小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
軟派なヴァンツァーを書きたくなった(コラ)
合言葉は────『目指せ、女の敵』(オイ)
合言葉は────『目指せ、女の敵』(オイ)
**********
その男を視界に入れた瞬間、シエル──シェラは内心舌打ちをした。
くるりとウェーブのかかった栗色の髪と明るい緑の瞳の美しい少女の眉間に、一瞬くっきりと深い皺が寄る。
けれど、客に話しかけられてすぐに営業スマイルを浮かべる。
見れば分かる商品の説明を求めてくる中年の男は、鼻の下を伸ばしてショップの制服であるミニスカートから伸びるシェラの真っ白い太腿を見つめていた。
──殴り飛ばしてやりたい。
額に青筋を浮かべながらも、相手は客だし、すぐ近くにはあの男が──そんな風に自分を宥めていたシェラだったのだが。
「──きみ」
──他にも店員はいるのに、どうして私なんだ!
キレかけたシェラだったが、髪の色も瞳の色も変えているのだからバレはしないだろう、と引きつり気味の笑顔を浮かべて男に向き直った。
目の前に立つのは、頭ひとつ近く身長の高い、ちょっとお目にかかれないような美貌の主だった。
まず、緩い癖のある黒髪と白皙のコントラストが目を引き、うっかりサファイアのような青い瞳を見つめてしまったらその瞬間恋に落ちてしまうような、少し影のある妖艶なまでの美貌。
当然のように鼻梁は高く、形の良い唇から覗く白い歯は几帳面なまでに美しく並んでいる。
軽薄さとは無縁の、ストイックなまでに上品な顔立ちの男だ。
「・・・なんでしょうかぁ、お客様ぁ」
目の前の男が嫌うであろう間延びした喋り方で受け答えをすれば、「きみ・・・」と少し驚いたように藍色の瞳が丸くなる。
──マズい・・・バレたか・・・?
冷や汗をかいたシェラの耳に、低く魅力的な声が届く。
「──以前にどこかで会ったか?」
真剣な表情でそんな軟派なことを言う男にイラッとしたシェラとは対照的に、周囲にいた女性客は黄色い大歓声を上げた。
確かにこの男の容姿でそんなことを言われようものなら、女ならば10人が10人靡いたっておかしくない。
思わず耳を塞ぎたくなったシェラだったが、どうやらバレていないらしい、と分かって少しばかり胸を撫で下ろした。
「い、いいえ~、初対面ですぅ・・・」
元々の地声もどちらかと言えば女声だったが、努めて高い声を出して答えれば、男は「そうか」と呟いたものの、じっとこちらを見つめてきていて居心地が悪い。
「あ、あのぉ・・・ご用件は何でしょうかぁ~?」
「──あぁ、すまない。店主にこれを渡してくれ」
言って男が寄越してきたのは、男の腕でひと抱えもある薔薇の花束だった。
さきほど以上の、悲鳴のような女性の歓声に、頭痛がしてくる。
──気持ちは分かるが、落ち着け・・・。
濃灰のスーツに身を包んだ長身美形が薔薇の花束なんて、ちょっとデキ過ぎだ。
「あのぉ・・・これはぁ・・・」
「ヴァンツァー・ファロットから、と伝えてくれれば分かる」
僅かに微笑みを浮かべる顔は銀幕スターも裸足で逃げ出すほとに美しかったが、シェラは花束をひったくって速くバックヤードに逃げ込みたかった。
「は、はいぃ~。必ずお伝えしますぅ~」
用は済んだ、とばかりに踵を返そうとしたシェラだったが、両腕いっぱいの花束を抱えた手を掴まれた。
「──うあっ!」
思わず素で声を上げてしまったところ、犯人である男は「すまない」と、確かにすまなさそうな表情を浮かべた。
そんな顔を見せられたら、大半の女は手を掴むどころか、胸を揉ませるくらいは許したかも知れない。
だが、生憎シェラは男だったし、この男に好意を抱いてもいない。
「・・・きみ、本当にどこかで・・・」
「初・対・面・ですっ!!」
7センチヒールの踵で思い切り脚を踏んづけてやろうかと思ったシェラだったけれど、イラッとするほどの身長差の男を睨みつけるにとどめた。
──この男は、本当に私の神経を逆撫でするのが上手いなっ!!
