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小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
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11月22日は『いい夫婦の日』でした。あまりにもぐったりしていて、頭の中では小ネタを考えていたんですが、文章に書き起こす気力がなく。遅刻もいいところですが、せっかく考えたので、ちょこっと書きましょうかね。


**********

「・・・いいなぁ、お前は」

舌っ足らずな口調で、シェラはポソッと呟いた。

「胸板厚くて。そのくせ腹バッキバキで腰細いし」

薄手のセーターを着ている男の肩口に頬を預け、さわさわと腹直筋や腹斜筋を撫でている。
女相手にやったら猥褻罪だろうが、相手は男だし、しかも一応『夫』だし問題ない、とシェラは逞しい身体に腕を回して背中も撫で始めた。

「こら。くすぐったい」

あまり止める気はないのか、クスッと笑った男の声は穏やかで甘い。
膝の上に横抱きに乗せているシェラの身体に軽く腕を回し、銀の頭に唇を付けるようにして話す。

「私も、こういうのがいい・・・」
「腰はお前の方が細いだろう」
「そういうことじゃないんだ。これだけ筋骨質なのに大柄なわけじゃないし、何なんだお前」

ぶつくさ文句を言っているが、ほとんど口の中でモゴモゴ言っているだけで、まるで寝る前に愚図っている子どものようだ──否、実際シェラは今、とてつもない眠気を感じていた。

「・・・子どもたちがお前に抱きつくの、ちょっと分かる」
「ん?」
「私だって男だからな。バリバリ働いて、家事も完璧にこなして、子どもたちに尊敬される親でありたいと思うんだ」
「十分だと思うが」
「うるさい黙れ」

悪態をつきながらも、ヴァンツァーに抱きつくことはやめないシェラだった。

「それなのに、お前がこんな身体してるから・・・あったかいし、異様に落ち着くし」

それに、と半ば夢の中で言葉を紡ぐ。

「ここは、絶対に護ってくれる安全な場所で・・・すごく、安心する」

子どもたちはきっと、そんなこの男の強さとやさしさを感じて慕っているのだろう。
シェラからの珍しい褒め言葉に、ヴァンツァーは藍色の目を軽く瞠り、やがてゆっくりと細めた。

「少し眠れ」
「だめだ。もうちょっとしたら夕飯の用意を」
「まだ大丈夫だ」
「でも、子どもたちのおやつも」
「籠のマフィンだろう?」
「飲み物も」
「ちゃんと起こしてやるから」

うーむー、と首を振ってウダウダしていたシェラだったが、髪を撫でられ、軽く背中を叩かれているうちに眠りに落ちた。


+++++


ロンドが玄関のドアを開けようとしたところ、妹ふたりが「「しぃ~、だよ」」と声を揃えた。

「どうかしたのか?」

不思議そうに首を傾げるフーガに、アリアとリチェルカーレは「「しぃ~」」と唇の前で人差し指を立てた。

「ねんねなの」
「──ねんね?」
「シェラ、ねんねなの」

まだ3時過ぎだ。
こんな時間に? と顔を見合わせたロンドとフーガだったが、妹たちの言葉に従ってそっと家に入り、リビングに続く扉を開けてその言葉が真実であることを知った。
相変わらず、とんでもない感覚を持った妹たちには驚かされることばかりだ。

「おかえり」

子どもたちに気付いたヴァンツァーが、声を飛ばす。
距離は離れているが、すぐ耳元で喋られているような、不思議な感覚を子どもたちは覚えた。
きっと、シェラを起こさないように、という配慮だろう。
いつもならばおやつを用意して、夕飯の下準備も始めようかという頃なのに、と考え、一瞬、具合が悪いのかと心配になったフーガだったが、それにしては父の表情が穏やかだ。

「ただ寝ているだけだよ」

そう言われて、ほっと肩から力が抜いた子どもたちである。

「お部屋でおやつ食べてるから、シェラはゆっくり寝かせてあげてね」

ロンドが、父の真似をして声を飛ばす。
何気なく使われたその技術に、横にいたフーガは大きく目を瞠った。
自分も使ってみたいと思っていて、なかなか成功しない技だったからだ。
そんな弟の様子に気付いているのかいないのか、ロンドはキッチンに用意されていた籠いっぱいのマフィンを嬉しそうに抱えた。
アリアは冷蔵庫からリンゴジュースを、リチェルカーレが取ろうとしたコップはフーガが代わりに食器棚から取り出して渡してやった。

