小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
パパなヴァンツァーでも。
**********
「「──いただきましゅ!」」
おおきな声でパチン、と手を叩いた双子に、シェラはくすっと笑って「どうぞ、召し上がれ」と返した。
満面の笑みで、瞳をきらきらさせている子どもたちの前には、食事の乗ったプレートがひとつ。
メニューはビーフシチューソースのかかったハンバーグと、星形の人参グラッセ、ブロッコリーとコーンのソテー、玉ねぎとピーマンの入ったナポリタンに、これも星形にしたご飯の上にはふりかけがかけられ、旗が立っている。
デザートはカップに入ったミルクプリン。
シェラ特製のお子様ランチに、幼いカノンとソナタは大興奮だ。
どれを食べても「おいしいね、おいしいね」とふたりで頷き合っている。
そんな様子を微笑ましく見つめていたシェラだったが、隣の男がいやに真剣な顔をしているのに気づき、思わず訊ねた。
「ヴァンツァー? どうした?」
何か口に合わないものがあっただろうか、と訝るシェラに、ヴァンツァーは言った。
「──俺もあれが食べたい」
「──は?」
「あれだ。カノンとソナタが食べているもの」
「・・・いや、メニューは同じだぞ」
「同じではない」
ほら、と行儀が悪いことは承知で、双子のプレートと、自分の前に並ぶ皿の数々を指さしている。
その美貌は、ちょっと顰められているようにも見える。
何だ、不機嫌なのか? と困惑したシェラだったが、とりあえず「分かった」と答えた。
実は全然分かっていないのだが、要はワンプレートに盛れ、ということらしいというのは理解した。
大人が満足するだけの量が乗る皿となると結構大きなものになるが、ないことはない。
「次はそうする」
「頼む」
そんな感じで、その日の夕飯の時間は過ぎていった。
+++++
子どもたちの食事は、食べやすいようワンプレートに盛ることが多い。
あちこちの皿に盛っていると、飽きてしまったり、零してしまったりすることが多いからだ。
ヴァンツァーに「同じものを」と言われた二日後に、シェラはヴァンツァーの前にワンプレートに盛った夕飯を出した。
これで満足だろう、と思った男だったが、「違う」と言う。
「はぁ? 一緒だろう?」
「違う。あちらは舟型のご飯にハート形人参のカレーがかかっていて旗も立っている。マッシュポテトはクマの形になっているし、コールスローは星形にまとめてある」
「・・・・・・」
要するに、とシェラは痛むこめかみを揉んだ。
「・・・お前は、『お子様ランチ』が食べたいのか」
こくん、と頷く黒い頭を見て、「分かった・・・」と、今度は完璧な理解をもって力なく答えた。
翌日の夕飯に半ばヤケクソになりながら、量以外は子どもたちと見た目も内容もまったく同じものを出すと、男はようやく満足気な顔になった。
──その歳でお子様ランチとか、何の悪夢だ・・・。
と、少し泣きたくなったシェラだったのだけれど。
「あー! パパもおこしゃまランチだ!」
「いっしょ!」
子どもたちの歓声に、「あぁ、一緒だ」とにこやかに答えている。
そして、きゃっきゃ言って笑っている子どもたちと一緒になって、ふりかけがかかり、旗が立てられたご飯を頬張っている。
ため息を零しながら自分用の『普通の』食事を摂り始めたシェラの耳に、こんな声が届いた。
「何となく、分かった」
何が、とシェラが返せば、男は骨にリボンの巻かれた骨付きチキンを手にして言った。
シェラの皿にも同じメニューがあるが、こちらにリボンはついていない。
「お子様ランチというのは、不思議と心が浮き立つものなのだな」
「──え?」
「お前の料理は何でも美味いが、お子様ランチになって出てくると、子どもたちの瞳がきらきらしているから」
「・・・・・・」
「何か理由があるのかと思っていた」
型抜きされた野菜やご飯を見ると、何だかワクワクして、食事がより楽しくなる気がする。
子どもたちが飽きないように工夫されているのだな、と真面目な顔をして目の前のお子様ランチを味わっている。
「人の顔色を窺うのは得意だが、あまり人の気持ちになってものを考えることはなかったからな──いや、考えても、理解が出来なかったと言うべきか・・・だから、子どもたちがどんなものを好んでいるのか、実感したかった」
そう言って微笑みを浮かべてシェラの方を向いた男は、直後大きく目を瞠ることになった。
「──シェラ・・・?」
ヴァンツァーが見つめた先では、丸くなっている菫色の瞳から、大粒の涙が零れている。