触るな! と怒鳴ってやりたいのをどうにか堪えて笑顔を浮かべていたシェラだったが、瞳の奥を覗くように見つめられてさすがに居心地が悪くなる。
それに、いくら変装──正確には『女装』だ──していたとしても、いつ露見してしまうか分かったものではない。
「それではお客様ぁ、失礼いたしま──」
「このあと時間はあるか?」
「──は? え? は?」
あまりのことに何を言われたのかさっぱり分からないでいるシェラだったが、店内の女性客はやはり大歓声を上げている。
シェラ目当てにやってきている男性客は長身で、美形で、しかも金まで持っている男に嫉妬と羨望と呪詛の視線を送っている。
「少し付き合って欲しい」
「・・・・・・」
目の前の美貌を、形が変わるくらい殴りたくなったシェラだった。
けれど、フーフーと深呼吸をしてどうにか堪える。
「・・・ま、まだ仕事中ですのでぇ・・・」
「なら、きみが速く上がれるように、店ごと買い占めようか」
つんざくような女性の悲鳴──ただし黄色い──に鼓膜が破れるかと思いながら、シェラは薄く笑みを浮かべている男を睨みつけた。
この男は、それが出来るだけの財力を持っている。
それはよく知っているが、ひけらかすようなその態度が気に食わない。
「・・・ま、まぁ・・・ご冗談を・・・」
「──冗談?」
心外だ、という顔になった男を見て、シェラは「しまった」と自分の失言を後悔した。
「まぁいい。では、これと、これ。わたしの執務室まで、デリバリーを頼む」
「──は・・・?」
「釣りはいらない。──これはチップだ」
──商品代金よりも多いチップってなんだっ!!
やはり怒鳴りそうになったシェラだったけれど、話を聞かない男は薔薇の花束の中に紙幣を潜り込ませると、さっさと背を向けて去ってしまった。
場はしばらく騒然としていたが、あれだけの衆人環視の中デリバリーの依頼を受けたとあっては行かないわけにはいかない。
バックヤードに花束を置いたシェラは、痛む胃を押さえつつ、注文の品──軽食と珈琲だ──を手に、男がいる最上階のフロアへと向かったのだった。
**********
んー、会社の重役ヴァンツァーと、その会社のビルの一部で営業しているショップで働く、ちょっとした因縁のあるシェラたんのお話?
シェラたんは顔バレすると困るので、ウィッグにカラコン、女装で働いてますが、あんまり美少女なもんだから逆に目立っちゃってこまっちんぐな感じで。
きっちり書いている時間がないので、雰囲気だけ伝わってくれ(笑)
その男を視界に入れた瞬間、シエル──シェラは内心舌打ちをした。
くるりとウェーブのかかった栗色の髪と明るい緑の瞳の美しい少女の眉間に、一瞬くっきりと深い皺が寄る。
けれど、客に話しかけられてすぐに営業スマイルを浮かべる。
見れば分かる商品の説明を求めてくる中年の男は、鼻の下を伸ばしてショップの制服であるミニスカートから伸びるシェラの真っ白い太腿を見つめていた。
──殴り飛ばしてやりたい。
額に青筋を浮かべながらも、相手は客だし、すぐ近くにはあの男が──そんな風に自分を宥めていたシェラだったのだが。
「──きみ」
──他にも店員はいるのに、どうして私なんだ!
キレかけたシェラだったが、髪の色も瞳の色も変えているのだからバレはしないだろう、と引きつり気味の笑顔を浮かべて男に向き直った。
目の前に立つのは、頭ひとつ近く身長の高い、ちょっとお目にかかれないような美貌の主だった。
まず、緩い癖のある黒髪と白皙のコントラストが目を引き、うっかりサファイアのような青い瞳を見つめてしまったらその瞬間恋に落ちてしまうような、少し影のある妖艶なまでの美貌。
当然のように鼻梁は高く、形の良い唇から覗く白い歯は几帳面なまでに美しく並んでいる。
軽薄さとは無縁の、ストイックなまでに上品な顔立ちの男だ。
「・・・なんでしょうかぁ、お客様ぁ」
目の前の男が嫌うであろう間延びした喋り方で受け答えをすれば、「きみ・・・」と少し驚いたように藍色の瞳が丸くなる。
──マズい・・・バレたか・・・?
