ということで、小ネタをば。
幼馴染モノで行きましょうかね。
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「ふふっ。花束が似合う男の人って、珍しいよね」
「そりゃどーも」
花屋を営む幼馴染から受け取った赤い薔薇の花束に目を落とした男は、何の気なしに「13本」と呟いた。
「あ、うん。13本の薔薇はね」
「『永遠の友情』、だろ」
「──うん、そう! すごいねヴァンツァー、よく知ってるね!」
きらきらと菫色の瞳を輝かせる天使のような銀髪の少女──否、青年に、ヴァンツァーと呼ばれた美貌の男は軽く嘆息した。
「こっちが聞いてもいないのに、お前がペラペラ説明してくれるからな」
「言ったっけ?」
「一度聞けば覚える」
「わー、頭いいんだ!」
にこにこ機嫌良さそうに笑っている幼馴染に、ヴァンツァーも笑みを──美しいけれど胡散臭い笑みを浮かべた。
「鳥頭のシェラさんより、いくらかマシ程度には」
「・・・アホ毛立ってる?」
「は?」
「鳥みたいにぽよぽよした毛が生えてるってことじゃないの?」
頭のてっぺんを押さえながらちょっと恥ずかしそうにしている幼馴染を、珍しい動物でも見るかのようにしげしげと眺めるヴァンツァー。
「・・・また何か私のこと馬鹿にしてる?」
「してない。むしろ尊敬してる」
「──本当?!」
「ほんと、ほんと」
ほわぁ、と表情を緩めたシェラは、嬉しそうな顔のまま「お誕生日おめでとう!」と告げた。
言われた男は「別にめでたい年でもないけどな」と大した感慨もなく返す。
「今日はごちそうたくさん作ってるからね!」
「どーも」
両親が多忙で家にいることが少なかったため、ヴァンツァーは幼い頃からこの友人の家で過ごすことが多かった。
成人して一人暮らしを始めてからはその機会も少なくなったが、ヴァンツァーの誕生日である4月1日は毎年のようにお呼びがかかる。
12月生まれのシェラとは同学年だが、誕生日の早いシェラは「私の方がちょっとお兄さん」という意識からか、何かとこの幼馴染を構いたがる。
仕事などで予定が合わない年でも、花束や花籠を贈ることが多かった。
「今日は特別にピーマンなしにしたから!」
「別に食えるけど」
「今日くらいは眉間にシワ寄せなくても良い食事を作ってしんぜよう」
「だから食えるって」
おっちょこちょいというか、不幸体質というか。
シェラは歩くトラブル製造機だとヴァンツァーは思っている。
何度かその窮地を救った経緯から、「受けた恩はカラダで返す」とシェラがハウスキーパーよろしくヴァンツァーを家を訪れたことがあった。
男の一人暮らしでしっちゃかめっちゃかだろうと思っていたが、高層マンションの広い自宅は少し殺風景なほど整頓されていてシェラは呆然としたことがあった。
代わりに手料理を振る舞ったら、普段悪態しかつかないヴァンツァーの口から珍しく「美味い」という素直な感想が返ってきて、シェラはそれから何度か食事を作りにヴァンツァーの家を訪れている。
「今日はね、ハンバーグとグラタンだよ!」
「はいはい」
「ヴァンツァー、ハンバーグ好きだもんね」
「お前が好きなんだろ」
とはいえ、シェラの作るデミグラスソースはちょっとした高級レストランの味にも引けを取らない。
「あとね、人参のポタージュとちょっと奮発してローストビーフサラダ!」
霜降りのやつだよー、とにこにこ笑っている幼馴染に、「無理するなよ」と返した男は、花束とは逆の手に持っていた筒を渡した。
「──なに、これ?」
「シャンパン」
「──え?!」
「間違っても振るなよ」
「・・・」
持ち運び用のワインクーラーに入ったシャンパンを渡されたシェラは、不安そうな顔でそれを見つめている。
「何だよ」
「・・・そういえば、お酒用意してなかったなぁ、と思って・・・」
さっきまで機嫌良さそうに笑っていたのに、どこか泣きそうだ。
「お前たちはほとんど飲まないだろう」
「でも、ヴァンツァーのお誕生会なのに!」
「ただの乾杯用だ。仕事でもないのに、そんなに飲む気はない」
「うん・・・」
ぎゅっとワインクーラーを抱えたシェラは、ふるふるっと頭を振って笑みを浮かべた。
「それじゃあ、どーぞ!」
「お邪魔します」
ハンバーグとグラタンが焼き上がる間、ヴァンツァーはシェラの兄と珈琲を飲んで当たり障りのない会話をした。
心尽くしの、暖かな家庭料理が並べられた食卓に自分が相応しいとはどうしても思えないヴァンツァーではあったけれど。
「わぁ、このお酒、ピンク色で可愛いね!」
少し甘めのその味をいたく気に入ったシェラはすっかり気分を良くしたようで、ヴァンツァーはさして表情を動かさず料理を口に運びながら「そうか」とだけ返した。
──その年の終わりも近くなった頃。
シェラには大量のチューリップの花が送られることとなる。
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この幼馴染設定、個人的に結構好きです。
ヴァンツァー、生まれてきてくれてありがとう!