小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
前回は前編としていましたが、うーん、2本でなく3本になりそうです。
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行者として生きていた頃、正面からぶつかったら勝てないと思った相手は、片手の数くらいだったろうか。
多くとも、両手には満たないと思っていた。
手段を選ばず殺せばいいだけなら、その数はもう少し減った。
この世界に生き返ってその数が倍くらいに増えて、「勝てるか?」と頭の隅で考えた自分を、ヴァンツァーは嗤った。
ここでは、そんな風に考える必要はない。
命を狙い、脅かされることが日常だったあの頃は、今や遠い。
──そんな風に思っていた時期がありました。
開始1分、残り時間を告げるデジタル時計の数字は全然減っていないのに、ヴァンツァーはもうやめたくなっていた。
子どもたちは約束通り、頭、肩、胸、肘、手首、ウエスト、膝をガードするプロテクターをつけている。
手の大きさがちいさいから、子どもたちのロッドはヴァンツァーが使うものよりずっと細い。
けれど、長さはヴァンツァーが持つものの方が、少し短い。
ヴァンツァーが打ってもいいのは、ロッド、もしくはプロテクターの上だけ。
全身を覆うプロテクターもあるし、軽量化されているので慣れればさほど動きに支障もないが、あえて急所以外は守らせない。
痛いと思うことも訓練だが、それはひとつのハンデでもあった。
──いらないんじゃないか・・・?
内心、そんな風に考えながらロンドとリチェルカーレの猛攻を受ける。
体重はヴァンツァーの3分の1にも満たないくらいしかない子どもたちなので、攻撃自体は軽い。
けれど、恐ろしく速い。
きっと、今の状態で大学生向けのロッドの大会に出ても、かなりの成績を残すだろう。
「制限時間は15分」
「「「「ええーーー!」」」」
15分しか遊んでくれないのか、と物分かりの良い子どもたちには珍しくごねられたが、譲らなかった自分を褒めてやりたいヴァンツァーだった。
20分やったら3割、30分やったら5割の確率で負ける。
無論、何の制限もなければもっと長く相手をしても良いが、疲れが出れば手元が狂う。
これは遊びであり、訓練であり、子どもたちを倒すことが目的ではない。
ロッドとプロテクター以外の場所を叩くか、子どもたちのロッドがヴァンツァーの身体に触れるかしたらヴァンツァーの負けだ。
「じゃあロンちゃん、さいしょからぜんりょくね!」
キリッ、とした表情のリチェルカーレは、髪をポニーテールにしてもらったらしい。
シェラがちいさい頃はこんな感じだったのだろう、と思える、愛らしい少女剣士の姿だ。
「うん、いいよー」
のんびりとした調子で笑顔を返したロンドは、シェラが開始の合図をすると高く跳躍した。
ヴァンツァーの身長など軽く超えるほどの高さから打ち下ろしてくるロンドと、同時に低い位置から打ち込んでくるリチェルカーレ。
もう、この時点でやめたくなったヴァンツァーだ。
まぁ、幸いなことにふたりとも直線的な動きなので、避ければいいだけだが。
「何で避けるんだ!」
外野(シェラ)が何か叫んでいるが、「普通避けるだろう」と頭の中で返事をして、左手から打ち込んできたフーガのロッドを受ける。
ちょうど中心あたりを握り、左右に振るように打ってくる。
ロンドやリチェルカーレのような強撃は打ってこないフーガだが、素早く細かい打ち込みで相手を崩そうと狙っている。
思わず、ふっ、と笑みが零れた。
ピタッ、とフーガの動きが止まったので、「上手だ」と褒めてやったら白い頬にふわっと赤みがさした。
「誘惑禁止!」
また外野が叫んでいるが、ロンドとリチェルカーレが文字通り飛んできたので無視して、頭上でふたりのロッドを受けた。
中心よりも拳ふたつ分ほど下を握り、攻撃に重さが乗っている。
それを、ヴァンツァーのロッドの両端ギリギリを狙って打ち込んでくる。
苦笑しながら、受けた力を流すように軽く身をかがめ、一気に押し返した。
「「──わっ」」
単純なパワーなら、ヴァンツァーの方がずっと強い。
現役の行者だった頃の倍近く生きているし、当時の自分と今戦ったら瞬殺されると思うが、子どもたちとは経験値が圧倒的に違う。
潜入ももちろんやったが、本業は荒事だ。
気配を消すことが得意なものは、気配を読むことにも長けている。
これに関しては、レティシアよりも巧みだったと断言出来るヴァンツァーだ。
子どもたちは普段歩くときにはほとんど足音をさせないが、息遣いや衣擦れ、武器が空気を切る音だって、立派な気配だ。
チラッ、と見た時計は5分が過ぎたところ。
──あと10分なら何とか。
ゾクッ、と肌が粟立って、反射的にロッドを後ろに突き出しそうになったヴァンツァーは、代わりに床を蹴った。
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前中後編ということは、次で終えるしかない・・・終わらなかったらおまけで(こら)
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