ヴァンツァーにしては珍しく音を立ててカトラリーを置き、シェラの顔を両手で包み込むようにして頬の涙を拭ってやる。
「・・・どうした?」
何か気に障ることでも言っただろうか、と眉を寄せている男に、はっとしたシェラは「悪い」と言って目元を拭った。
「擦るな」
赤くなる、と顔を顰めるヴァンツァーに手を取られたシェラは、瞬きをして眦に溜まっていた涙を零し、大きく深呼吸をした。
涙はそれで止まったが、理由が分からないヴァンツァーは困惑顔だし、子どもたちはびっくりして食事の手が止まってしまっている。
それに気づいたシェラは、双子に向かって苦笑した。
「・・・びっくりさせて、ごめんね。でも、痛かったり、哀しかったりしたわけじゃないから」
「それなら、どうした」
子どもたちの声を代弁するようなヴァンツァーの問いに、シェラは「う~ん」と首を捻った。
「私にもよく分からないんだが・・・」
たぶん、と前置きして言葉を続けた。
「嬉しかったんじゃないかと・・・」
だいぶ自信がなさげな口調だったが、口にしてみて「うん、そうだ」と頷いた。
「何かよく分からないけど、嬉しくて、感動したんじゃないかな」
「かんどー?」
「うれしい?」
何が? と首を傾げる双子に、シェラはまた「う~ん」と首を捻った。
「パパがね、ちょこーっと、かっこ良く見えたの」
かなり『ちょこーっと』を強調していたが、双子はきょとーん、とした顔をしている。
「パパ?」
「パパ、かっこいいよ?」
「やさしいし」
「ねぇ?」
何を今更? という感じで子どもたちは言うのだけれど、シェラにとっては世紀の大発見にも等しかったのだ、と伝えるのはなかなか難しい。
「ん~。そうだねぇ。パパ、やさしいよねぇ」
「「──うん!」」
えへへ、と嬉しそうに笑う双子を見て、シェラもつられて笑った。
「・・・酷く恥ずかしいことを言われている気がするのは、俺だけか?」
「ほう。お前でも恥ずかしいと思うことがあるのか」
「時々」
冗談なのか本気なのかよく分からない男の言葉にシェラはまた笑った。
そうして、子どもたちもまた楽しそうに笑い、ヴァンツァーも苦笑に近かったけれど笑みを浮かべて、そんな感じで夕飯の時間は過ぎていったのだった。
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大人用のお子様ランチだってあるくらいですから。
ヤツの魔力はすげーですよ。
「「──いただきましゅ!」」
おおきな声でパチン、と手を叩いた双子に、シェラはくすっと笑って「どうぞ、召し上がれ」と返した。
満面の笑みで、瞳をきらきらさせている子どもたちの前には、食事の乗ったプレートがひとつ。
メニューはビーフシチューソースのかかったハンバーグと、星形の人参グラッセ、ブロッコリーとコーンのソテー、玉ねぎとピーマンの入ったナポリタンに、これも星形にしたご飯の上にはふりかけがかけられ、旗が立っている。
デザートはカップに入ったミルクプリン。
シェラ特製のお子様ランチに、幼いカノンとソナタは大興奮だ。
どれを食べても「おいしいね、おいしいね」とふたりで頷き合っている。
そんな様子を微笑ましく見つめていたシェラだったが、隣の男がいやに真剣な顔をしているのに気づき、思わず訊ねた。
「ヴァンツァー? どうした?」
何か口に合わないものがあっただろうか、と訝るシェラに、ヴァンツァーは言った。
「──俺もあれが食べたい」
「──は?」
「あれだ。カノンとソナタが食べているもの」
「・・・いや、メニューは同じだぞ」
「同じではない」
ほら、と行儀が悪いことは承知で、双子のプレートと、自分の前に並ぶ皿の数々を指さしている。
その美貌は、ちょっと顰められているようにも見える。
何だ、不機嫌なのか? と困惑したシェラだったが、とりあえず「分かった」と答えた。
実は全然分かっていないのだが、要はワンプレートに盛れ、ということらしいというのは理解した。
大人が満足するだけの量が乗る皿となると結構大きなものになるが、ないことはない。
「次はそうする」
「頼む」
そんな感じで、その日の夕飯の時間は過ぎていった。
+++++
子どもたちの食事は、食べやすいようワンプレートに盛ることが多い。
あちこちの皿に盛っていると、飽きてしまったり、零してしまったりすることが多いからだ。
ヴァンツァーに「同じものを」と言われた二日後に、シェラはヴァンツァーの前にワンプレートに盛った夕飯を出した。
これで満足だろう、と思った男だったが、「違う」と言う。
「はぁ? 一緒だろう?」
「違う。あちらは舟型のご飯にハート形人参のカレーがかかっていて旗も立っている。マッシュポテトはクマの形になっているし、コールスローは星形にまとめてある」