「久し振りに、夕飯は外に食べに行こう」

父の言葉に頷いた四つ子は、静かに子ども部屋へと向かった。


+++++


──それからしばらく後。

「シェラ、そろそろ起きろ」
「んー・・・いまなんじぃ・・・」
「もうすぐ6時かな」
「んむぅ・・・ろく・・・」

夢現の中で呟いて、次の瞬間ガバリッ! と起き上がったシェラだ。

「──はぁ?!」
「おはよう。よく眠っていたな」

にこやかな男を思いきり睨み、「6時だと?!」とシェラは声を荒げた。

「なぜもっと早く起こさない!」
「子どもたちが、ゆっくり寝かせてやってくれと言っていたからな」
「・・・・・・」

シェラが怒れなくなる言葉の選び方は心得ているし、それは事実でもあった。
予想通り渋面にはなっても、それ以上怒鳴ってはこないシェラの頭をポンポンと撫で、ヴァンツァーは白い額にキスを落とした。

「夕飯は外へ食べに行こう」
「でも」
「もちろん、俺も子どもたちもお前の作った料理は大好物だが、たまにはいいだろう」
「・・・疲れてるとか、そんなんじゃないんだ」
「分かってるよ」

ただ、安心して、眠くなって・・・本当にそれだけなのだ。

「シェラ、おはよー」
「おはよー、シェラ」

若干へこんでいたシェラの元へ、次女と三女が駆けてくる。
シェラが寝ていることを感じ取ったように、起きたのも分かったのかも知れない。
ヴァンツァーに抱きかかえられていた状態からひとりで座り直し、子どもたちを迎える。

「おはよう。ごめんね、寝ちゃってて」
「「チョコのマフィン、おいしかった!」」
「そう、良かったぁ」
「きょうはね、おそとでごはんなんだって」
「パパがゆってた」
「うん・・・ちょっと寝すぎちゃった」

ごめんね、と苦笑するシェラに、アリアとリチェルカーレは首を振った。

「アリアも、パパにだっこされるとねむくなるもの」
「リチェも」
「パパの手は、魔法の手だと思う」
「トントンされると、すぐ眠くなる」

娘たちだけでなく、後からやってきた息子たちも同じようなことを言っていて、シェラはクスッと笑った。

「そうだね。皆を護ってくれる、魔法の手だね」
「シェラのおてても」
「まほうのおてて」
「──ん?」

娘ふたりの言葉に、シェラは軽く首を傾げた。

「にんじんもピーマンも、たまねぎもおいしい!」
「しいたけもトマトも、みんなたべられるよ!」

娘たちの言葉を受け、シェラはヴァンツァーの耳元でささやいた。

「──ピーマン、美味しいって」
「不味いと言った覚えはない」
「美味しいと不味くないはだいぶ違うぞ」
「言っておくが、俺はどれだけ体調が悪い時でも、たとえ甘いものでも、お前が作って俺の前に出したものをひと口も食べなかったことはないぞ」
「残したらお尻ペンペンだからな」

ニヤッ、と人の悪い笑みを浮かべたシェラは、「さぁ、コートを持っておいで」と子どもたちを促した。
自分もコートを取りに行こうと振り向いたシェラは、ふわりと抱き締められて目を瞠った。

「ヴァンツァー?」
「感謝している」
「──え・・・?」
「毎日の食事を考えて作るのは大変だと思うが、お前のおかげで子どもたちはすくすく育っているし、俺の食べるものも偏らない」
「・・・」
「また明日から、よろしく頼む」

思いがけない言葉に、シェラはしばし言葉を失った。
そして、ゆっくりと広い背中を抱き返したのだった。


**********

大切なのは、思いやりの心。
結婚して何年経ったって、それは変わらないと思うのです。
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