冷や汗をかいたシェラの耳に、低く魅力的な声が届く。
「──以前にどこかで会ったか?」
真剣な表情でそんな軟派なことを言う男にイラッとしたシェラとは対照的に、周囲にいた女性客は黄色い大歓声を上げた。
確かにこの男の容姿でそんなことを言われようものなら、女ならば10人が10人靡いたっておかしくない。
思わず耳を塞ぎたくなったシェラだったが、どうやらバレていないらしい、と分かって少しばかり胸を撫で下ろした。
「い、いいえ~、初対面ですぅ・・・」
元々の地声もどちらかと言えば女声だったが、努めて高い声を出して答えれば、男は「そうか」と呟いたものの、じっとこちらを見つめてきていて居心地が悪い。
「あ、あのぉ・・・ご用件は何でしょうかぁ~?」
「──あぁ、すまない。店主にこれを渡してくれ」
言って男が寄越してきたのは、男の腕でひと抱えもある薔薇の花束だった。
さきほど以上の、悲鳴のような女性の歓声に、頭痛がしてくる。
──気持ちは分かるが、落ち着け・・・。
濃灰のスーツに身を包んだ長身美形が薔薇の花束なんて、ちょっとデキ過ぎだ。
「あのぉ・・・これはぁ・・・」
「ヴァンツァー・ファロットから、と伝えてくれれば分かる」
僅かに微笑みを浮かべる顔は銀幕スターも裸足で逃げ出すほとに美しかったが、シェラは花束をひったくって速くバックヤードに逃げ込みたかった。
「は、はいぃ~。必ずお伝えしますぅ~」
用は済んだ、とばかりに踵を返そうとしたシェラだったが、両腕いっぱいの花束を抱えた手を掴まれた。
「──うあっ!」
思わず素で声を上げてしまったところ、犯人である男は「すまない」と、確かにすまなさそうな表情を浮かべた。
そんな顔を見せられたら、大半の女は手を掴むどころか、胸を揉ませるくらいは許したかも知れない。
だが、生憎シェラは男だったし、この男に好意を抱いてもいない。
「・・・きみ、本当にどこかで・・・」
「初・対・面・ですっ!!」
7センチヒールの踵で思い切り脚を踏んづけてやろうかと思ったシェラだったけれど、イラッとするほどの身長差の男を睨みつけるにとどめた。
──この男は、本当に私の神経を逆撫でするのが上手いなっ!!
触るな! と怒鳴ってやりたいのをどうにか堪えて笑顔を浮かべていたシェラだったが、瞳の奥を覗くように見つめられてさすがに居心地が悪くなる。
それに、いくら変装──正確には『女装』だ──していたとしても、いつ露見してしまうか分かったものではない。
「それではお客様ぁ、失礼いたしま──」
「このあと時間はあるか?」
「──は? え? は?」
あまりのことに何を言われたのかさっぱり分からないでいるシェラだったが、店内の女性客はやはり大歓声を上げている。
シェラ目当てにやってきている男性客は長身で、美形で、しかも金まで持っている男に嫉妬と羨望と呪詛の視線を送っている。
「少し付き合って欲しい」
「・・・・・・」
目の前の美貌を、形が変わるくらい殴りたくなったシェラだった。
けれど、フーフーと深呼吸をしてどうにか堪える。
「・・・ま、まだ仕事中ですのでぇ・・・」
「なら、きみが速く上がれるように、店ごと買い占めようか」
つんざくような女性の悲鳴──ただし黄色い──に鼓膜が破れるかと思いながら、シェラは薄く笑みを浮かべている男を睨みつけた。
この男は、それが出来るだけの財力を持っている。
それはよく知っているが、ひけらかすようなその態度が気に食わない。
「・・・ま、まぁ・・・ご冗談を・・・」
「──冗談?」
心外だ、という顔になった男を見て、シェラは「しまった」と自分の失言を後悔した。
「まぁいい。では、これと、これ。わたしの執務室まで、デリバリーを頼む」
「──は・・・?」
「釣りはいらない。──これはチップだ」
──商品代金よりも多いチップってなんだっ!!
やはり怒鳴りそうになったシェラだったけれど、話を聞かない男は薔薇の花束の中に紙幣を潜り込ませると、さっさと背を向けて去ってしまった。
場はしばらく騒然としていたが、あれだけの衆人環視の中デリバリーの依頼を受けたとあっては行かないわけにはいかない。
バックヤードに花束を置いたシェラは、痛む胃を押さえつつ、注文の品──軽食と珈琲だ──を手に、男がいる最上階のフロアへと向かったのだった。
**********
んー、会社の重役ヴァンツァーと、その会社のビルの一部で営業しているショップで働く、ちょっとした因縁のあるシェラたんのお話?
シェラたんは顔バレすると困るので、ウィッグにカラコン、女装で働いてますが、あんまり美少女なもんだから逆に目立っちゃってこまっちんぐな感じで。
きっちり書いている時間がないので、雰囲気だけ伝わってくれ(笑)
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