四人いっぺんだとアリアの気配が消える。
殺気はもちろん敵意も害意もなく、足音ひとつせず、『攻撃する』という意図すらないのでロッドを鋭く振り回すこともない。
それはそうだ、彼らの目的を達成するには『父を倒す』必要はなく、『父に当てる』ことが出来ればいい。
どんなにちいさな、蚊が刺すほどの強さであろうとも、ヴァンツァーに自分たちの持つロッドが触れれば良いのだ。
だからアリアは、きっとにこにこ笑いながら、そっとロッドを突き出したのだろう──父の心臓目掛けて。
なかなか将来有望な子である。

「──さぁ、勉強の時間だ」

一瞬で父が目の前に来たと思ったら、次の瞬間にはロッドが手から離れていて、四つ子はきょとん、とした顔つきになった。
次の瞬間、「「「「わっ」」」」と慌てて武器を取ろうと身をかがめるが、がら空きの背中側のプロテクターにトン、と軽い力でロッドの先端が当てられていく。
倒れ込んだ子どもたちへ、ヴァンツァーは諭すように言った。

「お前たちの勝利条件は、『ロッドを俺に当てる』ことだ。俺はスパイだから、正々堂々なんて勝負はしない。武器を持てなければ、お前たちの負けだ」

一番速く動いたのは、意外にもフーガだった。
最初は、それまでと同じくロッドで打ち合う形を取っていた。
ヴァンツァーがまたロッドを落とさせようとすると──。

「ほぅ」

思わず感心してしまったのは、フーガがロッドを短く戻したからだ。
ヴァンツァーが当てようとしていた部分は隠れ、そのまま攻撃を続けていたらパランスを崩したかも知れない。

「いい考えだな」

にっこりと笑ったヴァンツァーは、手の中でロッドを滑らせて短く持つと、フーガの胸のプロテクターの上を突いた。
防御がしづらくなるが、武器を取り落とすことはなくなるだろう。
きっとフーガも、ロッドを落とさなかったあとのことまでは考えがまとまっていなかったに違いない。
尻もちをついたあと、また少し考えるような顔つきをしている。
ロンドは右手に持ったロッドが落とされそうになったら、左手で持ち替えて攻撃を続けた。

「あぁ、お前は両方使えるのか」

ヴァンツァー自身もそうだが、左右の手はある程度バランス良く使える。

「では今度は、左利き相手の戦い方も覚えるといい」
「うわっ」

ヴァンツァーも左手にロッドを持ち替えたので勝手が変わったのか、攻撃をいなすことが出来ず前のめりに倒れ込んだ。

「パパだいすき!」
「ありがとう」

好きといいながらものすごい険しい表情で強撃を打ち込んでくるリチェルカーレに涼しい顔で返したヴァンツァーは、娘がロッドを握る手首のプロテクターを下からコツン、と突き上げた。
軽い力だったが、リチェルカーレの手からロッドが落ちた。

「なんでーーー?!」
「ロッドが落ちた理由か?」
「すきってゆったら、パパゆだんするとおもった!」
「・・・」

すごく複雑な気分だ。
あれは油断させるためだったらしい。
道理でやる気満々の顔をしていると思った。
この10分間で、一番ダメージが大きかったかも知れない。

「パパだっこ~」

ハートブレイク中のヴァンツァーは、アリアの声に一瞬「何で?」と思ったが、つい癒やしが欲しくて振り向いた。

「・・・」

アリアの手にロッドはない。
両腕をピン、と伸ばして抱っこのポーズだ。
けれど、背後に何か憑いている。

「・・・逆の方が良かったかな」

小柄なアリアの背後に、縮こまってロッドを構えているロンドがいる。
ロンドの背後にアリアが隠れることは出来るかも知れないが、逆はどう考えても無理だ。
確かに、ロンドに抱っこをせがまれても警戒するだけだっただろうが、それなら背後にアリアがいると気づいてもいなかった今のまま攻撃していた方が良かった。