「・・・・・・」
要するに、とシェラは痛むこめかみを揉んだ。
「・・・お前は、『お子様ランチ』が食べたいのか」
こくん、と頷く黒い頭を見て、「分かった・・・」と、今度は完璧な理解をもって力なく答えた。
翌日の夕飯に半ばヤケクソになりながら、量以外は子どもたちと見た目も内容もまったく同じものを出すと、男はようやく満足気な顔になった。
──その歳でお子様ランチとか、何の悪夢だ・・・。
と、少し泣きたくなったシェラだったのだけれど。
「あー! パパもおこしゃまランチだ!」
「いっしょ!」
子どもたちの歓声に、「あぁ、一緒だ」とにこやかに答えている。
そして、きゃっきゃ言って笑っている子どもたちと一緒になって、ふりかけがかかり、旗が立てられたご飯を頬張っている。
ため息を零しながら自分用の『普通の』食事を摂り始めたシェラの耳に、こんな声が届いた。
「何となく、分かった」
何が、とシェラが返せば、男は骨にリボンの巻かれた骨付きチキンを手にして言った。
シェラの皿にも同じメニューがあるが、こちらにリボンはついていない。
「お子様ランチというのは、不思議と心が浮き立つものなのだな」
「──え?」
「お前の料理は何でも美味いが、お子様ランチになって出てくると、子どもたちの瞳がきらきらしているから」
「・・・・・・」
「何か理由があるのかと思っていた」
型抜きされた野菜やご飯を見ると、何だかワクワクして、食事がより楽しくなる気がする。
子どもたちが飽きないように工夫されているのだな、と真面目な顔をして目の前のお子様ランチを味わっている。
「人の顔色を窺うのは得意だが、あまり人の気持ちになってものを考えることはなかったからな──いや、考えても、理解が出来なかったと言うべきか・・・だから、子どもたちがどんなものを好んでいるのか、実感したかった」
そう言って微笑みを浮かべてシェラの方を向いた男は、直後大きく目を瞠ることになった。
「──シェラ・・・?」
ヴァンツァーが見つめた先では、丸くなっている菫色の瞳から、大粒の涙が零れている。
ヴァンツァーにしては珍しく音を立ててカトラリーを置き、シェラの顔を両手で包み込むようにして頬の涙を拭ってやる。
「・・・どうした?」
何か気に障ることでも言っただろうか、と眉を寄せている男に、はっとしたシェラは「悪い」と言って目元を拭った。
「擦るな」
赤くなる、と顔を顰めるヴァンツァーに手を取られたシェラは、瞬きをして眦に溜まっていた涙を零し、大きく深呼吸をした。
涙はそれで止まったが、理由が分からないヴァンツァーは困惑顔だし、子どもたちはびっくりして食事の手が止まってしまっている。
それに気づいたシェラは、双子に向かって苦笑した。
「・・・びっくりさせて、ごめんね。でも、痛かったり、哀しかったりしたわけじゃないから」
「それなら、どうした」
子どもたちの声を代弁するようなヴァンツァーの問いに、シェラは「う~ん」と首を捻った。
「私にもよく分からないんだが・・・」
たぶん、と前置きして言葉を続けた。
「嬉しかったんじゃないかと・・・」
だいぶ自信がなさげな口調だったが、口にしてみて「うん、そうだ」と頷いた。
「何かよく分からないけど、嬉しくて、感動したんじゃないかな」
「かんどー?」
「うれしい?」
何が? と首を傾げる双子に、シェラはまた「う~ん」と首を捻った。
「パパがね、ちょこーっと、かっこ良く見えたの」
かなり『ちょこーっと』を強調していたが、双子はきょとーん、とした顔をしている。
「パパ?」
「パパ、かっこいいよ?」
「やさしいし」
「ねぇ?」
何を今更? という感じで子どもたちは言うのだけれど、シェラにとっては世紀の大発見にも等しかったのだ、と伝えるのはなかなか難しい。
「ん~。そうだねぇ。パパ、やさしいよねぇ」
「「──うん!」」
えへへ、と嬉しそうに笑う双子を見て、シェラもつられて笑った。
「・・・酷く恥ずかしいことを言われている気がするのは、俺だけか?」
「ほう。お前でも恥ずかしいと思うことがあるのか」
「時々」
冗談なのか本気なのかよく分からない男の言葉にシェラはまた笑った。
そうして、子どもたちもまた楽しそうに笑い、ヴァンツァーも苦笑に近かったけれど笑みを浮かべて、そんな感じで夕飯の時間は過ぎていったのだった。
**********
大人用のお子様ランチだってあるくらいですから。
ヤツの魔力はすげーですよ。
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