「そっか! ロンちゃん、ぎゃくだって!」

パチン、と両手を打ち合わせたアリアは、ロンドの背後に回った。
「これでいい?」とばかりにひょっこり顔を出し、にこにこ笑っている。

──天使かな。

もう、アリアには負けてもいい気がしてきたヴァンツァーだった。

「・・・パパ」

控えめな声がして横を向けば、フーガがとぼとぼ歩いて来るところだった。
だらり、と両手を下ろしていて、どこか不安そうな顔をしている。

「あ、あの・・・」

持ち上げた右腕からカシュ、とロッドが伸びてきたが、ヴァンツァーは自分のロッドでそれを受け止めた。

「フーガには少し難しいかも知れないが、隙きを見せたらそれは相手の落ち度だ。そこを突くことは、悪いことではないよ」
「うん・・・──ごめんなさい」

うるうると、潤みの強い菫色の瞳が見上げてきて、ヴァンツァーは思わず見つめ返してしまった。

──とん。

腹部に軽い衝撃を受けて、藍色の目が瞠られる。
視線を落とすと、フーガの左手からもロッドが伸びていてはっとした。

──アリアのロッドか。

渡したのか拾ったのかは分からないが、フーガは両手にロッドを持っている。
その左手のロッドの先端が、自分の腹に当たっている。

「「「「かっ・・・──かった~~~!!」」」」

シェラ、ロンド、アリア、リチェルカーレの声が重なる。
戦いに参加していなかったシェラまで大興奮で駆け寄ってきて、「やった、勝った!」と三人の子どもたちとはしゃいでいる。

「・・・ごめんなさい」

謝るフーガに、ヴァンツァーは首を振った。

「言っただろう。油断する方が悪い」

制限時間は、あと2分ほどある。
集中し切れなかった自分の負けだ。

「うん・・・ぼくが一番弱いもんね」

フーガの言葉にヴァンツァーは瞠目した。

「だから、パパに勝てるの、ぼくだけだと思って」

困ったように眉を下げる息子の様子に、ヴァンツァーは天井を仰いだ。
そうして、フーガと目線を合わせるようにしゃがみ込むと、動き回って少し乱れた黒髪を、そっと撫でてやった。
ストン、と真っ直ぐに戻った髪は、そのまま彼の気性のようだ。

「なぁ、フーガ」
「うん」
「それは俺を騙したんじゃなくて、違う一面を見せただけだ」
「──え?」

考えてもみなかった言葉に、紫色の瞳が真ん丸になった。

「やさしいお前の、新しい魅力だよ」

よしよし、と頭を撫でたら、じわりと頬が紅く染まった。

「パパがまたフーちゃんくどいてる」

──口説いてない。

しかも「また」って何だ。
誰がリチェルカーレにそんな言葉を教えたのか──心当たりが多すぎて、考えるのが面倒だ。
たぶん、大きいやつらは全員だ。

「──さぁ、ヴァンツァー。お前の負けだ」

何でシェラが偉そうにしているのかはよく分からないが、尊大に胸を反らしている様子がチワワの親玉っぽい。
肩をすくめたヴァンツァーは、「玩具だったか?」と子どもたちに視線を向けた。

「「「「──ダーツ!!」」」」

元気いっぱいの声が返ってきて、ヴァンツァーは「なかったか?」とシェラに訊ねた。

「止まってる的は簡単だから、的が回転するやつが欲しいらしい」
「あるのか?」
「知らん」

そもそも、止まっている的に当てるのも難しいから競技として成立するのであって、狙ったところに当てられなければ仕事にならなかった自分たちにとって、ダーツは遊びにもならない。

「ダンボールを丸く切って自分たちの手で回して遊んでいたらしいが、速度が出ないらしい」
「ふぅん」

まぁ、なければ作らせればいいか、と金持ち思考になったヴァンツァーだ。

「しかし、回転すると投げる場所は毎回さして変わらなくなると思うが、遊びになるのか?」

と、子どもたちに訊ねると、不思議そうな顔が返ってきた。

「一定の場所に目的の点数が来るときを狙えばいいだけだろう?」

その言葉に、子どもたちが目と口を真ん丸に開けた。
そうして、顔を突き合わせて「どうする、どうする」と相談を始めてしまった。

「ゆっくり考えなさい」

いつでもどうぞ、とヴァンツァーはプレイルームの出口へ向かった。

「上に戻るのか?」
「シャワー」

簡潔な言葉に、シェラはなるほど、と納得した。
そして、子どもたちにひと声かけて自分もプレイルームをあとにした。


**********

アリアに負けるヴァンツァーを考えていましたが、思いの外警戒心が上がってしまったので(笑)
おまけで夫婦のその後を書いても良いのですが、それは気が向いたら。

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